ロトロトロトというスマホロトムの着信音がうっすらと響いてきて、リコの視界はぼんやりと、そして少しずつ広がった。目覚めたばかりだというのになぜか視線が高い。そしてなんだか体の重力が右に働いている。右から声もする。顔をゆっくりと向けると、スマホロトムに向いた紅い瞳が見えた。
「分かった。じゃあリコ起こしてすぐ行くよ」
「一緒なのか?」
「ああ。部屋で話してたら寝ちゃって。ほら、ここに…」
そう言ったロイが顔を左に向けると、ぽかんと口を開けたリコが目をぱちっ、ぱちっ、と瞬きしていた。次にロイの言葉が出た直後、リコは状況を理解する。
「あ、リコ起きた?マードックがごはんできたって」
一瞬間が空いて、リコの顔はぼっと赤くなった。そしてロイから離れてベッドに仰向けに倒れた。
「ちょっ、大丈夫?」
「大丈夫…だけど…!あれ…!?なんで!?ロイ…!?」
「落ち着いてリコ。深呼吸」
「う、うん…」
「はははー。落ち着いたら来いよー」
マードックが通話を切ると、リコは起き上がってロイと一緒に深呼吸した。激しく跳ねていた心臓はちょっとばかり落ち着いて、眠りに落ちる前の記憶が思い出されてきた。そう、最近話題のオタチが芸をする動画を二人で見ていたのだ。そして色々とお話しているうちに気づいたらリコは意識を失っていた。その結果、ロイの肩に頭を乗せてしまったというわけだ。落ち着いて情報が整理されると、リコはまた顔を赤くした。
「じゃあ私…ずっとロイの肩で…」
「そうだね。横にしてあげた方がいいかなって思ったんだけど、ぐっすりだったから…」
それに…ともう一つの理由を言いそうになった口をロイは押さえた。頬が少し赤らんでいるが、リコは俯いているので全く気づかない。ロイの肩で、ぐっすり。リコの心臓は跳ねる跳ねる。
「あー…とりあえずごはん食べに行こ。みんな待たせちゃうから」
「ソウダネ」
二人はご飯を食べにミーティングルームに向かった。廊下を歩く間、少しばかり距離が空いていた。ご飯を終えて、自分の部屋に戻ったリコはロイのことを考えながらベッドに横になった。最近は毎晩この調子だ。そして今日はロイの肩で眠るなんていうビッグイベントが起きてしまい、いつも以上に悶々としている。
「…ロイへの気持ち、このまま育てていいのかな…今はまだ、何も終わってないのに…」
ラクリウムの謎を解き明かすことも浄化もまだ終わってない。なのにこんな気持ちを持っていいのかな。リコは不安を募らせていた。考えて、考えて、結局答えが出ないままリコはまた眠りに落ちていた。
次に目が覚めたのは、マスカーニャの声がしてからだ。声といっても寝言のようなもの。しかし、体を起こしたリコの目には衝撃的な光景が広がっていた。
「え…?ここって…学校の寮…?」
隣に目をやると、アンらしくないくらいえらく片付いたベッドがぽつんと置かれている。机の上もやたらと小綺麗になっていて、もうしばらく使っていないみたいだ。
「もしかして…ブルーベリー学園に行ったから…あれ…?でも、なんで私ここに…?マスカーニャ、起きて」
リコはマスカーニャの体を両手で揺らして起こした。不満げに起きたマスカーニャが起き上がると、布団の中からテブリムも目を覚まして出てきた。
「あれ…?テブリム…?なんで…?進化…したよね?」
リコの問いかけに対してテブリムは「なに言ってるの?」と言わんばかりに首を傾げた。そして部屋にカルボウやパゴゴの姿はない。まさかと思い、リコは机の上を見た。そこにあるモンスターボールは、パゴゴのものだ。
「パゴゴ、出てきて!出てきて!」
反応はない。パゴゴはボールの中で眠ったままのようだ。それから手持ちのボールを何度か数えるも、カルボウのボールは無かった。リコはその場に崩れ落ちた。
「どうして…?私…ロイと一緒にまた旅に出て…みんなと再会して、新しい仲間も迎えて、いっしょに戦ってきたのに…なんで…」
その場で泣いていたリコの背をマスカーニャが撫で、テブリムと共に彼女に寄り添った。しばらくして、心の整理がつかないまま、リコは制服に着替えて朝ごはんを食べて校舎に向かった。授業はもう既に始まっていて、教室に入ると先生に怒られてしまった。隣の席は誰も座っていない。やっぱりアンはもうブルーベリー学園に行ってしまった後らしい。授業の内容は全く耳に入らない。ロイと再起して始めた旅は全て嘘だったのかな。あの日、本当はロイは来なかった?それともロイの誘いを断っていた?ひとりだけまた、取り残された時にいる。
「こんなの嫌だ…私は、ロイと一緒に前に進む道を選んだの…ここで立ち止まるわけにはいかないの…だから、お願い…私を元の場所に帰して…ううん、帰る。絶対、ロイのいるところに…!」
「帰るの!!」
リコは再び目を覚まして起き上がった。辺りを見回すと、丸い窓から薄明かりが差し込んでいる。間違いない。飛行船の中だ。リコは立ち上がり廊下に出た。その足は自然と、なぜか甲板に向かっていた。まだ弱い陽の光の下にロイがいた。足音か、ドアの音か、ロイはリコに気づいて振り向いた。
「おはよう!リコ」
「ロイ…おはよう!」
リコはロイの元に駆け寄った。柵に手をかけて、朝陽を見ながら二人は何気ない話をする。今日はどうしよう、どこまで行こう、何気ない大事な話だ。そんな話をして、リコは言った。
「ロイと話してると安心するな」
「なにかあった?」
「ちょっと怖い夢を見たんだ。でも、もう大丈夫」
「そっか。でも何かあったらいつでも相談してね」
ロイは優しく微笑む。リコはその笑みを見て、少し体をロイの方に寄せた。
「私ね、ロイとこうやってずっと一緒に話して、冒険して、遊んで、バトルして、いっぱい楽しい時間を過ごしたいな。ずっとずっと…」
「…僕もずっと一緒にいたい。リコと一緒にいたら楽しくて、こんな時間がずっとずっと続いてほしいって思うんだ。一緒にいようよ、リコ」
「ロイ…約束…してくれる?」
「ああ。ずっと一緒さ!」
ロイはニッと歯を突き出して笑った。その笑顔に照らされて、リコもまた満面の笑みを見せた。幸せに満ちた未来を夢見る二人の笑顔は、朝陽よりもずっと輝いていた。
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