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まる
2025-12-20 23:56:48
3846文字
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うちのて~くんが一番かわいい!
摩耗対策のためて~くんぬいのような姿になる鍾離と、お世話するタルタリヤの話。なんでも許せる人向け!
〇よくわかるあらすじ
モラクスとして璃月を統治して6000年、国の行く先を民に託し、無事に神としての責を果たし凡人としての生を全うしていた鍾離だったが、摩耗対策として定期的に元素生物─まさに巷で人気の『帝君の亡骸ぬい』通称て~くんのような─姿で過ごし、体内元素の回復をする必要があった。
かよわい(かよわいとは言っていない)て~くんの姿になった鍾離を放置することはできず、て~くんになった間の世話を任された公子タルタリヤと、て~くん姿だと恋人がいつも以上に甘やかしてくれることにつけこんで、これ幸いと生活を満喫している鍾離のどたばた生活の一コマである。
【健康診断】
「聞いていない!」
もふもふのしっぽをばしんばしんと石畳に叩きつけて、鍾離が遺憾の意を表明しようと躍起になっている。その音に、道行く人々が何事かと視線を向けるがすぐに興味を失ったようにまたそれぞれの日常に帰っていく。人型ならともかく、かわいらしいて~くんの姿で凄まれても何の効果もない。
「そりゃそうだよ。言っていないもん」
側に立つのは、恋人であるタルタリヤだ。しかし、その口ぶりは恋人に対するそれではなく、聞き分けのない小さな子に言い聞かせるようなものだ。
「いいかい?先生は今トカゲ?犬?オオサンショウウオ?
…
とにかく人間じゃない。ただでさえ弱ってるから今の姿になっているのに、さらに病気とかにかかったら嫌でしょう?」
予防接種会場、と記載された看板の前立ち止まった鍾離に合わせて、タルタリヤも足を止めた。会場内にはすでにたくさんの来場者とそのペットでにぎわっている。
「
…
それはそうだが、とはいえこんな
…
」
いやいやをするように鍾離が力なく首を振る。その首には赤を基調としたリードが巻かれている。もちろんリードの先にいるのはタルタリヤだ。
可愛らしいて~くん姿でしょぼくれているのを見ると、思わず母性本能がくすぐられるが、中身はあの食えない鍾離(CV〇野)である。情けは無用だった。
「『家庭のペットから感染症等の病気が蔓延することがないように、定期的に予防注射をすること』。岩王帝君が定めた法のひとつだよね」
「
…
それは、そうだが」
「自分が定めた法なのに、従わないの?」
「だが、俺は正確には犬でもトカゲでもないが
…
」
「だとしても、予防接種は必要でしょ。人間だってするしね。それに事前に特殊な子なんですって問い合わせしたら、一度診てくれるってことだから、大人しく診察してもらおう?」
「しかし
…
」
思案するようにのそのそとその場で回る鍾離の姿をしばらく見ていたタルタリヤは、しゃがみこんでて~くん状態の鍾離と目線を合わせ、鍾離の短い前足を掬い上げた。もふもふの手は触り心地がよく、肉球もぷにぷにもちもちとしていていつまでも触っていたくなる。
「先生が少々のことでは怪我も病気もしないのは知っているよ。でも、摩耗の件もあるし、予防対策をしておくに越したことはないでしょ?」
「
……
」
「先生、後で好きなもの買ってあげるから」
ね?とじっと目を合わせて、タルタリヤが小首をかしげる。たとえ小さなて~くん状態になってしまっても、恋人の可愛らしい姿は非常に効く。たとえそれが明らかに演技だとわかっていても、岩のようと評される理性がぐらつくのを感じて、鍾離は小さく嘆息した。
「
……
わかった。せめて一思いにやってくれるよう頼んでくれ」
***
「ちょっと先生!!!!ほら順番きたから!!!!」
「きゅうううううう!」
受付をすませ、簡単な問診を終え、いざ注射の列へ、となった段階で、それまで大人しくついてきていた鍾離がまるで杭を打ち付けたかのように動かなくなった。
「くそ、やっぱりこうなった!リード付けといて正解だった!!」
タルタリヤが全身を使って引っ張るも、リードがぴんと張るだけで鍾離はピクリとも動かない。体重を変化させたのか、岩喰いの刑の要領で地面に固定させたか。詳しくはわからないが、いわゆる人外的な力で何とかしているのだろう。周りの目が突き刺さるが、正直そんなことを気にしている余裕はない。
この似非凡人が、と内心悪態をつきつつ、ちらりと鍾離の様子をうかがうと、リードが食い込んで顔がしわくちゃになっている。いわゆるぶさかわいい、というやつだろうか。そういえばテウセルが可愛いと見せてくれた散歩を嫌がる犬によく似ている。あの時は必死な姿が可愛いな、などと話をしたが、いざ当事者になってみると面倒くさいことこの上ない。
と、少し集中が切れた瞬間を狙って、て~くん、いや鍾離が抵抗をやめた。両サイドから引っ張っていた紐の片方を手放すとどうなるか。
「う、わ!」
思わずバランスを崩したタルタリヤだったが、すぐに体勢を立て直す。流石だと感心しつつ、目ざとくその隙をついた鍾離は、仙術でも使ったのかリードをするりとすり抜けだした。
しまった、とタルタリヤが慌てるも時すでに遅く、鍾離は一目散に会場を飛び出していった。
***
璃月の美しい石畳を、鍾離はて~くん姿のまま人々の間を縫って歩く。人の形を取っている時とは違いずいぶんと視点が低いが、これもまた趣がある、と沈んでいた気持ちが少しだけ浮上する。
正直なところ、鍾離も頭ではわかっているのだ。タルタリヤの言う通り、ただでさえ摩耗により形態を保てていないのに、下手に感染症にでもかかってさらに免疫力を落とすのは避けたい。しかし、小動物としての本能だろうか、あの注射器を見た瞬間、思わず踵を返してしまったのだった。
「大丈夫?」
「!」
とぼとぼと歩いていると、突然体が宙に浮いた。振り返ると、そこにいたのは不卜㢒の小さな従業員、七七だった。どうやら抱えあげられたらしい。鍾離はなんとか逃れようとするも、短い手足がばたばたするだけで一向に地面に届く気配はなかった。
「元気ない
…
お薬いる
…
?」
「きゅ、きゅー!」
「怪我はないみたい
…
」
可愛らしい小動物を装いきゅうきゅうと哀願してみるが、この少女には効果がないようで、マイペースに鍾離を触診している。
「四肢に問題ない
…
でも岩元素が多い
…
?トカゲというより、龍みたい
…
」
「きゅ
…
」
「
…
安心して、七七は敵じゃない」
そろそろと壊れ物を扱うようにゆっくり丁寧に下ろされる。久しぶりの地面との再会にほっと一息をついていると、小さな掌が鍾離のふわふわの毛並みを確かめるように撫でた。
「いいこ
…
いいこ
…
」
少しひやりとした掌で全身を撫でながら、じっとこちらの様子を窺うように見つめてくる。翳りを帯びたまあるい瞳に、既視感を感じた。
(ああ、公子殿も心配してくれていたな)
嫌がる鍾離の手を取り説得するタルタリヤの瞳は、こちらを案じる気持ちを雄弁に語っていた。いまのところ、この体型になったとしても体内元素を回復させればまた人型を戻れているが、とはいえ、毎回戻れるという保証もない。
次は、さらにその次は?磨耗の進行程度は?対処法は?正直、当の本人もわかっていないのだ。他の者がわかるはずもなく。
前向きな恋人は、それなら出来ること全部やっとこうよ!と明るく振舞っているが、その心に不安や寂しさという影を差してしまってはいないだろうか。
「先生!!!」
ふと、耳に馴染んだ呼び声が聞こえた。察して振り返るよりも早く、ぎゅっと抱き締められる。
「先生のバカ!散々探したんだからね!」
みしみし、とタルタリヤの全力の抱擁を受け、小さな身体が悲鳴をあげている。しかし、今日ばかりは本能的なものだったとはいえ愛する恋人を心配させるようなことをした己が悪い、と鍾離はその痛みをうけいれることにした。
「
…
先生、急に注射とか言って不安だったよね。ごめん。俺も予め言っておけばよかった」
タルタリヤが、鍾離の小さな身体を抱きしめながら宥めるように撫でていく。青年にしては少し高い体温の掌でゆっくりと撫でられるのが、鍾離は一等好きだった。
心地良さに思わず目を細めていると、両手が後ろに回されて再度きつく抱き締められる。
…
いやこれは、抱き締めるというよりも束縛では
…
?
「───でも、やらなきゃだめなものはだめだから」
瞬間、腰の当たりにちくりと痛みが走り、思わず飛び上がりそうになったが、タルタリヤの熱い抱擁
…
いや馬鹿力のお陰で微動だにしなかった。
「はい、もう終わりましたよ。いいこでしたね」
見上げれば、不卜㢒の主の白朮が微笑んでいる。すぐ背後に隠したけれども、手には確かに注射器が握られていた。
「白朮先生、わざわざ御足労いただきありがとうございました!七七ちゃんも先生捕まえてくれてありがとうね」
「いえいえ、人馴れしてなくて会場に入れない仔のところに出張することもあるので、大丈夫ですよ」
「問題、ない」
「謝礼はまた後日改めて。あと七七ちゃんにはココナッツミルク送るね」
和気あいあいと話をしている隣で、呆然としている鍾離に気がついたのだろう。タルタリヤが鍾離を抱え直して子どもをあやす様にぽんぽんと叩く。
「ほら、先生?御礼しようか?」
なすがまま、タルタリヤに右手(右前足ともいう)を手に取られて、挨拶するように手を振られる。何かリアクションすべきとは思ったが、どっと疲労感に襲われた鍾離は、きゅう、と唸るようにひと鳴きするに留めたのだった。
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