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モモハナ
2025-12-20 23:41:49
5383文字
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紡ぎゆく想い -中編-
先日の黒ファイオンリーでは沢山の拍手とコメント有難う御座いました!!
日本国初夜編、中編になります。
本当はすけべまでいきたかったけど、長くなりそうなので一先ずは告白まで。
色々と幻覚見てます。
ファイが泣き止むまでの間、黒鋼は震えるファイの背に添えた右手でぽんぽんと宥める様にその背中を撫で続けた。
「
…
ちったぁ落ち着いたか?」
数分経って、しゃくりあげていたファイが落ち着いてきたのを見計らって、黒鋼が様子を窺うように声を掛けた。
それに小さく頷くと、ファイはそろりと縋っていた黒鋼の胸から顔を離した。
「
…
うん。ごめんね、黒ぴー。それと、有難う」
たった数分間の事なのに、とても長い時間黒鋼に縋って泣いていたような気がして、ファイは気恥ずかしさから黒鋼の顔を見ることが出来ず、俯いたまま礼を述べた。
それにおぅ、と返事を返すと黒鋼はそのままファイの頭をくしゃりと撫でた。
「落ち着いたんなら、部屋戻って寝ろ」
抱きしめていたファイの身体を開放しながらそう言うと、黒鋼は再び猪口と徳利の乗った盆に左手を伸ばす。
しかしその手は盆に触れる前に、再度ファイの手に掴まれてしまった。
「
…
今度は何だ?」
「あの、ね、黒んぴ。オレ、君に伝えたい事があるんだ」
言いながらゆるりと顔を上げたファイは、涙で濡れた瞳を自身の着物の袖で雑に拭うと、そのまま此方を見つめる黒鋼に顔を向けた。
「
……
」
「
……
」
伝えたい事があるとは言ったものの、その決心がつかないのかなかなか口を開こうとしないファイを黒鋼は黙って見つめ返す。
初めて出会った頃から変わらない、強い意志を秘めた紅玉の瞳。
出会った当初、ファイはその黒鋼の瞳が苦手だった。
ファイ本来の蒼い瞳と真逆の黒鋼の真紅の瞳は、常に鋭い光を放っていて、此方の動向を窺い、本心を見抜いてくる。
旅が続くにつれ、その赤い瞳から鋭さは薄れ、黒鋼は面倒くさい等と言いつつも、小狼達に何かがあれば手を差し出すようになり、今では小狼達を慈しむような、どこか暖かな光を纏う様になっていた。
そして、それはファイに対しても同じで。
粗暴な立ち居振る舞いとは真逆の、黒鋼本来の優しさを感じれば感じる程、ファイは自身の抱えるものの重さに崩れ落ちそうになっていった。
自分はいつかは彼らを裏切ることになるかも知れない。
場合によっては自分の目的の為に、仲間の誰かを手にかけることになるかも知れない。
そんな仄暗い感情を抱えながら、しかし、決してそれを周囲に悟らせないようにファイは常に笑顔を取り繕っていた。
そんなファイの本心を黒鋼は見抜き、子供たちの居ない所で吐き出させようとすらした。
そして、あの東京での出来事がファイの心情を大きく動かすことに繋がった。
自身の左目を写し身の小狼に捥ぎ取られ、生死の境を彷徨う事となったあの時、ファイは黒鋼との間に引いていた筈のボーダーラインを、いつの間にか自ら越えていた事に気付かされた。
『そんなに死にたきゃ俺が殺してやる。だから、それまで生きてろ』
あの時の黒鋼の言葉は、今もなおファイの胸中で燻り続けていて、今、此処にこうしてファイが存在していられる理由の一つにもなっていた。
そして、この旅において、黒鋼はある意味被害者だ。
黒鋼本人の意志とは関係なく、彼の主に次元の魔女の元へと送り出され、祖国に帰るために一行と共に行動してきたにすぎないのだ。
もう帰るべき国がないファイと違い、黒鋼には帰る場所があり、仕えるべき人もいる。
この旅が終わった暁には、きっと素敵な女性を妻として迎え、幸せな家庭を築く事にもなるだろう。
そんな彼をこれ以上、自分の事情に巻き込んではいけない。
そう思ったからこそ、ファイはあの東京以降、黒鋼が此方に深く干渉してくるのを防ぐために渾名で呼ぶ事を止め、彼との間に距離を置くようになったのだが、結局、黒鋼はファイの想定をあっさりと超えてきてしまった。
本当に黒鋼には敵わない、とファイは思う。そして、あの時ファイに掛けられた呪いが発動し、閉じようとするセレス国から左腕を代償に救い上げてくれた黒鋼の姿を目にした瞬間、ファイは自身の中に芽生えてしまった感情の正体に改めて気づかされてしまった。
「
……
好きだよ、黒様」
言葉とは裏腹に、愁いを帯びた表情で静かに告白をしたファイに、黒鋼が驚いて目を見開く。
普段のらりくらりとしていて、人をおちょくる様な言動ばかりするような奴が今更好きだと告げてきて、一体何のつもりなのか。
どうせ今の言葉だって揶揄う為に言ってみただけだろう、と内心思いながら黒鋼はハッと、小さく声を上げた。
「急に何を言い出すのかと思えば
…
テメェ、俺をからかってんのか
…
?」
「違うよ、黒ろん。
…
嘘とか冗談とかじゃなく、一人の男性としてオレは、君が
…
、黒鋼の事が好きなんだ」
「
……
っ!」
ゆるりと頭を振りながら、ファイはゆっくりと言葉を紡いだ。
長い旅の中で、黒鋼の優しさにファイは何度も救われ、その度にファイの中に黒鋼に対する強い想いが積み重なっていった。
一度、黒鋼に対する想いを自覚してしまうと、その後はもう、自分でもどうしようもないくらい彼が好きだと思うようになっていた。
「好きだ」と告げたファイの色素の薄い頬はほんのりと桜色に染まり、黒鋼に向けられた魔力を失い金に染まった隻眼は確かに嘘や冗談を言っているのではないと雄弁に物語っていて。
黒鋼はその想定以上の熱量に思わず息を呑んだ。
「本気で、言ってんのか
…
?」
「
…
うん。黒鋼、オレは君が好きです。恋愛的な意味で、ね」
改めてそう告白したファイはそのまま黒鋼の方に顔を寄せると、チュッと軽いリップ音をさせて黒鋼の頬に口づけを落とした。
「
…
ごめんね、黒たん。急にこんなこと言われても迷惑だよね? でも、どうしても玖楼国に行く前に言っておきたかったんだ」
自分の気持ちにケジメを付けておきたかったのだと、小さな声で呟くように言うと、ファイはそっと黒鋼から離れた。
「オレが自分の気持ちを伝えたかっただけだから、返事はいらないよ。
…
話を聞いてくれて有難う、黒りん」
そろそろ戻るね、と言いながら、立ち上がろうとしたファイの右手をとっさに掴んだ黒鋼が待て、と制止の声をかけた。
「黒るー?」
「
…
別に、迷惑だなんて思ってねぇよ」
「え
…
?」
小さな声で、だかはっきりと紡がれた黒鋼のその言葉にファイが驚いて目を見開いた。
「確かに驚きはしたがな。だが、別に迷惑じゃねぇ」
再度、言い聞かせるようにそう言うと、黒鋼は掴んだままだったファイの腕から手を離した。
確かに黒鋼はファイに好きだと告げられ、その事に酷く驚いた。
だが、驚きこそしたものの、嫌だとか迷惑だとか言う感情は一切湧かなかったのも事実で。
それはきっと気付かぬうちに自分が目の前の魔術師に惚れ込んでいたからなのだろう、と黒鋼は妙に納得してしまっていた。
最初、黒鋼はファイに対して常にヘラヘラしていて、何を考えてるのか分からない奴だと思っていた。
人の事を勝手に変な渾名で呼ぶし、やたらとベタベタと引っ付いてくるのも黒鋼としてはあまり好ましく思っていなかった。
だが、共に次元を渡る旅を続けるうちに、少しずつそんなファイの本心が見え隠れする様になり、気が付けば黒鋼は彼の言動から目が離せなくなっていた。
どうしてファイの一挙手一投足にこんなにも心が乱されるのか。
好んでいた訳でもないこの男に、どうして自分は心が動かされるのか。
そんな自分に苛ついてさえもいた筈なのに。
ファイの内面を知れば知るほど、そのどこか危なっかしい彼の言動から目が離せなくなっていく自分に黒鋼は内心で困惑することさえあった。
そんな黒鋼の胸中に別の感情が芽生え始めたきっかけを作ったのが、あの砂で覆われた東京での一連の出来事だった。
瀕死のファイを半ば強引に説き伏せ、彼の身体を吸血鬼へと変化させたのは、彼を失いたくないと思った黒鋼のエゴの様なものだ。
勿論、理由はそれだけではなく、共に旅をしてきたサクラ達の心情を思っての事でもあるが。
だが、少なくともファイはそれを快くは思っておらず、吸血鬼として目覚めてから日本国に来るまでの間、彼はあからさまに黒鋼と距離を置くようになっていた。
ファイが生きて其処に居るならそれでいいと思う反面、何度やめろと言ってもやめなかったふざけた呼び方をしなくなった事に、いつしか黒鋼は妙な寂しさを覚えていた。
そして、セレス国で己の左腕と引き換えにファイを魔方陣から引っ張り上げ、日本国へ移動した直後、それこそ意識を失う寸前に涙を浮かべて此方を見つめるファイの顔を見て、黒鋼は心の底から安心したのと同時にファイに対する想いをはっきりと自覚した。
自分が思っている以上に、この魔術師の事を好いていたのだ、と。
「
……
」
「黒わんわん
…
? どうかした
…
?」
迷惑じゃないと言ったきり、黙り込んでしまった黒鋼に、ファイがどうしたのかと困惑の表情を浮かべる。
すると、ぐいと再度黒鋼の逞しい腕がファイの右腕を掴み、そのまま自らの胸元へと引き寄せた。
「うわっ
…
っ!?、もー、急に引っ張らないでよ黒ぷー」
「
…
一回しか言わねぇから、ちゃんと聞いてろよ」
引き寄せたファイの身体をしっかりと両腕で抱きしめると、黒鋼はそのままファイの右耳に唇を寄せる。
一度ふぅ、と小さく息を吐いてから、黒鋼はゆっくりと口を開いた。
「
…
お前が好きだ。お前を失わずに済むなら、俺の血でも左腕でも何だってくれてやる」
低い声で吐息交じりに囁かれたその告白は、紛れもなく黒鋼の本心からの言葉で。
それは右耳を通してじわりじわりとファイの全身に広がっていき、次第にファイの心を満たしていく。
気づけば、ファイは顔を真っ赤に染め上げ、右目からは一筋の涙が伝い落ちていた。
「ずるい
…
」
「何がだよ」
「オレ、君に与えてもらってばっかりで何も返せてないのに
…
。それなのに、まだ、オレにくれるの?」
「あぁ、いくらだってくれてやる。それでお前が生きることを諦めねぇならな」
「大丈夫だよ、黒様。これからはちゃんと生きるって決めたから。それに、いざって時は君が殺してくれるんでしょ?」
「あぁ、そうだ。だから、それまで俺の傍で生きてろ。じゃねぇと、殺してやれねぇからな」
「
…
っ! うん
…
、有難う黒りん。本当に、君には敵わないや」
嘘偽りのない黒鋼の言葉に、ファイはぽろぽろと溢れる涙もそのままにそう言うとそっと黒鋼の背に両腕を回し込み先ほどよりもより強く、彼の大きな身体を抱きしめる。
それを素直に受け止めて、黒鋼もファイの細身の身体をその腕に包み込んだ。
黒鋼に好きだと告げられ、自分もまたこのまま彼を好きでいて良いんだと思った瞬間、ファイは大きな安心感に包まれた。
それと同時に黒鋼の暖かな腕に抱きしめられ、ファイは嬉しくて彼の胸に縋るようにして泣いていた。
黒鋼は特に何か言うような事もなく、ファイが落ち着くまでの間ただ黙ってファイの背中や髪を撫でてくれていた。
数分経って、ファイが落ち着いてきたのを見計らい、黒鋼は窺うように声を掛けた。
「
…
落ち着いたか?」
「
…
うん。何度もごめんね、黒ろん」
有難う、と礼を述べながらファイはそっと黒鋼の唇に自らのソレを重ね合わせた。
「ふふ
…
、もう遠慮しないよ?」
軽くリップ音を立てて離れていくファイの、その妖艶な笑みに黒鋼は思わず魅入ってしまう。
しかし、すぐに気を取り戻すと、離れていこうとしたファイを再度胸元に引き寄せるとお返しとばかりにその艶やかな唇に口付けた。
「っん
…
っ!」
「そりゃこっちのセリフだ。俺がどんだけ我慢してたと思ってる」
「それって
……
ぁ、ふ
…
っ」
触れるだけのキスを繰り返しながら、黒鋼はファイの身体をそっと布団に横たわらせると、様子を窺うようにじっと見降ろしてきた。
先刻、互いに告白して、想いを通わせ合ったばかりではあるが、ファイが気持ちの整理を付けられたのと同じように、それをきっかけとして黒鋼もまた色々と吹っ切れたのだろう。
ギラリと今までにない色を瞳に宿して見つめてくる黒鋼に、ファイがぞわりと体を震わせる。
「黒、たん
…
?」
「
…
お前が欲しい。抱いても、いいか?」
想いが通じ合っている以上、許可を取る必要など無い筈なのに。それでも、きちんと聞いてきてくれる辺り、意外と真面目な黒鋼らしい。
それがなんだおかしくて、ファイは思わずクスリと笑みを零していた。
「黒ぷー、可愛いねぇ」
「あぁ?」
可愛いと言われ、あからさまに不服そうな顔をした黒鋼にファイはふふ、と笑い返す。
「わざわざ聞かなくても大丈夫なのに。
…
いいよ。オレも君が欲しい。君でいっぱいにして、オレを安心させてよ」
生まれも育ちも性別も関係なく愛してくれるって、この躰に刻み付けて欲しい。
口に出しては言わないけれど、黒鋼を見つめるファイの眼差しから溢れる熱い思いを感じ取り、黒鋼は二ッと口の端を持ち上げる。
「あぁ。お前が望むなら、いくらでもくれてやる」
好きだと、囁くように言いながら黒鋼はファイの唇を己のソレで塞ぎ込んだ。
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