フリンズさんが車で迎えにきてくれる話

※現パロなので、ご注意ください。

「こんばんは。お迎えに上がりましたよ」
――うん、ありがと」
 
 雨上がりの冬空。折りたたみ傘の出番は無さそう。
 通っている予備校の出口を抜けると、フリンズさんが車で迎えに来てくれていた。雨の日は自転車ではなく徒歩で向かうため、帰り時間に兄が迎えに来てくれている。しかしそれが出来ない日は、なぜかフリンズさんが来てくれるのだ。大変だから来なくてもいいよ、と伝えても「お兄さんから頼まれていますからね」と、やんわり否定されてしまう。たしかに夜遅いとはいえ、絶対めんどくさいだろうに。
 
――はい、これ」
「おや、これは?」
 車の助手席前に立って待って居てくれた彼に、缶コーヒーを押し付けた。
「私がココア飲みたくなったから、ついでに買いました」
「なるほど、ありがとうございます。頂きますね」
「うん」
 ふわっと微笑んだフリンズさんは、受け取ってくれた缶コーヒーを手に持ったまま、助手席のドアを開けてくれた。
「自分でも開けられるよ?」
「予備校帰りの鞄が重そうなので、つい」
 まぁ確かに教科書やらが沢山詰め込まれた鞄ではあるけれど、なんだか御伽話の王子様みたいで……ちょっと気恥ずかしい。せっかく開けてくれた行為を無駄にしないためにも、さっさとドアの中に収まることにした。重たかった鞄は足元に置いた。すると、すぐにドアを静かに閉じてくれて、彼は運転席側から乗り込んできた。
 
 以前、なんでこんなことまでしてくれるのか?と聞いたことがある。
「貴女のお兄さんには、返しきれないほどの恩がありまして……ね。少しでも返せるのなら、頼まれごとは何でもやることにしているのです」
 それが私という兄の妹のお迎えとは、それでいいのか?と思ってしまうけれど、本人が満足そうなので、良いのかな……と最近は慣れてきてしまっている。これは非常に良くない傾向だな、とも思う。こんなに美形の年上お兄さんであるフリンズさんが近くにいると、もう同級生なんて見えなくなってしまうから、ね。
 お兄ちゃんのバカ、ありがとう。
 
「せっかく買ったから、冷める前に今飲んでもいい?溢さないように注意するから」
 隣に座るフリンズさんにホットココアの缶を見せながら提案する。
「えぇ勿論、構いませんよ。では、僕も頂くことにしますね」
 彼は先程渡していた缶コーヒーを手に持ち直し、私のホットココアの缶に、コンッと当ててくる。
 
 勉強疲れの体には、ココアの甘さと温かさが身に染みる。
「今日はどんな勉強をしてたんですか?」
「え?あぁ、予備校の内容?……えーと、模試の結果が返ってきてたから、その内容の振り返りとか、やったよ」
 結果については、まぁまぁだったけど……これから伸び代があるってことで自分を誤魔化している。
「んー、私は英語が苦手でね。……そういえば、フリンズさんは海外留学もしてたんですっけ、兄が言ってました」
「そんなこともありましたね。随分昔のことですが、簡単な日常会話なら英語で問題ありません」
「それはすごいね」
――よかったら、お教えしましょうか?」
「ぇえ?――いや、遠慮しますよ。そんな、申し訳ないんで」
「ふふっ、そうですか。それは残念ですね」
 兄の役に立ちたいからと言って、そこまでしてもらうのは……ねぇ?
 
 飲み終えた缶二つは、車内の飲み物置き場に一旦置かせてもらった。あとで忘れないように持ち帰ろう。
――さて、そろそろ出発しますね」
「はーい、お願いします」
 静かに出発する車内で、見慣れた車窓をぼーっと眺める。普段は自転車で十五分程なので、車だと数分で着いてしまう距離である。
 ちらっと横目で、運転するフリンズさんを盗み見る。この端正な顔立ちで車の運転も上手いとは、同年代の女性たちに引く手数多なのだろうな、と予想してしまう。――と考えていたその時、
 
「ぁっ――!」
 彼の焦った声に対し、――え?と思うよりも早く、急ブレーキをかけられた。
 私の視界には、フリンズさんの腕が私を庇うように伸びてきている様子がスローモーションのように見えた。ガクンッと前のめりになりそうな肩を押さえつけられて、衝撃が和らげられた。
 
――ああ、すみません。大変申し訳ない。なんという失態を……お怪我はありませんか?」
「う、うん。何ともないですけど……どうかしたの?」
「いえ、猫さんが飛び出してきてしまって、慌ててブレーキを踏んでしまいました……
 ふと前方を見ると、猫の親子が居た。無事なようで良かった。その流れで隣のフリンズさんに目をやると、眉を下げて困り果てた顔をしている。
 
「どこか痛むところはありませんか?」
「ううん、ないよ。フリンズさんが庇ってくれたし。ありがとうございました」
「いえ、――咄嗟にだったとはいえ、肩に触れてしまい、すみませんでした」
――へ?あぁ、そんなこと?全然気にしてないですよ」
「そうでしたか。貴女はお優しいですね」
 そう伝えると、彼の表情が少し穏やかになったようだった。
 
 気を取り直して、家の前まで送ってもらった。
「今日は危険な目に合わせてしまい、すみませんでした。……またお迎えに上がることを許してもらえますか?」
「ふふっ、勿論ですよ。いつもありがとうございます」
 普段のフリンズさんの運転はとても上手で心地よいし、今日も無事だったし、そこまで気にする必要は無いのだが……。こんなに焦るフリンズさんは初めて見た。何をそんなに気にしているのだろうか?今度兄にも聞いてみようかな。
 
「あぁそういえば、飲み終えた缶はそのままで良いですよ。僕が処分しておきますので」
「あ持って帰るつもりが、しっかり忘れてました……。ではお言葉に甘えて」
「えぇ問題ありません。――それでは、また」
「うん。フリンズさん、今日も迎えにきてくれてありがとう。またね」
 ヒラヒラと彼に手を振りながらそう伝えると、彼も手を振り返してくれた。それを見てから家の中に入った。
 
 
 
 
 
「彼女はコーヒーよりもココア派、ですか。また一つ知ることができました。覚えておきましょう」
 彼女が家の中に入るまでを名残惜しそうに見届けてから、彼はまた車に乗り込んだ。
 
 
 
『彼/彼女の新しい一面を知る』