事後設定(※性描写なし)の夜更け、お酒をたしなみながら本音をこぼすときがある師叔。あるとき天才観を明かされ、母性を感じて泣いてしまう楊の短い話。(以前pixiv投稿したもの)
「
……のう、楊戩よ。わしは、思うのだ。天才という語は、伸びしろの大きさを示すためにある、と」
それは、幾度目ともしれぬの蜜夜も更けたときのことだった。三日月を眺めながら、太公望は盃を傾げる。こく、こくり。
「
…ぷはぁ~っ、やはり、上物は違うのう!」
とととっと、新たに注ぐ。細い月を映して、まるでなぞるように目を同じように細め、くいとまた傾げる。楊戩は、何も言わず頬杖をついて、そのさまを眺めていた。時折、同じように三日月を眺める。心地の良い、時間だ。
「うぃっく。
…おお、それで、先ほどの話だが
…」
ほろ酔い話に擬態して彼が切り出すのなんて、きまって深奥本気の本音。彼はある種のあまのじゃくなのだ。
「天才という語は時に暴力的で、努力を才能の一語で粗雑に切り捨てる側面を持つ。わしは、そういったものは好かん。だが
……」
そこでまた一度、太公望は盃を傾げた。
「だが、まことの努力に応える伸びしろが確かにあるとき、
……おぬしのような、者を見たとき。わしも、どうしても思ってしまうのだ。こやつは天才だ、と」
まなざし、月夜の温度そのもの。しかと楊戩を見つめ、そして、ふわり笑むはまるで、記憶に知らぬ母を思わせた。
「
…っ、
……師叔
……!
…あなたと、いうひとは
…」
楊戩の頬を、ほろりと星がふたつだけ流れる。自身をストイックに鍛錬してきても、伸びれば伸びるほど、それは自身が天才なのだから当然だと思うようにしてきた。努力家なんて思われるのは御免だ。天才に、努力は付きもの。だから当然のことをしているまで。そう、思ってきた。自分は天才だ。天才で、なければならない。だから、努力した。当然だ。流れた星は、そうして押し殺してきた努力たちのための献花だ。
実際のところ太公望がどの程度推し量っているのか、恐らくこのひとのことだ、見抜いているのだろうと思わせる。楊戩自身ですら冷たくきびしいまなこで切り捨ててきた努力にそっと寄り添われ、まあ酒でも一杯やらぬかと、気楽に肩を叩かれたかのような心地になる。肩の、荷が軽くなった。
「師叔
……やはり、僕には、あなたが必要なようです」
言えばぱちくり、大きなまなこをまたたかれ、ふわりまつげが月をかたちどる。広げられた腕に身を委ねるよう太公望の腰を抱き留め、そのぬくもりに、安堵した。太公望のしぐさはまるきり、親がきっとそうするよう。楊戩は幼子のようになきじゃくることこそしなかったけれど、星はまたひとつふたつと、まばらな群れのように流れていったのだった。
終
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