白殊皎(しらよし こう)
2025-12-20 16:02:54
3070文字
Public FGO【歳勇/土近】
 

雨に濡れ、それは何を思うのか

FGO【歳勇/土近(としいさ/ひじこん)】
突然の土方の留守に不満を募らせる黒の剣士・近藤。
どうすればその機嫌は直るのか……。

黒剣ちゃんに「自分ばっかり好きで馬鹿みたいだーーー!」と爆発させたかっただけのお話です。
夜話も書きましょうかね……、うん。

 ひらり、視界の端で黒の外套が翻る。
 あ、と思ってそちらに目をやれば相手はマスターと話をしていた。
 主も相手も、眉をしかめたり顎に手を当てて考え込んだり、込み入った話のようでなかなか終わる気配がない。
 微かに溜息をついてその場は引き下がる。

 中食ちゅうじきの時間なので、食堂に足を運ぶ。
 いつもなら自分の横か前に必ずいる姿は今日はなかった。
 ここに姿を現したかどうかも知らないしわからない。
 気になって、食事の味もわからなかった。

 昼から夜。
 ずっと相手の部屋にいても戻ってくる気配がなかった。
 夕食も、一人で流し込んで空しかった。

 枕を抱えての独り寝は寂しい。
 その日は結局、ずっと一人だった。

 翌朝も、相手の姿はなかった。
 寝ている間に戻ってきた気配もない。

 胸の奥にぶすぶすとわだかまりが溜まっていく。
 いつも、自分のことが大切だ大切だと言っているのに、こんなに放っておかれている。
 相手の一挙手一投足に一喜一憂して……
「──俺ばっかり……じゃないか……
 黒の剣士こと近藤勇は主のいない部屋でぼそりとそう呟いた。

 多分、朝マスターと話していた時分から即レイシフトとかになったのだろうけど、一言言ってくれてもよかったのではないかと思う。
 第一、レイシフト適正などという物はなんなんだ。
 一緒にいたいのだから一緒に連れて行ってくれたっていいじゃないか。

 情緒が不安定になる。
 やっぱり自分など、いない方がいいのだという考えが頭の中をよぎる。
──消滅してしんでしまおうか。
 そんな考えまで浮かんだ。

 相手が悲しむ?
 こんなに放っておいて平気なのだし、彼は今までも英霊サーヴァントとして歩んできたのだから問題はないはずだ。

 カルデアここの戦力が落ちる?
 そんなこと知ったことか。
 もともと人理に手を貸すつもりなどなかった。
 ただ、彼とのよすがだけで、彼に会いたいだけで、ここにやってきたのだから、その相手に見捨てられてはいる価値もない。

………………
 ふら、と部屋の外に出る。
 英霊などという変に頑丈な身体になってしまったために消滅も容易ではない。

 まず、彼女マスターに気付かれてはいけないし、周りに気付かれてもいけない。
 まぁ、マスターは両手でも足りないほどの英霊とえにしを結んでいるのだし、一人くらい魔力経路パスを断っても気づきはしないだろう。

 問題は──

「近藤さん?」
「!!」
 その声を聞いて、近藤は猛ダッシュした。
 捕まりたくない、今捕まるわけにはいかない。
「待て、近藤さん!!」
 英霊同士の壮絶なる鬼ごっこ。
 それは経験年数による地の利が有利な鬼の勝利に終わった。
「離せ!!」
 両腕を掴まれて壁に押しつけられる。
「いいや、離さねぇぞ。あんた、また妙なこと考えてやがるだろう?」
 相手の鬼、こと土方歳三の指摘は的を射ていた。
 近藤は死に場所を探すに近いことをしていたのだから。
「俺なんかのことはどうでもいいくせに! なんで止める!!」
「はぁ?」
 飛躍した近藤の言葉に土方は疑問を浮かべる。
 彼をどうでもいいと思ったことなど、天神地祇に誓って一度もない。
「俺の……俺が……
 ひぐひぐと涙を零しながら近藤は土方を睨み付ける。
「俺ばっかりおまえを好きで、バカみたいじゃないかーーー!!」
「!?」
 大声で叫んでその場に座り込む。
 滅多にない嬉しいことを言われているような気もしたが、天を仰いでわんわんと泣く近藤に、土方は慌てた。
「近藤さん、落ち着いてくれ。何が、何だって???」
 屈み込んでなだめるように肩や背を撫でる。
「おまえは俺を放っておいても平気なんだろう! でも俺は違うんだ!!」
 その手を振り払って近藤は身を揉んで床に泣き伏した。
「俺はおまえがいないと、寂しいんだ! おまえに必要とされていないなら、俺はいなくなった方がマシなんだ!!」
 いつしか二人の周囲には何事かと覗きにきたサーヴァントやらスタッフやらが集まっていた。
「近藤さん、とにかく……こっちに」
 なんとか人目のないところにと思っても、岩に張り付く牡蠣のように、近藤は動いてくれなかった。
「~~~~~ッ」
 動いてくれないのはどうしようもないので、衆目に晒される覚悟を土方は決めた。
「近藤さん。放っておいた、というのは昨日からのことだろう? それはすまん、謝る。だけど俺があんたを必要としないというのは何の誤解だ?」
 寸暇もなかったレイシフトに同行させられたことは事実なので、言い訳をするつもりはない。
 だが、自分が近藤を必要としない、ということは、万分、いや億分の一もない。
 むしろ常に必要としている。
 いてくれなければ困る。
「だって、いらないんだろう! 放っておくのだから、俺なんて!!」
 完全に混乱──いやそれを通り越して錯乱の域までいっている。
 土方はそう思った。
 この霊基の近藤は他の姿より精神的に安定をしていないところがあるのはわかっていたけれど、今回はどうしてそうなったと思うくらい度合いが酷い。
「俺はおまえが好きなんだ、ずっと傍にいてくれなければ嫌なんだ! それなのに!!」
 間違いなく、物凄く嬉しいことを言われている。
 錯乱の末の譫言うわごとに近いものであっても、それは心の内の声だろう。
「すまん、俺が悪かった。もうあんたを一人にしないから」
 ここは近藤の気が済むまで吐き出させて、謝り続けるしかない。
 心に決めてしまえば、あとは楽だった。
 周囲の野次馬も『なんだいつもの痴話げんかか』という顔をして一人二人といなくなった。
「うそつき、うそつきーーー! 俺なんて、俺の想いなんて迷惑なくせに!!」
「迷惑じゃない、大歓迎だ」
 触れるのも嫌がるので、屈んだまま、その姿を見つめる。
「なら、愛してると言え! 誰よりも俺が大事だと言ってみせろ!!」
 がば、と身体を起こして近藤はまた叫んだ。
 土方は周囲の野次馬がいなくなっていることにこれほど感謝したことはない。
「いくらでも、言ってやるよ」
 自分も床に膝をつき、近藤のおとがいに手をかけて額に口吸いをする。
「あんたのことを、愛してる。どんな姿でも、俺にはあんたしかいねぇ」
「馬鹿! するのなら、こっちだろう!!」
 言って近藤は土方の口を自分の唇で塞いだ。
 なんの遠慮もなく舌を入れて、絡めてくる。
「ぷは……
 近藤はまるで乾いたところに飲み物を飲んだような満足げな吐息を漏らして唇を離した。
「すまん、違ってたな」
 土方は謝って、そのままぎゅう、とその身体を抱きしめた。
「許さない! 今日のおまえは俺のものだ!! 逃げたら承知しないぞ!!」
 これはどこまでまともに捉えていいのか戸惑うところではあったが、その目が真剣なのを見てしまっては、受け入れるほかなかった。
「あぁ、あんたの好きにしてくれ。なんでもするから」
……抱いてくれ」
 近藤はその白い頬を微かに染めて、そう呟いた。
「お望みのままに」
 土方は前に回された朱鷺から浅葱に至る房を手に取り指に絡めると、改めて近藤を抱き寄せた。
「ここじゃなく、部屋でな」
「当たり前だ……
 抱きしめられて少し落ち着いた様子を見せた近藤は、土方の癖のある髪に頬をすり寄せた。

──長い夜に、なりそうである。