77nairo
2025-12-21 23:00:00
943文字
Public
 

どこ行く? なにしてる? なに食べる? 12/21


 遠征のたびにお世話になっているバスには四十人もの男子高校生が詰め込まれていて、しかも暖房がごうごうと全力を出しているものだから、車内はむわりと暑い。窓は結露で曇り、それを透かしてぼんやり見える景色は全部モノクロだ。白黒映画の背景みたいな景色が、びゅんびゅん後ろへ飛んでいく。
「松本、酔った?」
 左隣から低い声でそう呼びかけられて、松本は振り返った。一之倉が既にビニール袋を広げている。その手際の良さに、松本はつい口元を緩めた。松本も一之倉も、山王に入学してから幾度となくバスでの長距離移動をしてきた。インターハイ、国体、ウインターカップ、それにあちらこちらでの招待試合。車酔いの対処もお手のものだ。
「いや、大丈夫。ありがとな」
 怪訝そうに片眉を上げた一之倉から目を逸らして、松本は窓についた結露を指先で拭った。くっきりと見えたところで、外の景色は相変わらずモノクロだ。灰色の防風壁、どんよりと垂れ込めた灰色の雲、黒く濡れた路面、それに白い雪。秋田に来て三回目の冬、こんな色も見慣れたはずなのに、気持ちが沈む。
「大丈夫だよ」
 唐突にそう言われて、松本は視線を一之倉へ戻した。すっきりとした一重まぶたの下から、まっすぐな目が松本をとらえている。
「今日の夕方、いつもの宿に着く。夕飯に験担ぎのトンカツを食べる。明日は体育館で調整。明後日の初戦、東京体育館で、オレたちは勝つ。クリスマスの二回戦も、勝つ。二十六、二十七、二十八日も勝つ。二十九日の決勝も、勝つ」
 一之倉の目は、不自然なくらいにまっすぐだ。まるで、そうしてまっすぐに前を見ていないと、不安に揺れてしまうとでも言うように。だから松本は、一之倉が膝の上に乗せていた手に、自分の手を伸ばした。暑いくらいのバスの中で、互いの手はひやりと冷えている。
……そう聞くと、めちゃくちゃな日程だよな。二回戦から五日間連続で試合って」
 松本がおどけて言うと、一之倉がふっと視線を落とした。それから、松本の手を握りしめる。
「まぁ、オレは全試合フル出場でも走れるけどね」
 一之倉の視線が、さっきよりもずっと強く松本の目を射抜く。
「俺の出番を取られるわけにはいかねぇな」
 繋いだ手に血が通って、じんじんと熱くなった。