傘道
2025-12-19 22:47:25
2281文字
Public ビリイト
 

あったかパイを召し上がれ

#billighter1w
【お題投稿〈4回目〉】
お題①: プレゼント
お題②: ぬくもりがまだ残っている
から書きました。

欲張りな自分が嫌いだ。
仲間を死なせたくせに、のうのうと生きている自分が嫌いだ。
憧れの先輩に釣り合わない自分が嫌いだ。
そのくせ別れたくないと思っている自分が嫌いだ。
一人寂しく毛布にくるまって耐えている自分が嫌いだ。
自分が嫌いだ。
嫌で、嫌で仕方ない。
そんなことを考える自分が嫌いだ。




「ライト。」
ビリーがそっと恋人の頬を撫でる。
甘く撫でられてもライトは虚な目をして俯いている。
どうやら、アレが始まったらしい。
ライトは無敗のチャンピオンとして大胆不敵な笑みで華やかな戦闘をするが、実は心に深い傷を負っている。
仲間を死なせた過去も、地下闘技場で暴力を振るった過去も。
何も知らなかった無垢な青年を引き裂くには十分すぎるものだった。
だから自己嫌悪に陥り、一人で虚な闇に怯える。
そんな状態では何もできない。
決闘も家事も何も。
カリュドーンの子のメンバーには上手く隠しているようだが、先輩であるビリーにはお見通しだった。
恋人になった今では、ビリーがライトのお世話をしている。
「今日はパイセンが、美味しいものを作ってやるからな!」
ビリーはライトを毛布でぐるぐる巻きにした。
寒いと落ち込みやすくなるので、温かくなるように全身を毛布で包む。
そのままライトをお姫様のように抱っこしてリビングのソファに運んだ。
「よいしょ。何か映画でも観るか?」
………
ライトは静かに首を横に振った。
「じゃあ、歌いながら作ろうかな。」
そしたらキッチンから料理の音や歌が聴こえていいだろ?
黄色のアイライトを細めて笑顔で聴くとライトは頷いた。
外は静かな雨が歌っている。
スターライトナイトの勇気を貰える曲もいいけど、冬の雨に合わせたリズムを刻もう。
ビリーはフライパンを取り出しながら、郊外で聴いた古めかしいジャズを口ずさむ。
それは子守唄のような心地よい響きだった。
ビリーは歌いながらカボチャをカットして、タネとわたを抜きオーブンレンジに入れて加熱を始めた。
熱したフライパンにバターを落とす。
じゅわと溶け始めたら、大きい鮭の切り身をフライパンに入れて焼き始めた。
両面しっかり焼けたところで、オーブンレンジが音を鳴らしてカボチャの加熱が完了したことを伝えた。
カボチャをスプーンで潰して、塩胡椒を振りかけカボチャペーストにする。
バターの香りを纏った鮭をお皿に避け、再びバターをフライパンに落とし、薄切りにしたタマネギを投入する。
タマネギが透明になったところで小麦粉と牛乳を入れ、塩胡椒で味を整えればホワイトソースの完成だ。
「ここからが腕の見せどころだな!」
常温に戻しておいたパイシートを前に、ビリーは楽しそうな表情をしていた。
ジャズのリズムでナイフが動き、パイシートがお魚の形に切り取られる。
余った生地を丸めて魚の目にしたり、星の形にして魚の形のパイシートに乗せる。
星が飾られた魚のパイシート。
土台になるパイシートの上にカボチャペースト、鮭、ホワイトソースを順番に乗せて魚を模ったパイシートでそっと蓋をした。
フォークでパイシートの端を押さえて、生地が剥がれないようにする。
最後に卵黄でパイシート全体を塗り、予熱したオーブンレンジに入れたらあとは待つだけ。
「余ったこれはスープにしちまうか。」
残された卵白は、コンソメスープの具になる。
クルクルと回しながら入れれば、ふわふわと雲のように舞う卵白コンソメスープの完成だ。
「ライト〜できたぞ〜」
雨音と料理の音、そして先輩の歌を聴いてうとうとしていた翡翠色の瞳が開かれる。
「じゃーん!!パイセン特製、鮭とカボチャのパイだ!」
真っ白のお皿に乗ったお魚のパイ。
お魚好きの猫又が喜ぶパイで、依頼で頑張った猫又に邪兎屋のメンバーが作る特別な料理だ。
今回はカボチャのラーメンが好きなライトのためにカボチャ入りでアレンジしてみた。
童話の世界のような愛らしい姿のパイ。
切るのはもったいないが、丸齧りできない料理なのでカットするしかない。
バターの芳醇な香りを漂わせ、パイはサクッと切れた。
断面が白、赤、オレンジで夕暮れを思わせるパイ。
ビリーはカットしたパイを器用にフォークに乗せてライトの口元に運んだ。
ライトは素直に口を開けて、雛鳥のようにパイを口に入れた。
「美味しい
サクサクのパイ生地。
優しくて懐かしい味のホワイトソース。
ほろほろ崩れる香ばしい鮭。
甘くて好きな味のカボチャ。
本当に包み込むくらい優しさで満たされた夕日のパイだった。
「みんなが笑顔になれるパイなんだぜ!」
ビリーはライトを抱きしめる。
こんなに愛されていいのか?
こんなに優しくされていいのか?
涙を零し始めた後輩を先輩は優しく抱きしめる。
「愛されていいんだよ、俺はライトを愛してる。」
だからどれだけ泣いたっていい。
優しい先輩が抱きしめてあげよう。
マグカップには雲のコンソメスープ。
夕日のお魚パイはまだまだある。
「パイセンもっと食べたい
「食べてくれよ、俺の自信作なんだから。」
雨が降り、古傷は痛むのに。
お前は罪人だ、そう言われてるような感覚が付き纏っているのに。
隣にはお日様のような先輩が居て。
夕日の優しいパイを求む自分が居る。
そんな自分は嫌いではなかった。
この温もりの日をライトが忘れることはないだろう。


土砂降りの雨の中、苦しんでいる貴方へ
お日様のような先輩が夕日のパイを持ってきました。
プレゼントのあったかパイを召し上がれ。