2025-12-19 20:44:44
5741文字
Public 小説(pixiv公開済)
 

セブンデイズ・アドベント

2025年冬、X(旧Twitter)でのユキモモアドベントカレンダー企画に参加し、書いたものです。
つきあっていないユキモモ。でも多分、このあとすぐ! CM明けたらすぐ! くらいの勢いでつきあいます。

お題の全部盛りを考えるうち、ふと、投稿指定日が12/18じゃん? 日数、合うじゃん? と。
ノリと勢いで書きました。いろいろ無理があるのは大目に見ていただけると助かります。

お題(あった方がいい人は使ってください、という方針でした)
仲直り/おはよう/おやすみ/いただきます/冬/告白/キス

おまけ。チョコレート一覧。あくまでもイメージですが、何種類かは実際に食べました。美味しかったです。
18日 ファッジスワール
19日 ソルティキャラメル  
20日 ミルク
21日 チーズケーキ
22日 スノーマン
23日 コインチョコレート
24日 ストロベリー&クリーム、ピスタチオ

【12月18日 仲直り】

 ことの始まりは、いつものオレたちのケンカだった。

 べつに、そんな深刻なやつじゃない。ただ、十二月にケンカをしてしまったのは、ちょっとレアだった。
 いつもの十一月と十二月は、おたがいの誕生日を楽しんで楽しみにして、年末のハードスケジュールをふたりで駆け抜ける。そんなシーズンだったから。

 小さな言い合いから、だんだんとオレの声が大きくなり、ユキの言葉も鋭くなり……引っ込みがつかなくなる寸前におかりんがストップをかけてくれて、その場は収まったものの、いつもの十二月のオレたちらしさ、楽しい雰囲気にひびが入り、少しだけ距離を置いて、ぎこちない空気のまま何日かが過ぎた後。
 ユキから、ラビチャが届いた。

 ☆     ☆     ☆

……アドベント・カレンダー?」
 呼び出されたユキの部屋のリビングに、それは置かれていた。
 オーナメントリボン、デコレーションボール、ベツレヘムの星。クリスマスのモチーフが描かれた小さなペーパーボックスを二段に積んで、上段は1から4まで、下段は5から7までの数字が記されている。
「そう。セブンデイズ・アドベント。今日は十八日で、クリスマスイブまであと七日。ぴったりでしょう」
 チョコレートショップの、店頭販売限定キットなんだって。自分で組み立てて、好きなチョコレートを入れるやつ。
「1番のボックス、あけてみて」
「え、あ、うん……
 言われるがままに、金文字の『1』が印刷された小さな引き出しをそっと開ける。ころん、と転がり出たのは、金茶色のセロファンに包まれた、大粒の丸いチョコレートだった。それと、ちっちゃな封筒入りのミニメッセージカード。指の先で開くと、ユキの細い字で『仲直り』と書かれていた。
「あはは、仲直りのチョコレートってこと?」
「そう。チョコレート言葉は『仲直り』」
「チョコレート言葉って初めて聞いた! 花言葉みたいだね」
「そんな感じ。僕が考えました。たった今」
 なにそれ~と笑っていたら、まあ食べてよと促されて、リボン包みのセロファンからチョコレートを取り出し、小さくかじった。ミルクチョコの殻の中に、ホワイトチョコとダークチョコのフィリングが、マーブル模様になって入っている。ちょっと、オレたちみたいなチョコレート。
 このチョコレートを、ユキがお店で選んで買って、小箱を七つ組み立てて、手書きのメッセージと一緒に詰めてくれたのか。仲直りのために。もう一度、楽しい十二月のカウントダウンを始めるために。
 ――オレのために。
「ユキ〜……
 ありがとダーリン大好き愛してる。いつもの調子で言えるだろう言葉はいくらでもあるのに、なぜだか、うまく言えなくて。じっと見守るユキに、すっごく美味しい、ありがとうって、やっとそれだけ言った。
「どういたしまして。あと六日、全部違う味だから、楽しみにしていて。ちゃんとモモが開けてね」
 満足げな笑みとともに、念を押すようにそう言われ、イケメンの圧に思わずこくこくと頷く。
 ――しかし、十二月も半ばを過ぎて、仕事は佳境。特番にお呼びのかかりやすいオレはソロ仕事も多く、明日もひとりで一泊二日の地方ロケの予定だ。
 さっそく一日、下手したら二日、飛んじゃうな。せっかくユキが用意してくれたのに、残念だな。
 ……って思っていたら。

【12月19日 おはよう】

「おはよう、モモ」
「え、え、えええええ!? なんで!?」
 朝から、ユキが迎えに来た。というか、迎えに来たおかりんの車に、なぜかユキが乗っていた。
 ふたり一緒の仕事の日は、おかりんはオレを拾ってからユキのマンションに行く。のが基本なのに。そもそも今日はRe:valeのふたり仕事じゃない。オレはロケだし、ユキは自宅作業と音楽雑誌のオンライン取材で、マンションから出なくて済む日のはずだ。
「なんでって、今日は一緒の仕事がないじゃない。泊まりのロケだから夜も来られないだろうし、これを開けて貰わないとね」
 そう言って差し出されたてのひらに載っていたのは、ピカピカの金の星に緑色の字で『2』と書かれた紙の小箱だった。
 このために? お寝坊さんのユキが、早起きしてまで?
 呆然としつつ開けたボックスには、空色の包み紙のチョコレートが一粒。呆然としたまま取り出して口に入れ、噛み砕くと、しゃりっと塩の味がした。中には甘いキャラメルフィリング。
 朝の空みたいな包み紙。朝の目覚めみたいな塩味。メッセージカードを取り出すと、『おはよう』って書いてあって、思わず笑ってしまった。
「おはよう、ユキ!」

【12月20日 おやすみ】

『ロケで遅くなっちゃったから、今日はまっすぐ帰るよ。っていうか、いまうちに着いたとこ。ごめんね!』
 オートロックのキーを差し込みながらラビチャを送ると、すぐに既読になった。けれど、エントランスのドアをくぐり、エレベーターに乗って、上階へと運ばれながらじっと画面を見つめ続けても、返事は来ない。
 寝ちゃったのかな。アドベントを開けに行けなくて、がっかりさせちゃったかな。怒って……は、いないよな。いないといいんだけど。
 スマホの通知を気にしながら、部屋の明かりをつけて、ふとテーブルに目を向けると――昨日の朝には無かったはずのものが、あった。
 赤いリボンのイラストに、白抜きで『3』の数字が書かれた小さな箱。
「マジかよ……
 合鍵で入り、置いていったのか。部屋、あんまり散らかってなくてよかった、と胸をなでおろしながら、メッセージカードを取り出す。
 柔らかいユキの字で、囁くように、『おやすみ』と書かれていた。
 チョコレートは、クリスマスらしい赤いセロファンのスタンダードなミルク。この時間にチョコって、どうだろう……まあ、寝る前のミルクだと思えばいいか。ぽんと口に入れると、ほっと落ち着く甘さがいっぱいに溶け広がり、仕事の疲れもいっしょに溶かしていくようだった。
 スマホを手にとる。通知はない。日付が変わるまで、あと五分。もう寝てるかもしれないけど、ちゃんと今日のうちに開けたよ、食べたよって伝えたくて。赤い包み紙を撮って、おやすみのスタンプと一緒に送った。
 今度もすぐに既読になって、それから、おなじスタンプが送られてきた。
 月と星に見守られて、夜空に眠るユキモフ。
 おやすみ

【12月21日 いただきます】

 上の段のラスト、4番目のボックスは、最初の日ぶりにユキの部屋で開けることが出来た。ユキのごはんを食べるのも、最初の日ぶり。
 ユキの手料理と並べて、アドベントボックスが食卓に置かれる。向かい合わせにテーブルに着いたユキに目で問いかけ、頷いたのを見て、小箱を引き出した。
 白金のセロファンに包まれたチョコレートが転がり出る。添えられたメッセージは、『いただきます』だった。元気に読み上げる。
「いただきます!」
「どうぞ、前菜のチーズだよ」
「え?」
 チョコじゃなくてチーズなの? ってよく見ると、フレーバーのところにチーズケーキって書いてあった。いやこれは突っ込まずには居られない。
「ユキさんや。チーズはチーズでも、チーズケーキは前菜よりデザート向きじゃないでしょうか」
「じゃあ、デザートってことでいいよ。食前のデザートね」
「いいのそれ、許されるの? コースとしてのバランスとか」
「わかった。バランスが取れるように、食後の前菜も用意しよう。チーズ繋がりでカプレーゼを作るよ」
「食前と食後の概念が崩壊する……雑に崩壊する……
 ユキってときどき、あるいはしばしば、大らかと言うよりは大ざっぱ。繊細なようで、意外といい加減。
 そんなところも好きなんだけど。
「あいだを取って、アントルメってことでどう?」
「また雑なこと言ってる!」
 笑い崩れながら叫んで、食前のデザートをかじる。とろりクリーミーな、チーズケーキ味のチョコレート。口の中で噛み潰すと、フィリングに練り込まれたビスケットの欠片が舌に残った。
 ……そんなところも、好きなんだよなあ。
 
【12月22日 冬】

 年末進行のあおりで、今日のネクリバ収録は三本撮りという深夜番組みたいなことになっている。前後のミーティングを含めて、ざっと十時間拘束という鬼のスケジュール。でも、それはつまり、朝から晩までふたり一緒にお仕事の日ということでもあるのだった。
 終わったらオレもユキもグロッキーだろうから、流石に今日は無理かも、ってあらかじめ伝えておいた。
 だから、5番目の箱、持ってきてくれると嬉しいな、とも。
「もともと、そのつもりだったけど」
 収録の合間の小休憩。雪の結晶に金色の『5』が書かれた紙の小箱を差し出して、ユキは小さく笑った。
「モモから言ってくれたの、嬉しいな」
「ここまで来たら完走したいじゃん。初志貫徹!」
「さすが。モモらしいね」
 チョコレートのセロファンにも、雪の結晶が描かれていた。小花模様みたいな雪に囲まれて、かわいい雪だるまがちょこんと立っている。
「冬限定のスノーマンフレーバーなんだって」
「え、雪だるま味なの?」
「そんなわけある? 雪だるまの味って、雪の味なら無味無臭じゃない」
「いやいや、分かりませんぞ」
 雪の味。ユキの味。ちょっとドキドキする。
 そっと口に入れ、チョコレートシェルを割り崩すと、ミルキーなホワイトチョコレートフィリングが詰まっていた。純粋で純白で、甘くて甘い。
 ユキじゃなくて雪だ。でも、雪じゃなくてユキだ。
「ユキの味がする……
「雪だるまの味でしょ」
「そうか、雪だるまはユキの味なんだ……
……だったら、僕の味見もしてみる?」
 不意に、声のトーンが変わった。
 え、なに。いま、なにが。なにを。
 はらり、舞い落ちたメッセージカードには、一文字だけ。『冬』と書かれていた。
 雪の季節。ユキの季節。
 遠くから、スタッフの呼ぶ声がする。休憩時間は、終わりを告げる。

【12月23日 告白】

 ふたりで駆け抜ける十二月も、もう二十三日。クリスマスイブイブ。あるいはユキの誕生日イブ。もちろんオレにはこっちが本命。
 明日は奇跡的にふたり揃って遅めの入りだ。奇跡っていうか、二十四日も二十五日もぎゅうぎゅうに予定が詰まっているから、せめて朝はゆっくりめに、というおかりんの心遣いなのだった。ありがとう我らが敏腕マネージャー。
 そんなわけで、オレはユキの部屋にお邪魔していた。今日はこのまま泊まって、日付が変わったら世界でいちばんにユキに誕生日おめでとうを言って、それから、さいごのアドベントを開けさせてもらうつもり。
 買ってきたデリを軽く食べて、シャワーをもらって、すっかりくつろいだ気分で6番目の箱に手をかけた。すると、引き出した手応えがやけに軽い。
 あれっと思って覗き込むと、入っていたのは、いままでのまんまるチョコじゃなくて、ぴかぴかの金貨――のかたちのチョコレートだった。
「かわいい! コインチョコだ。これも同じチョコレートショップで?」
「うん。隠れた人気商品なんだって。果実の風味が強いワインと合わせるのもお勧めですって店員に言われたよ」
「いいね。こんど大量に買ってきて、ワインを飲みながら財宝ごっこしよう」
 話をしながら、ちらりと時計を見た。じきに日付が変わってしまう。その前に、このチョコを食べちゃおう。
 チョコを包む金アルミの継ぎ目を探っていると、ユキの指が伸びてきて、摘んで持ち去った。剥いてくれるのかと思ったら、なぜかテーブルの上に立てて、ぴんと指で弾いた。
 金色のコインが、くるくる回る。きらきら光る。ユキは、見つめている。コインを。その向こう側の、オレを。
……今月の始めにね。ケンカしちゃって、しばらく気まずかったとき。思ったんだ。十二月に、ケンカするべきじゃなかったなって」
 ゆっくりゆっくりと、ユキが話し始めた。
 十二月は、ケンカする月じゃない。仲良くする月だ。しんどいけど楽しく、楽しいけどしんどく、一緒に頑張って、笑いながら駆け抜ける月だ。そこまで考えて、気がついた。
 仲良く、しんどく、楽しく。そうやって、モモとずっと一緒に居たい。十二月も、十二月じゃなくても。
 ケンカしても、仲直りして。おはようとおやすみを言って。いただきますの声を聞いて。冬も春も、夏も秋も。仲良く、しんどく、楽しく。
 一所に居たい。
 一生に居たい。
「そのためには、ちゃんとしなくちゃって思った。だから、ちゃんと、する。……心の準備に、一週間かけちゃったけれど」
 ユキの長い指が、金色のコインを挟む。表と裏。裏と表。手品みたいにめまぐるしく引っくり返して――そういえばユキには、むかし仕事で習った手品の心得があるんだった――コインと指のあいだに、メッセージカードが現われた。
 金のコインと白いカードをテーブルに置き、オレの方へと滑らせる。伏せて置かれたメッセージカードを、めくった。
 今日のチョコレート言葉は、『告白』。
……僕から、伝えさせて」
 ――そうして、ユキがくれた言葉は。

【12月24日 キス】

 日付が、変わった。

 7番目の引き出しは、これまでのものよりも大きくて、小箱ふたつぶんの幅があった。セブンデイズ、ラストデイ。スペシャルなボックス。
 いままではチョコレートをひとつずつ入れていたけれど、この箱には二粒入っているんだよ。って、特別の秘密を明かすように、ユキが教えてくれた。フレーバーと、リボン包みのセロファンの色も。
 オレの色。明るいビビッドピンクの、ストロベリー。
 ユキの色。優しいペールグリーンの、ピスタチオ。
 ふたつの色が、箱のなかでそっと寄り添い、開かれるのを待っている。


 でも、まだ、開けてあげられない。
 チョコレートじゃなくて、オレと、ユキが。
 唇を寄せあい、触れあっているうちは。



  〈Fin〉