ortensia
2025-12-19 18:14:40
3070文字
Public 傭リ
 

傭が足フェチでリにヒール履かせる話。

全て捏造(笑)

 小男がわたしの部屋の床に躊躇なくごろりと転がって一心に見詰める先は、わたしの爪先である。赤い革張りと木板を削った靴底は足に心地良い。だがそれが気色悪い。
 お風呂を上がって綺麗さっぱりしたところに扉を開けたら跪いて靴を仕立てたから履いてほしいとか言って来る男が知らぬ間に部屋に入って最初に言うことだったから驚きに静止したまま湯冷めするところだった。はあ、どういうことなんだ。
 兎も角、靴は兎も角。今夜はもうベッドにもぐろうとしていたところを、一先ず体を冷やさない格好に着替え直して、ソファに座る。男は隣に座ろうともせずただ床から生えたように靴を掲げている。滑らかなアウトラインだが、鋭い光沢と真っ赤な主張が鋭角を想起させる。作った、自分で作ったと言ったが確かに縫い目が覚束ない。この男は堪え性はあるが器用なわけではない。造りを教えたり道具を貸したりした者の顔触れは幾つか浮かぶが、いつからこんなもの企んでいたのか知れないが付き添ってやった連中のご苦労なことである。それを見下ろしているのも疲れて来た。いつも小さいとはいえこれでは視線が低過ぎる。
「じゃあ、ほら。」
 スリッパを突っ掛けただけの湯上がりの裸足を目の前で揺さぶってやる。
 さっさとなんとかしたい気持ちが勝った。
 ぱっと顔を上げた先がこちらの面ではなく足であることに閉口せざるを得ない。こいつ。
 男は靴を一度丁寧に床に置くと、踵に両手で包み込むように触れ、そのまま履き物を落とした。
 そこで足に纏うものが男の手だけになったところで、その目が丸くなった。
「おまえ、まじかよ。」
「なに?」
 男が爪をなぞった。
「嗚呼、ペディキュア?」
「おまえ、本当、最高。」
「は?」
 付けていればいつも目敏くマニキュアを見付けて爪をなぞって来るのは珍しいからだとばかり思っていたが、この男。
 この男のことをそれ程よく知ってるわけではない。もしかするといずれ隠れた肌を知ることになるかも知れないと思ったことは幾度かあるが、こんなことになるとは。部屋に招いたのだって、先日が初めてだ。二回目はあっさり今訪れ、しかも無断侵入だが。
 いつも手にそうするように色付いた爪を自身の指の腹で撫でる男の息が掛かって湿る。風呂の熱気はとっくに肌から乾いた筈なのに、また濡れる。これから靴を履くのではないのか。濡れた足で靴を履くのなんか御免なんだが。
「舐めたい。舐めていい?」
「は?だめ。」
「しゃぶっていい?」
「要求がエスカレートしてる。」
 爪先を丸めて拳のようにした関節の外側で男の顔を顎から押し遣る。
「靴を履かせるって話でしたよね?べとべとで靴を履くなんて嫌でしょうが?」
 きつくそう言えば、ああうんそうかって、そうに決まっているでしょうが。下がった視線が心底残念そうだ。
 片手でこちらの足を、片手で靴を取った男はもう、一度触れた足から手を離す気がさらさらないような気概を感じた。気のせいだと思うが、思いたいが。
 すっと爪先が革の裏に触れ、意外にも滑らかで柔らかい感触を伝えて来る。徐々に進む爪先は、名残惜しむように爪の色を赤に隠して行く。小さな溜め息と共にそれを追う目は切なげで熱がこもり、火を噴いたりしないかそわそわする。やっと靴底に触れた足の指の腹は、つるりとした木の感触を伝えた。よくやすり掛けされて不快感が全くない。ゆっくりと触れた足の裏全体が着地する迄、引っ掛かりも痛みも一切なかった。もはや狂気だ。
 全部入ると、男は今度は出来るだけ自分が触れている手の面積が少なくなるようにして手を広げて足を靴ごと晒し、全体を確かめるように見詰めた。男の手に比べて足も靴も大きい。
 それを段々持ち上げ始めるので膝が上がる。力を抜くくらいのことしか出来ないが、脚一本取ってもそこそこ重い筈だ。眼下の男はその辺りなんとも思ってなさそうだが。
「もう舐めていい?」
「だめ。」
 顔を離して全体を眺めていた男だが、またそんなことを言い出した。靴なんて舐めるな、足もだが。いや靴を作ったのはこの男本人だが。普通に嫌だ。
 それでも今度は顔を近付けて目に触れそうな程見詰めている男の息で革が曇る。まじかこいつ。
 くるぶしを噛まれた。
「ちょっと!?」
「ごめんつい、怒っていいから。」
 怒っていいからじゃないなんにもよくない。それじゃ怒っても無駄だと言っているも同義だ。
 男がもう片方の踵を取った。そうだまだもう片足あるんだった。
 うんざりして思いきり背凭れに倒れた。それに連動して足が動きスリッパは脱げ、上がった足がそれを持った男の手ごと顎の下を抉った。やめろ嬉しそうにするな。足の爪が引っ掻いたせいで奴の喉の皮膚が赤を垂らしている。血の色がペディキュアの色に上から乗り上げる。男が喉を鳴らした時には遅かった。
「ア!もう、舐めるなって言った!」
「ごめん。」
 べろりと舐めて、軽い謝罪。巫山戯てる。
「ちょっと!?だから!」
 謝った口で、本当に舌の根も乾かぬうちにその口の中に食べられた。
「いや、仕方ないから。だって血付いちゃったから。」
 仕方なくないしだってでもない。しゃぶりながら喋るな。
 怒りのまま足を引こうとしたが、軽く歯を立てられて思わず足を止めてしまった。だがそんな反応、よくないに決まってる。案の定奴の目が嬉しそうに笑った。そういう時だけこっちを見るな。苛ついて反対の足を踏み締めたら、いつの間にか奴の手によってその膝の上に乗せられていた。腿を踏み躙られても息を震わせるだけでその口からは解放されそうもない。キトゥンヒール程低くはないが、コーンヒールでは幾ら細くともこの程度か。咥えた足に添えられた男の手と反対の手が宥めるように靴を履いた足を撫でて来るのが苛立ちを煽るので、もう下手に動かないことにした。
「もう嫌。」
「ごめん。」
 随分気色ばんだ謝罪だこと。それでも口から足を離した男の手を振り解き、そのまま男の襟ぐりで適当に足を拭う。男は大人しくされるがまま、いっそ穏やかとも取れる顔でこちらの面を見ていた。
 男の体からこちらから足を離すとすかさずまた手が伸びて来て、靴も迎えに寄越して、さっきと同じかそれ以上の時間を掛けて履かせた。もう見ていられなくて天井を見上げた。ただ足の裏の全てが靴底に触れるのを待った。
 漸く終わったところで、また靴を履いた足を、今度は両足揃えて持ち上げられるので、反射で右手でソファにしがみ付いた。手よりも足のほうが、ちょっと力を入れただけで動くものだと、普段は思っていた。
 さて、両足揃ったところで、今度は部屋の中を歩けとでも言われるのだろうか。歩けるのだろうか、やったことのないことに自身はない。
 しかし足をゆっくり床に下ろした男は、その場でごろんと横たわった。床にだ。漸く地に足着いた心地もそうだが、床に寝転がった男を見下ろすために身を屈めた。
「今度はなんです?」
「こうするとよく見れる、近いし。」
 床は舐めないでほしい、そういうつもりはないだろうが、見てる分には懸念する。
 癖で足を組むと、視線が着いて来て、そのまま仰向いた。猫みたい。毛並みで床掃除が出来るだろうか、舐める以外で。
 面白くなって組んだ足をゆっくりと揺らすと目がぎょろりと動くから案外可愛いかもしれない。
 組んだ足をほどいて、寝転がる男の顎を爪先で上げる、傷はもう固まって、赤い線がエナメルに反射していた。


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いつもリアクション絵文字等ありがとうございます。