syanpon
2025-12-19 01:35:38
1855文字
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こういには責任が伴うので

オトスバ


「はたちになったらけっこんして!」

 屋台で買ったきらきらの指輪と道端に生えているタンポポとシロツメクサ花束を作った。幼い子供の拙いプロポーズに3歳年上の幼馴染はなんと答えたのだったか。

 マセガキだったと思うがオットーのことが大好きであったしその気持ちは変わっていない。
 そう、年月が経ってもその気持ちは変わっていないが昇華の方法が変わった。

「いや今月の雑誌の表紙のオットーメロすぎる……

 ――ナツキスバル19歳、俳優になった幼馴染の『推し活』にバイト代を費やす立派なオタクだ。
 最推しはオットー・スーウェン単推しだ。
 ちなみに自認で軽度の同担拒否なので同担の友人はいない。

 観賞用の雑誌の表紙だけを眺めて1時間が経つ。
 ちなみに雑誌は観賞用と保存用と保存用の保存用に三冊買った。

 プロにデコられた好きな男の顔面を好きなだけ見ていられる幸福感にため息をつきつつほんの少しだけ申し訳なさも胸を刺す。何せオットーが俳優活動をすることになったのはスバルが勝手にオットーの写真を貼って芸能オーディションに応募したからだ。
 おふざけ半分、本気半分くらいだった。
 送ったその日にオットーに連絡をして呆れた顔をされたのを今でも覚えている。その2週間後に芸能事務所からスカウトの電話がかかってきててんやわんやになったのも覚えている。あの時のゲンコツはめちゃくちゃ痛かった。

 ただあの頃のスバルもプロポーズをしたスバルと同様に真剣であった。

 なぜなら芸能人はとことん『推せる』。

 一般の人間に好きとか愛してるとか結婚してとか俺の生まれてきた理由とか言ったらキモいし重いストーカーだ。   

 でも好きな人が芸能人になってしまったら?

「好きも愛してるも合法なんだよなぁ……。うわー!! このオットーカッコ良すぎる白も黒も赤も似合うの何? 結婚して……無理好き……

 問題と言えばスバルが思っている以上にオットーが売れたことにある。今をときめく売れっ子俳優になってしまった彼は滅多に家に帰ってくることがなくなりバイトで忙しいスバルとも顔を合わせる機会がグッと減った。久しぶりにスバルの部屋に上がったオットーが自分の顔ばかりの部屋に大絶叫したのは何ヶ月前のことだっただろうか。

「みんなのオットーになっちまったもんなぁ。国民的スターだぜ? オットーのくせに」

 ゴロゴロと転がる。
 好きも愛してるも簡単に口に出せる。
 なぜなら芸能人になったから。
 みんなのものになって、スバルの幼馴染ではなくなったから。

…………あ! 生放送!!」

 申し訳なさとは別に胸を刺す痛みに気がつかないふりをするのだってもう慣れた。リビングに降りてテレビをつければ柔らかい灰色の髪と綺麗なコバルトブルーの瞳をたたえた男が画面いっぱいに映る。顔がいい。好き。

「今回スーウェンさんが出演するのは恋愛ドラマということですが」
「第一話で殺される当て馬の役をそう評されるのちょっとおかしくないですかねえ!?」
「あはは! まぁまぁ、スーウェンさんの見事な死体の演技は今日21時の初回拡大SPをぜひ見てくださいね! ちなみにスーウェンさんは恋とかしたことありますか?」
「ちなみにこの恋愛ドラマ、1話完結のオムニバス形式で僕は毎回死ぬらしいです。なんでですかね!? んん、恋ですか……

 それ恋愛ドラマじゃなくてなんか別のジャンルじゃないんだろうか。スバルはガチ恋同担拒否なので女優といえども恋愛シーンが少なそうなことに関してはありがたいが。
 
「恋、というか結婚を誓った相手なら」
 
「「えっ」」

 声が重なった。
 スバルと画面の中の視界の声が。

 生放送だからあいにく巻き戻しができない。驚いて目を見開くスバルを見つめるように画面越しにオットーがゆるりと微笑み口を開く。

……二十歳になったら結婚するんでしたよね? あんたから言ってきたんですもん忘れたとは言わせませんよ」
「え、あ、え? ドッキリ……???」

「推し活、おおいに結構。他の人に目移りされてなくてむしろ良かったです。あんたのわがままには全部応えてあげますしなんでも叶えてあげる。だからはじめの約束を守るくらいの甲斐性はくださいね」

「あと一年、楽しみですね」そう言った後に俺の名前を生放送で呼びやがった大馬鹿野郎にいくら罵詈雑言を浴びせても画面越しにはとんと伝わらないのだ。