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よるうみはる。
2025-12-18 22:49:00
3028文字
Public
原作軸
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企画はお蔵入りになった。
セクシーコスカレンダーってなんだよ!!!ってなって衝動でかきました。
れめししがただただいちゃついてます。
「言い訳」
正座をした一九〇センチ越えの男の姿を見下ろす獅子神に、叶は視線だけを上げ、悪びれもせずに口角をゆるめた。獅子神敬一は、怒りを抑え込むように感情なく言葉を発した。
「十二月にカレンダー企画をしようと思って」
「本音は」
「敬一くんとイメプレしたい」
思わず拳を振り上げた獅子神に対し、叶は咄嗟に手を上げて防御の仕草を取った。本気で殴るつもりはなかった獅子神は、その様子にひとつ溜息をつき、拳を下ろした。どうせ殴らないと分かっている、その態度が余計に腹立たしい。頭の痛い現状に、獅子神は額に手をあてた。
叶の背後にある段ボール箱。そこそこの大きさで、朝一番に運送会社から届けられたものである。当然、獅子神には、あずかり知らぬ荷物だった。誰の荷物かと宛名を確認すると、有名なネットショップの会社名。加えて、記載の名字は表札と間違いが起こらないように【獅子神黎明】と丁寧な字。
——
ふざけるな、と喉まで出かけて、飲み込む。
送り主を理解した獅子神はとりあえず諦めるしかなかった。困惑した配達員に荷物を了承し、叶を呼び出したのが今の現状である。
箱の中身は、服だ。ブランド品から始まり、安っぽい薄い生地の
――
いわゆるコスプレ衣装まで様々である。詰め込まれた段ボール箱を覗き込み、バニーガールのような衣装を発見したところで、叶が到着したので獅子神からの雷が落ちて、この様だ。
「グッズ活動の一環で、カレンダーを作ろうと思ったのは本当だぞ!」
「それで」
「衣装選んでたらさ〜敬一くんにえっちな格好してもらいたいなぁって」
時間帯は昼間。獅子神の家にはまだ使用人の二人がいまもせっせと仕事をしている。自宅でできる仕事とは言え、獅子神とて暇ではない。チャートの確認も、依頼された講演用の台本だって待っている。資料作成を担っている二人は、今も質問もできず、リビングに近づかないように自分の仕事に努めていることだろう。
「暇じゃねーんだけど」半眼になった視線を向けるも叶には暖簾に腕押し状態だ。「
……
カレンダー作ったら帰んのか?」
カレンダーを作るというので、獅子神にセットやらカメラやらを任せるつもりなのかと、そういう意味で尋ねたが、叶は零れそうな目をぱちくりと瞬きさせた。こいつの目でっけーな、なんて獅子神は意識外に思う。
「ちがうぜ敬一くん。カレンダーはおまけ」
「あー」
なるほど、まるで冗談のように吐かれた本音のほうが本気だったのか。アイスブルーの瞳が氷のように冷えわたる。細めた瞳で、平坦な声が漏れた。
「却下、帰れ」
「えー! オレ敬一くんとイメプレしたくて送ったのに!」
やだやだと駄々をこねる二十八歳児。一度鏡にその姿を見せたほうが良いのかと思うが、この男が大人しくなるには獅子神が了承するほかない。無理やり外に追い出すのも骨が折れる、
――
それに加えてどう足掻いても獅子神は叶に甘くなってしまう。
獅子神は一度、深く息を吐いた。肺の奥に溜まった苛立ちを、ゆっくりと沈めるように。
「
……
お前な」
呼ばれただけで、叶は嬉しそうに肩を揺らす。正座のまま、背筋だけは妙に良いのが餌をお利口に待っている犬のように思えた。なんだお前。その姿に、もう笑うしかない。どこまでも自分が困っていようと叶は、獅子神が許すことを知っているし、許してもらえるラインをきっちりと理解しているのだ。
「あーもう、分かった。一着だけな、何してえんだよ」
「さすが敬一くん!」と、待っていましたと言わんばかりに立ち上がった叶は、段ボールの中をかき分けて衣装を床の上へと並べていく。「オレさあ、敬一くんにやってもらいたいことあるんだよね」その様子を獅子神は胡乱な目で見下ろした。派手な色、意味の分からない装飾、どう考えても日常生活に不要な布切れの山。
「
……
言っとくけどな」
釘を刺すように低く言う。
「俺は役になりきるとか、そういうのはやらねぇからな」
「えー」
即座に不満そうな声が返るが、叶は手を止めない。布を広げ、畳み、また別の衣装を引っ張り出す。そのうちに、あったあったと、奥から取り出したのは校章の付いたブレザーだ。
「敬一くんと学生ごっこやりたいんだよね。黎明センパイ、って呼ばれたい」
「学生時代なんてロクな記憶ねえんだけど」
「はは、じゃあ上書きでもしようぜ」
「ほら」と渡された度の無い眼鏡となんとも薄っぺらい生地のジャケット。中はシャツとニットベストでなんとかなるだろうという適当さだ。それでもなんとなく形にはなるらしく、獅子神は目の前で着替えを始めた男に追随するように袖を通す。
「敬一君とは二つ違いで、もちろん付き合っててさぁ、たまにオレの体操服借りに来てくれるんだよな!」
「
……
妄想たくましすぎねえか?」
余りにも具体的すぎる設定に軽く引きつつ、シルバーの細フレームを掛けて獅子神はゆっくりと叶のそばに近寄る。叶と言えば、いつものパーカーにブレザーを羽織って、ボトムを着替えたぐらいだったが、似合ってはいる。だが、どう足掻いても学生には見えない。もちろん獅子神自身もだ。未成年のあの初々しさは疾うに失われているのだから仕方がない。
不意に叶がしゃがみ込んだので、獅子神も追いかけるようにその場へと座り込み、叶と視線を合わせた。ブレザーの袖から覗くパーカーの袖口は、相変わらず手の甲まで隠して成人男性の萌え袖状態になり果てている。その手が、獅子神の頭へとのび、セットされた髪をくしゃくしゃにすると、あっという間に前髪の下りた獅子神が現れた。
「眼鏡でさえない感じ、かわいいね」
叶がわざとらしく首を傾げる。その仕草がやけに板についているのが腹立たしい。
「うるせえよ馬鹿」
「センパイにそんな口聞くなんて悪い奴だな敬一くんは」
ジャケットの生地は頼りなく、動くたびに肩が少しだけ窮屈だ。獅子神は叶をじっと見つめて、仕方がないと諦念を吐き出す。この男は願ったことが叶わなければ、梃子でも動かない。叶が期待した視線を向けてくるので、広いリビングでふたり、膝を突き合わせて秘密を語るようにひっそりとした声で、呼びかける。
「せんぱい
……
」
「もう一声」
「
……
れいめい、せんぱい」
呼びかけた声は、自分でも驚くほど素直に響いた。その音を確かめるように、叶は一拍だけ動きを止める。視線が絡み、距離が詰まったまま、逃げ場だけが消える。
――
次の瞬間、叶の手が頬を掴み獅子神のくちびるをかぷりと塞いだ。
珍しく間にある眼鏡のブリッジがかつんと叶の鼻骨に当たる。深くくちびるを重ねるには邪魔だったが、今は息を奪うほどでもない。
子どものごっこ遊びの延長のような触れるだけのキスに、獅子神はそっと視線を下げた。
「このあとは
……
」
どうなるのかと尋ねる前に、さえぎるようにして叶が言葉を重ねた。
「オレの家と、敬一くんの部屋、どっちがいい?」
本当に学生のシチュエーションかと聞きたくなるような質問だったが、内心では少しだけ楽しくなっている自分がいた。叶も恐らくそれを見越してのことだろう。年上の先輩と出来る秘め事を期待するかのように、獅子神は少しだけ意地悪な笑みを浮かべると「黎明せんぱいの部屋がいい」と言葉にしたのだった。
その後、獅子神の仕事はひとつも出来なかったということだけを報告しておきたいと思う。
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