墨色
2025-12-18 18:19:04
2842文字
Public
 

カレンダーに記さない熱

セクシーコスカレンダー
その単語に突き動かされて書いた……のに、セクシーもコスもカレンダーも行方不明\(^o^)/
いつものれしだよ

「漸く茶番が終わるな」

 右肩を貸している村雨が、やれやれと言った様子で前方を歩く叶に視線を送った。
 叶はイージーモードのリーダーに背中から何やら話しかけていた。……いや、背中越しと言うより、肩に顎を乗せている。
 ……いやいや、距離が近すぎねえかっ?!

「心拍数が上がったな」

 村雨がニヤリとした笑みで言う。

「うるせー」

 肩貸すのやめるぞ?
 叶のパーソナルスペースは近い。だが、それは入国審査をパスした人間にだけだと……思っていたんだが。あいつ――うじゃめは、今の所叶のお眼鏡にかなったとは思えないのだが。それはオレの願望だったのか?
 胸の内をぐるぐると黒い感情が渦巻く。こんな些細な嫉妬心など、もう湧かないものだと思っていたのに。叶の前では、オレはイヤでも自分自身の知らない面を見せつけられる。
 そんなオレの気持ちを知ってか知らずか、後ろを振り向いた叶と目が合った。
 何か新しいおもちゃを見つけたような顔をしている。
 あぁ、コレはオレでも分かる。碌でもないことを思いついたな――と。

 
********


 あの(チャンネルが)消えてしまった配信者たちとのゲームと、温泉旅行が終わって数日後。

「敬一君!カレンダー作るぞっ!!」

 当然のように合鍵で勝手に入ってきた叶の手には、何やら本格的なカメラ(多分一眼レフと呼ばれるものだろう)があった。

「は?何言ってんだ?」

 いつもの突飛なアイデアに、これまたいつも通りオレも返す。

「この前のアイツが『なんでセクシーコスカレンダーとか出さねえんだよ』って考えてたからさー」
「おい、ちょっと待て」

 オレは叶の胸ぐらを摑む。

「なんであの雑魚にそんなこと言われてんだ」とか「オメーが人に言われて何かヤルのかよ?」と言いたい気持ちをグッと堪える。
 そして、叶の目を数センチの距離で睨みつける。


……人に、見せんのかよ」


 絞り出した言葉に、叶はパチクリと瞬きすると、ニィッと瞳と口を三日月の形に変える。

「最初に出る言葉がソレか?独占欲の塊だな」
「オメーに言われたくねえよ」

 否定はしないが、ダレのせいだと思ってんだ。

「大丈夫だぞ。カレンダーを作っても売ったりしないし」

 叶が両手を挙げる。オレは訝しがりながらも、叶のパーカーから手を離した。

「お互いのカレンダーを作って、交換しよう」

 いいアイデアだろ?と言われて、思わず頷きそうになる。いやいや、流されんな。

「飾って良し!使って良し!だな」
「使わねえよっ!!」

 下世話な提案に、間髪入れず突っ込む。

「あれ〜?カレンダーって予定書き込んで使うものじゃない?」
……っ!!」

 頭上からニヤニヤとした視線が降り注ぐ。くそっ。

「まあ、オレはおかずに使うけどな!」
「黙ってろ!!」

 いや、黙って使えと言うわけではねえからな。


「そんなわけで、カレンダー作るかは別にしても写真撮ってみるぞ」

 カメラを構える叶に、仕方なく気が済むまで付き合うことにする。早目に折れておかねえと、よりヒドい代替案が出てくるのは経験上知っている。

「どんな格好がセクシーだと思う?」

 まさかコスプレ衣装も用意してんのか?と頬が引き攣るが、カメラ以外は持ち込んでなさそうだ。

「敬一君は、どんなオレがセクシー?あ、裸はダメだぞ」

 オレが答えずにいると、叶がフードを外し胸元のドローストリングを緩めた。いつもは隠れている鎖骨が露わになる。
 その意図が分からない子供じゃないから困る。

 
……いつものオメー」

 
 見せつけられる胸元から視線を逸らして答えた。

「それじゃ、いつでもオレにドキドキして興奮してるってこと?」

 満足する答えだったのだろう、笑顔でオレの腰に両手を回して叶が問いかける。

……さあな、どうだろ」

 隠し事など無駄な相手に、それでもささやかな抵抗としてはぐらかすような言葉で濁す。
 そのオレの態度もお気に召したのか、叶の機嫌は上々のようだ。極上の笑顔でオレの首筋に顔を埋めているし、腰に回された腕の力は強くなっている。
 
「じゃあ、オメーはどうなんだよ?オレの……

 人生で人に向かってセクシーなんて言ったことがないので、口にはせずに尋ねる。
 顔を上げた叶が眩しい笑顔で答えた。
 
「えー、やっぱり裸かな?」
 
「テメエッ!!」

 人に恥ずかしいこと言わせといて、なんだその答えは!?

「そう即物的なことじゃなくて」

 食って掛かろうとするオレを制して、叶の指先がオレの頬に触れる。そこから、輪郭をなぞるよう顎、首、鎖骨、肩――と指が滑っていく。


「敬一君が、自分の持ってるものを磨き上げた結果だろ?」


 左胸を指差し、叶が瞳を細めた。

「だから、オレは敬一君の顔も身体も好きだよ」

 叶の右手が、オレの左手の小指を摘んだ。 

「敬一君自身が一番セクシーだよ」

 恭しく爪にキスされる。気障な仕草が何故似合うのか。

「カレンダーは作らないから安心していいぞ。オレだって、敬一君のあられもない姿を誰にも見せたくないからな」

 たとえ印刷会社の人間でも、と付け加えられるが心配するのはそこじゃねえよっ!

「そもそもそんなの撮らせねえよっ!!」
「そんなのって、どんなのだ?実演してみせてよ」

 下卑た笑みすら色っぽいのは反則だろ。惚れた弱みか、それとも――

「敬一君が期待してるからだろ」

 その千里眼の前に、オレはすでに丸裸になっているみたいだ。

  
********


「敬一君さ、オレのスーツ姿好きでしょ?」

 男二人でも余裕のあるキングサイズのベッドに二人。手足を投げ出して天井を見ていると、叶がこちらに顔を向けた。

「オレも敬一君のスーツ、好き。ちょー好き」
「ありがとよ。……オメーにとっては、スーツ姿がもはやコスプレだな」

 何度か見た、ドレスアップした叶に見惚れたことを悟られないよう、茶化すように礼を言う。

「そうだな。それじゃ、スーツでコスプレプレイするか?」
「は?」

 コスプレが既にコスチュームプレイだろ?……って、そうじゃねえ。

「あー、最終的に脱がすから一緒だけどな」

 叶が首を傾げながら覆い被さってきた。まだ熱の残るお互いの身体は熱い。


「洋服なんて、脱がすための口実みたいなもんだからな。せいぜい着込んでくれた方が楽しみが増えるぞ」


 着込んでない肌に唇が這う。オレは叶の背中に腕を回す。肩甲骨を撫でると、力を込めて抱き寄せた。

「何も着てねえのが一番だ」

 触れ合う肌が気持ちいい。

「その通りだな」

 叶の髪の毛が肌に当たるくすぐったさの中、柔らかな唇がオレのそれと重なった。
 まだまだ身体の熱は冷めそうにない。