タロ文庫の作品置き場
2025-12-18 10:02:56
6383文字
Public 作品
 

1,100回目のプロポーズ

2022-04-18
ペンタゴンから帰ってきて初デートについて思い出の擦り合わせをする二人の話。

 仲間と別れてシークウィンブルーのベントレーへと乗り込むと、運転席に座った男はシートベルトを締めるより早く甘い声を出した。
「なぁ、ホテル泊まろ」
 ダークウッドの車内でペンタゴンからのライトを受けてアーモンド型の目がとろりと輝く。
 旧友の熱烈な感情の交感に充てられて気分が高揚しているのは自分も同じで、芳醇なワインの苦味を伴って身体は更なる酩酊を求めている。
 長年連れ添ってきた相手が気づかないはずはなく、お伺いの形を取ってはいるがハンドルを滑る手は既に自宅とは違う方向へ傾けようとしていた。
 ウィンは身体の熱を押しやってカチリとシートベルトを締めると、運転席の大きな誘惑のかたまりにジト目を深めた。
「行かない。家に帰るよ」
 たっぷりの険を含んで言い放ち、腕を組んでフロントガラスの向こうへと視線を固定した。ツンと上げた顎から頬へとトップの不満たらたらな声があたった。
「えー! ここからなら家よりホテルの方が近いのに。お前も出勤の手間が省けるし、いいだろ」
 ウィンの家業はホテル経営だ。ウィン自身は経営には直接携わっておらず、関連子会社を任されている。そのオフィスがあるのがトップが向かいたがっている川沿いのホテルである。そのホテルの最上階の一室をトップと共同で契約している。いつでも、自分達が使いたい時に使うことができるロイヤルスイートだ。ペンタゴンから幾度となくそちらへ車を走らせてきたが、今日は首を縦に振ることは出来ない。ウィンはVIP席で行われたワインゲームを思い出して再熱した感情のままもう一度睨みつけて目だけでトップの提案を制した。トップは色気を湛えていた美しい顔に気圧されたような苦笑を浮かべてエンジンをかけると、ハンドルを二人の住むペントハウスの方向に切った。
 
 
 
 ベントレーを駐車場に滑り込ませてから部屋に入るまで掴みっぱなしだった手首を、ウィンは靴を脱いでも掴んだまま、つんのめるトップをリビングの飾り棚の前に立たせた。
「ウィン、怒ってるのか?」
P’トップ」
 少しくらいは心当たりがあるのか、トップがゆっくりと問いかける。ウィンは飾ってある沢山の額縁の中から少し年季の入ったそれをトントンと指でつついた。
 学生時代のすったもんだを経て正式に付き合い始めてから、プライベートは勿論のことビジネスでも二人は頻繁に海外へ飛ぶ。商談がひと段落すればその足でリゾートに立ち寄り、ひとときの甘い時間を過ごすこともあった。そのひとつひとつを写真に収めて、二人の思い出を家のあちこちに飾ってある。隣には先月一緒に行った香港のシンフォニーオブライツをバックに撮った写真があり、トップは一度それを見て目を細めてからウィンの手入れが行き届いた指先を辿った。
「怒ってるんじゃない。呆れてるんだ。今までも色々あったけど、今日のは何?」
「ウィン~」
「忘れただけじゃなくてゲームのネタにするなんて」
「ノーン、ウワン~」
 ウィンの指の先では、インド洋の貴婦人と呼ばれる美しい海と共に夕日に照らされた二人が、腕を絡めて立っていた。髪の色は今よりも派手で笑う顔はどちらも若い。
 初めて二人きりで過ごしたモーリシャスでのバカンス、ウィンは忘れたことなどない。
 甘い呼び方で呼んでもダメだ。写真を差していた指でピアスがじゃらじゃら付いている耳を引っ張る。
「P’トップが行き先を決めたんだよ。それも忘れちゃったの?」
「いいい痛いえっと、その、モーリシャスは島だろ? 俺が言ったアフリカは大陸のことで」
 身体を不恰好に傾けたまましどろもどろと言い訳をするトップにウィンは鼻から細く長いため息をついた。放るようにトップの耳から手を離し、ポツリと呟く。
「まぁ仕方ないか」
 それは自分でも分かるほど急激に温度が下がっていて、トップの気まずそうに歪めていた口がぴたりと閉じた。ウィンは、しまったなと思いながらも酔いで緩まった記憶のレバーをそのままにして、当時の思い出と共に流動してきた感傷に浸かってみた。
 
 
 
 ウィンにとって初めてのデートは並み居るトップの〝可愛い人たち〟を薙ぎ払い掻っ攫った勝利のトロフィーだった。オープンキャンパスで一目惚れして大学や部活のSNSで追いかけた。入学してすぐにチアリーディング部の入部試験に合格して、先輩後輩の関係から根回しとアピールを根気強く続けた成果だった。
 だがトップにとってその旅行は、並み居る“可愛い人たち〝の中から猛スピードで飛び抜けてきた“勢いのある可愛い子〟の頭をよしよしと撫でるようなものだった。いつものことだ。大学のチアリーダーは本当に悪い男で、意地悪ではないが優しくもなかった。
 トップがそれまでのようにリゾートアクティビティの一つとしてウィンを〝こなそう〟としたことをウィンは知っている。
 ただ実際はトップの中のウィンの可愛さの価値観を覆されて、帰国後から二人のパワーバランスが変化することになるのだが。
 
 
 
 写真はそんな旅行の初日、チェックインしたホテルのプライベートビーチで撮ったものだ。まだウィンの何も知らないトップの笑顔は他のどの写真とも違っている。あえて飾ることでウィンを愛することがどれほど尊く、パートナーになれたことへの喜びをいつでも噛み締められるようにしていたはずなのだがこの体たらくである。
 トップの口と尻の軽さは今に始まった事ではないのに、こんな気分になるのは友人の婚約者である若い人の誠実さに触れたからか。
「ウィン、ごめんなさい」
 瞬きが増えたウィンにトップははっと息を飲み、ものすごい勢いでウィンの両手を握りしめてひざまずいた。
 音がするほど強く膝をつくから、思い出から引き戻されたウィンが痣になっていないかと少し気持ちが逸れた先で、トップがとんでもなく情けない顔をしてこちらを見上げた。
 ともすると軽薄で冷たく見える美貌は、彼の意のまま感情のままに表情筋を動かすことを惜しまない。柔らかい笑顔も思わせぶりな流し目も、すぐに〝仲良くしたい〟相手を虜にする。
 だが富裕層の子供らしい教育や環境を受けてきたトップは余裕のない姿を絶対に見せない。同じような立場のウィンだから分かる。必死な顔でなりふり構わず縋り付くなんて、本当に無くしたくない大切な何かにだけするものだ。
 トップがそれをやるのは、ウィンにだけである。
 くしゃっと眉尻を下げて、潤む目には色香でなく哀愁が漂い、いつも上向きに緩む口角は今はへの字に曲がっている。
 折角の美貌が台無しだ。情けない。
「俺はお前とのことは全部大切だと思っているよ。本当だ。ただ思い出がいっぱいありすぎて、初めてのデートよりももっと自分の中で重要なものに記憶が優先されちゃったんだよ。忘れていてごめんね。仕方ないなんて言わないで」
 掴んだ両手に顎先を乗せて、アーモンド型の目は水気を多く含んでいてゆらゆらと揺れている。
「許して、スティーラック」
 きゅうんと見えない耳を垂れさせて、語尾を伸ばした絶妙な甘えた声が形だけじゃないお伺いを立ててくる。
 幾度となくこうして両手を掴まれ跪かれた。時には振り払って何も言わずに部屋を出て行って一晩帰らなかったり、胸ぐらを掴んでそのままベッドに押し倒して一晩中啼かせてみたりしてきた。今回はふっとため息をついて、ウィンは少し強めに握ってくる長い指を親指でそっと擦った。
「思い出してくれたならいいよ」
 トップの言う通り、初デートから後の人生において自分たちは大切な思い出がありすぎる。
「ぼくも忘れてP’トップに怒られることもあるしね」
「寧ろそっちの方が多いしな」
「なんだって?」
「ううん! 何でもない! 二人で作った思い出だもの。片方が忘れたらもう片方が思い出させよう。そうすれば俺たちの毎日はずっと共有されるよ」
 ね? と許しを得たと感じたトップはウィンの手の甲に頬を寄せて小さくキスをした。
 スリスリと擦り寄る仕草がありし日のカゼラネイチャーパークで見たチーターの子のようで、これだからネコ科はずるいと身を屈めて地毛が見えるつむじにキスをし返した。
「P’トップの毎日をずっと共有したい」
 ぱっとと上がった顔がまた美貌が台無しなほどに感情が露わになる。潤む目の色がまた違う色に変わる。ウィンはこの目が大好きだった。しっかりと視線を合わせてゆっくりと言葉を紡いだ。
「おじいちゃんになって二人ともボケても、ぼくが思い出させてあげるよ」
 その目は瞬きを一つすると更につるりと艶めいて、ウィンはお気に入りの宝石にやっと臍の位置を元に戻した。猫の喉を撫でるように擦っていたトップの手が徐にウィンの指を握り直して、薬指に恭しく唇をつける。
「ウィン。俺と結婚してくれる?」
 トップからのプロポーズに、ウィンはまたため息をついた。呆れや寂しさからではない、満たされた時のあたたかいものだ。
 もう何度も何度も繰り返されるプロポーズは、時に日常会話のついでだったり今みたいに仲直りの一端で言われる。または厳かに、誠実に、軽口を引っ込め本心を露わにして。
 人生の選択肢が多い男のその人生の覚悟を丸ごと捧げてくる言葉は、聞くたびに震えてしまう。
 自分はこの覚悟と一緒に生きていくと決めた。どんな場面でどんな風に言われても頷くと決めている。
 この男に呆れることは数知れず、この男もまた臍を曲げる自分に今後も喜んで尻の下に敷かれにくるだろう。それを含めた毎日を思い出を作りながら共に生きていく。
「いいよ。あなたのような人の面倒を見続けられるのはぼくしかいないもの」
「ウィン~~~!!」
 こくりと首を縦に振り心からの極上の笑みを浮かべれば、跪いていた体勢から腿に腕を回してそのまま抱き抱えられた。浮いた爪先からスリッパがするりと落ちた。
 満面笑顔の美貌のアップに、ウィンは口元を綻ばせたまま眉をクイクイと上げておどけてみせる。
 断ることはないと知ってるくせに毎回安心するところが可愛すぎる。
 抱き上げられたまま連れていかれるのは寝室かバスルームか。肩に置いた手をするりとトップの首へと回す。お互いに見つめ合い、ペンタゴンでの酩酊感が戻ってきたことを確認すると、ウィンの突き出した唇に今度こそしっかりとトップの口が合わさった。
 旧友と彼の若い人の愛を手探るようなキスに誘発されて優しく揉み合ううちにカリガリスのダイニングテーブルにゆっくりと寝かされる。今夜はここで始めるのもいい。一度離れた唇がネックレスの下の肌を吸おうとして、あっと小さく声を上げた。
「思い出した。ウィン、ライオンウォーキングがしたいって出発前から騒いでたのに一緒に歩く時は怖がって俺のシャツを掴んでたよな。折角のホワイトライオンだったのにさ。大学では怖いもの知らずって感じだったくせに。あ、でも最後はしっぽ持ててたっけ。子供みたいに笑って可愛かっ、むぐっっ」
「P’トォーップ、それ今言うこと?」
 トップの後ろ髪を手慰みしていたウィンは、タイミングの違うトップの懐古を止めるためにはだけたシャツの中へと強く掻き抱いた。特注のシルバーピアスに噛みついて舐めて、嬉しさを一滴落としたわざとらしい拗ね声を聞かせてみれば、トップは喜んでご機嫌取りに励んだ。
 クスクス笑い合ってキスの合間に囁いた言葉は、また二人が人生において大切にするであろう思い出へと繋がっていく。長い人生の中でどちらかが忘れたとしたら、どちらかが呆れたり拗ねたりしながら二人で思い出せばいい。
「新婚旅行はアフリカにして」



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Cutiepie EP7 4/4 出演時間19分弱のTopWinの会話や仕草にあまりにも迸ってしまい、妄想大暴走させてしまいました。
ただBP史上最もロイヤルカップルなので私の中のセレブ表現が限界でした。中途半端なセレブぽさは愛嬌でお願いします。

二人の性格や馴れ初めに関しては億万通りの妄想があると思いますが今回私が提供させていただきます設定はこちら
・頭の良さはウィン>トップ
・富豪度はトップ>ウィン
・ウィンが大学のオープンキャンパスでチアのデモンストレーションを見てキラッキラなトップに一目惚れ。大学や個人のSNSで追いかけ始める。熱狂的なチア部オタクを経て入部(なのでウィンのFBにはチアの写真や動画が一部員とは思えないくらいわんさかある)
・欲しいものは勝ち取りに行くPキャラが見たい願望「先輩を口説いてもいいですか?」って言って欲しい
・トップは楽しいことと可愛いものに囲まれるのが好き。クズではないので不誠実な遊びはしない。心の底では「必要な時にしか自分は誰からも欲しがられない」って思ってる寂しん坊。多分末っ子
・正式に付き合ってからお互い離れないくらい独占欲がある(byブラック)トップがウィンとのデートを忘れてるだけでなく、行き先すら忘れているということは彼にとってその旅行はまだ数ある遊び旅行の一つだったのかもという妄想でアフリカだけどアフリカっぽくない島リゾートにしました。モーリシャス=ハネムーン&セレブのバカンスという思考。フォロワーさんによる色んなセレブなアフリカ旅行があって楽しかったから被ってないとこにしてみました
・その旅行で垣間見たウィンの聡明さや実直さが帰国後にじわじわとトップを惹きつけて、気づけば追う者と追われる者が逆転していたら大好物。
・ウィンは帰国子女。同性婚が合法の国で教育を受けている。同性婚以外のタイの法律についても日常的にトップへディスカッションを行なっている(トップ「ニュース記事を読むよりわかりやすい」)
・トップは同性婚のみならず結婚自体に意識は無かったがウィンを生涯のパートナーとしたことで同性婚などの法に積極的になる
・シビルパートナーシップは結んでいるがウィンが最初から望んでいるのは結婚だし今は自分も望んでいるので、トップは結婚するまでプロポーズをし続ける
・EP7現在トップ27歳、ウィン25歳
・正式な付き合いはウィンの大学卒業後(ウィンがグアに20歳で決めちゃっていいの?って訊いてたので彼は20歳では決めていない)
・って事で結婚を前提の付き合い3年×平均1日1回の365日=1,100回目のプロポーズ(題名の回収)
・多分結婚してもプロポーズし続けると思う。「ウィン好き、結婚しよ」「いいよ」「あ、結婚してた☆」をずっとおじさんになってもおじいちゃんになってもやって欲しい
・ベントレーはウィンメタウィンくんからのオマージュでホテル経営の家業はウィンパウィン先輩からのオマージュです

他にもスーパーバイクのくだりやウィンの酔うとキスする案件、主役二人のキスをワイングラス越しに眺めて「ワインがより美味くなるマリアージュ」とか思ってそうなトップが未回収のままで、まだまだ妄想し足りないですが、またどこかでちょこちょこ書けたら良いなぁ。その時はこの設定じゃないと思いますが
BP登場して0.5秒くらいの(1:48のところです)ワインを飲むトップをあの至近距離の隣からうっとりと満足そうに見つめるウィンに「Bキャラのことをどちゃくそに大好きなPキャラ」の夢を見させてもらいました
あ、でも本命童貞のトップが優等生ウィンに惚れ込んでなんとか口説き落とすパターンも好物です。

勢いだけのTopWin創作だけでなくどうでもいい妄想まで付き合ってここまで読んでくださってありがとうございました。