河童の皿箱
2025-12-18 09:00:36
1637文字
Public 遊戯王:短め(2025年度)
 

眠る人々と起きてる神々(2)

セアミンズと縁深い神々と幽鬼うさぎが駄弁るだけ

 あぁ、また寝過ごしてしまった。真っ暗な居間、淑やかに降る雨。ひとりぽっちの雪うさぎを、幽鬼はそっと抱きかかえ、ふぅとこぼしたため息ひとつ。今日の留守番は能楽師。珍しく、他のメンバーと入れ違いになるような休日であった。
 居間に置きっぱなしの買い物袋から、最近流行りと見せてきた紫色の謎毛玉。何かの根付らしい。けれどそれがひょっこり顔出し、ひとりでにぴょんと飛び上がった。
 毛玉たちは意志を持っているかのように、ぴょんぴょこ、ぴょこぴょこ。居間の襖の前で跳ね回り、ぽすんぽすんと体当たり。まるで、開けようとしているようだ。
 幽鬼はするりと歩み寄り、襖をすうっと開けてやる。すると、毛玉たちは大喜び。ぴょんこぴょんこと跳ねては弾み、廊下をぴょこり、曲がり角をぴょこり。落ち着きのない毛玉たちは、ある襖の前でしんと静まり、また幽鬼を見上げた。そこは、能楽師たちの部屋の前。

 幽鬼は毛玉たちに「静かにね」と約束を交わしては、部屋の襖をすいと開けてやる。ころころぴょこり、ぽすぽすと、大きく広げられた布団の上へと侵略しては、すぅすぅ寝息の3人を、起こさぬようにと忍び足。まるで何かに見つかったかのように、毛玉たちはしゅぱりと隙間に入り込み、けれど幽鬼は顔を上げ、中空を見た。

 ひとりでに浮かぶ能面たち。おかめもきつねもおにさえも、じっと見下ろす小さな身。小さな声で「こんばんは」と、頭を下げれば、能面たちは表情を変えず、けれど月夜に照らされては、微笑みを見せた。
 「おやおや小鬼。兎を連れてどうしたの?」。おっとりとしたおかめが目の前まで降りてきて訊ねれば、小鬼は答えた。「あの子たちが、入れてほしいって」。すると、鬼面はきっと睨みを利かせ、入り込んできた毛玉を見て回った。ふと狐面が「そんな恐ろしい顔をするでない」と諌めれば、けれど鬼面は「悪しきものなら一大事。この子たちなら、大丈夫でしょう」と、穏やかな声色で壁に向かい、もたれかかるように静まった。
 すいと開いた襖の奥に、ひとりで蠢く衣たち。ふわりふわふわ浮かんでは、能面たちは衣を纏った。黄金の薔薇を纏い、おかめはふっくらと笑う。「小鬼よ、お外へ行かないかい。煩くしては、この子たちを起こしてしまうからね。にぎやかなのも、そろそろ寝かせないとねぇ」。

 しとしと雨だれ石穿ち、けれども月日の経たぬ頃。能面に連れられた幽鬼は、回り廊下を静かに歩む。ゆらり浮かんだ衣の裾は、地を這うことなく幽鬼を導き、すいと指さす戸の内に、一角異形の面がひとり。戸の外睨んで、雨恨めしや。じっと曇ったその顔に、ずいと迫ったおかめの面。「いい加減、機嫌を直したらどうだい」。たおやかな言葉に、けれど仙人はふいとそっぽを向いた。「機嫌を直すとは不可思議なことをいう」。「いじけているんだろう? せっかく秋晴れと思ったのに、なんだかんだで雨続きじゃないの」。「その程度で怒り狂うとでも?」。「鏡を見なさいな。あなた、このところずぅっと怒っているんだよ」、と。
 押し問答を続けて僅か。背を向けた仙人は、けれど幽鬼を眺め、そっぽをまた向き、雨を眺めては、はあーと深くため息を吐いた。「分かった。眠るとしよう。こうして止むのを待っていようと意味がないのだからな」、と。重い腰をどっこいしょと持ち上げて、能面のひとつとなり、来た道を戻っていく。

 「早く晴れるといいね」。幽鬼がぽつり、投げかけた。「あぁ、そうだな」と、黒雲気分の仙人と、ほほほと笑うおかめの面と。能楽師たちの知らない秘密の夜帳は、今日も今日とて賑やかく。ようやく戻った寝室に、散らばる毛玉はギョッとして、ピャー! と走って逃げていく。
 「さあ、おやすみ小鬼。お暇だったら、今宵もおいで。私たちは、いつでもそばに居るからね」。柔らかな袖が、幽鬼の頬に触れれば、面たちは自ら己の桐箱へ。ふいに差し込む朝日の眩しさに目を細めれば、幽鬼もまた、再び眠りについた。