フリンズさんにゆっくり歩いてもらう話

※見つけてもらう話の、少しだけ続き物になります

「うーんこれは無理そうね……
 
 ナシャタウンで開催された蚤の市で、スメールからの行商さんから、綺麗な模様に一目惚れした大きなカーペットを購入した。中古ではあるが良い値段する、かと言って手が出ないほどではなかった品物だった。随分悩んだが、次いつ出会えるか分からない品を諦めきれず購入した。本来は大人二人で運ぶらしいが、自分で運ぶことを交渉材料にして値切ったりもして、とても楽しかった。
 なお運んだのは勿論私ではなく、同行してくれていたフリンズである。チラリと隣を見ただけで「では僕が運びますよ」と、自ら申し出てくれた。力持ちの彼氏って最高である。
 ――だが、誤算があった。大きすぎて私の部屋では使えなかったのだ。
 
「うぅ……せっかく運んでもらったのに、ごめんね」
「いえ、僕のことはお気になさらないで下さい」
 フリンズが優しすぎて逆に心が痛い……。仕方ないから戻って返品するしかないかとションボリしていたところ、彼から提案があった。
「もし貴女が良ければ、ですが――こちらを僕の部屋で使わせて貰えないでしょうか?」
……え?」
「僕の家はそこそこの広さがありますから、設置自体は問題ないかと」
「いいの?!」
「勿論です。ですが、一つ条件があります」
「な、なに……?」
 神妙な表情を取るフリンズに、内心少し焦る私。厄介な品を受け入れてくれること自体は有り難いが、一体何を言われるのか……と構えた途端に、フリンズの表情が和らいだ。
「ふふっ、せっかく貴女のお気に入りを設置することになるので、僕の部屋に今より頻繁に遊びに来てくださいますか?」
「なんだ、そんなこと??もちろんだよ~!願ったり叶ったりだ!」
 やったー!と手を挙げて喜ぶ私を見て、彼も微笑んでいた。追加で「毎日でもいいのですが」と小さく呟いていた言葉は聞こえない振りをした。それは、もう少し待って欲しいので、ね。
 
 件のカーペットを梱包し直して、フリンズに抱えてもらう。私の方は、フリンズが市場で購入していた品を担当することになった。しかし、私の家から夜明かしの墓にある彼の家までは距離があるので、大きな荷物を運んでもらうのは少し申し訳なさすぎるね……
「ここまで運ぶのだって大変だったはずなのに、フリンズは無理してない?大丈夫?」
「はい、問題ありませんよ。なんでしたら貴女も抱えてお運びしましょうか?」
「ぇえ?それは遠慮させてもらいます……
「そうですか、それは残念ですね」
 はい、と答えたら本当に運んでくれそうだった。この細身の身体に、どれだけの力があるのだろうか。
 
「そういえば、フリンズは何を買っていたの?」
 道中の雑談として、今日の買い物について振り返ることにした。彼の隣を歩きながら話題を振ってみる。
「僕ですか?今回は、とある宝石を手に入れました。とても素晴らしい品でした」
「へぇ、よかったね。どんな宝石なの?」
「はい。他国の海に沈んでいた宝石で、最近引き揚げられた品だそうです。小さいながらも美しい瑠璃色が目を引く逸品です」
「うん、なるほど」
「商人の話によると、元は古い貴族の持ち物だったそうで、幾人かの手に渡りながらも、このナシャタウンの、しかも僕の目の前に現れてくれた奇跡が」
「ま待って、フリンズ!」
 
 ハッとした表情で後ろを振り返り、立ち止まるフリンズ。私は彼の歩く速さに追いつけず、少し息切れしてしまっていた。
……あぁ…………これはとんだ失態を、申し訳ありません」
「ううん、大丈夫」
 彼が趣味に没頭してしまう癖があることを忘れていた私が悪い。それにしても、普段は彼が私の歩幅に合わせてゆっくり歩いてくれていることを改めて実感した。そうだよね、足の長さが違いすぎるのに、いつも隣を歩けていたのは確実に彼の配慮によるものだろう。
 
「これはいけません。あぁどうしたら許していただけるでしょうか……
「全く怒ってないから平気だよ」
「いえですが――そうですね、始めからこうするべきでした」
――は?」
 そう言って彼は、抱えていた大きすぎる荷物をサッと片手に抱えた。私では持ち上げることすらできない荷物を、片手で??開いた口が塞がらず、驚きのあまり私は呆然とした。
 
「これで僕の手が空きました。あぁ、また貴女の手を留守にさせてしまいましたね。どうか僕の手を取ってくれますか?」
……うん、もちろん!」
 
 手を繋いでフリンズの隣を歩く。今度こそ隣を歩けることが嬉しくて、いつもよりも少しだけ歩幅を大きくした。
「じゃあ、さっきの話の続きを教えてくれる?」
「え、いや……今日は遠慮させてください。なにか別の話題を……
「なによ、途中まで聞いて気になるから話してよ、ね?」
「勘弁してください……
 ニヤニヤと笑いながら彼の顔を仰ぎ見ると、フリンズは静かに天を仰いだ。
 
 
 
『貴方と共に歩ける喜びを、』