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あさぎ七瀬
2025-12-17 04:17:06
4671文字
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存在と、呼吸と、それから、
監獄後同居if0705です。07さんがだいぶ弱め。
05さんが居なくなった夢を見た07さんが一日中05さんにくっついている話。
彼らにとってのセックスはどんな意味を持っているのかを考えて書いてみました。年齢制限なくてもいいくらいのほんのりぼかした性的表現がありますので苦手な方はご注意。
目を覚ますと、家にひとりだった。
マンションの一室で、シドウくんと二人で住んでいるはずの家。
シドウくんが寝ているであろう部屋に行っても、その部屋は空っぽで、生活していた痕跡も、家具が置かれていた様子もない。
どうして。
知り合いに片っ端から電話した。
外に出て、普段お世話になっている近所の人にも聞いて回った。
シドウくんを知らないか?
だが、返ってくる言葉はみんな同じ。
「それは誰?」
頭が真っ白になった。まるで、シドウくんが初めから世界に存在してないみたいになっていた。
どうして。
俺は彼のことをこんなにも覚えているのに。
顔も、声も、仕草も、一緒に食べた飯の味も、二人で燻らせたタバコの香りも、触れた時の体温も、鼓動の音も。
全部、全部、まだ傍に感じるくらいに覚えている。
なのに、君だけがいない。
俺を置いて、世界から消えてしまった。
どうして。
君がいるから生きていけると思っていたのに。
君がいない世界で、俺はどう生きればいい?
君がいない世界で、俺は生きなきゃいけないのか?
答えてくれ、頼む。なあ
――
びくりと大きく体が震えて、目が覚めた。
その震えで呼吸をすることを思い出したかのように、肺が空気を取り込み始める。
鼓動が早く、どくどくと耳の内側で脈打つ音が聞こえてうるさい。
嫌な汗をかいていて、呼吸はまだ整わなかった。
カーテンの隙間から入る陽の光が眩しくて、とっくに日が昇っていたのだと自覚し、まだ震える手で枕元のスマホの画面を見ると、設定したアラームより十分ほど早い時間であることを確認する。そして、そのまま手をベッドに力なく沈めた。
……
嫌な夢を見た。
嫌な、という言葉で表現するには足りないほど、あまりにも強大な不安で飲み込まれる夢。
ある日、本当にそうなったらどうしようと思うと、怖くて怖くて仕方がない。
カズイは、自分を抱きしめるように腕を回し、身を小さくした。
胸の奥に残ったざらついた感覚が、なかなか消えてくれない。
夢だと分かっているのに、喪失の痛みだけが現実みたいに居座っている。
もし、また眠ってしまったら。
もう一度、あの世界に戻ってしまったら。
そう思うと、目を閉じることすら怖かった。
呼吸がまた少し浅くなる感覚に、このままじゃいけないと気づく。
頭の片隅にいる冷静な自分が警鐘を鳴らすように、カズイは深呼吸をした。
そうしたことで先程より落ち着いた頭は、シドウの存在を確認しなければと、カズイの体を動かした。
部屋を出て、隣のシドウの部屋の扉を静かに開ける。
そこには、規則正しい呼吸音と共に幼さが滲む顔で寝ているシドウの姿があった。
――
いる。
ちゃんと、いる。生きて、存在している。
その事実に安心して、膝から力が抜けそうだった。
カズイはなんとか踏ん張って、足音を忍ばせるように進みベッド端に腰をかけ、安らかな寝顔のシドウの頬に触れる。
指先から伝わる温度が温かくて、今にも涙が出そうだった。
そうしているうちに、カズイの部屋の方から微かにアラームの音が聞こえてくる。
ああ、起きる時間だ。シドウくんを起こさなきゃ。この子は朝が弱いから、いつも俺が起こしてあげなきゃダメなんだ。
カズイはシドウの肩を軽く揺すった。
「シドウくん、朝だよ」
「
……
ん、んん
……
」
小さく呻くような声を漏らし、シドウはもぞもぞと布団の中へ潜り込むような動きを見せる。
それがなんだか子供のようで、思わず笑ってしまった。
「今日は休みだし、もうちょっと寝るかい?」
「
……
ん
……
いえ
……
おきます
……
」
寝起き特有の、普段よりも少し低くて枯れたような声で返事をして、シドウはゆっくりとした動きで体を起こす。
「ん、おはよう、シドウくん」
「おはよう、ございます
……
むくはらさん
……
」
そう返事をしたシドウの顔はまだ全然起きていなくて、ああ、いつもの朝だ、とカズイはほっと胸を撫で下ろした。
しかし、その後もふとした時にあの夢で感じてしまった不安と喪失の痛みが蘇り、カズイはシドウと離れることが怖くて仕方がなくなっていた。
朝食の支度をする間も、シドウが視界から消えるだけで胸がざわつく。だから、傍に自分もいる。
洗面所に入る背中について行き、ソファに並んで座れば無意識に距離を詰めてしまう。
ただそれだけのことで、自分の感情が揺さぶられているのが情けなくもあったが、でもそれ以上に「目を離したらいなくなってしまうかもしれない」という恐怖と不安が勝ってしまっていた。
「
……
椋原さん?」
不意にかけられた声に、はっと顔を上げる。
いつの間にか、シドウが隣からこちらをじっと見ていた。
「今日は
……
なにかありましたか?」
困ったように笑うその表情に、胸の奥がきゅっと締め付けられる。
それでも何となく、見た夢のことを話せるほどまだ落ち着いてはいなくて。
「
……
ごめん、なんでもないよ」
そう答えながらも、無意識に伸びた手がシドウの袖を掴んでいた。
一瞬、驚いたように目を瞬かせたシドウは、すぐに小さく息を吐いて、何も言わずそのままカズイをそっと抱きしめる。
「
……
ここにいますよ」
ぽつりと落とされた言葉は、慰めというより、事実を告げるみたいな静かな声音だった。
カズイはシドウの背に軽く腕を回し、額を肩に軽く預ける。
「
……
うん」
返事はそれだけ。
それ以上の言葉は、今は必要なかった。
――
夜。
結局カズイは、一日中シドウから離れなかった。
さすがに、トイレにはついてこなかったが、珍しく風呂は一緒に入ったほどだ。
身長が平均より高い成人男性二人が並んで入るには浴槽は少々狭く、今はぴったりくっついてやっと湯に浸かれる状態だ。それでもシドウは楽しそうに笑いを零す。
「ふふっ」
「どうしたの?」
「いえ、お風呂、たまには一緒に入るのもいいなぁと思いまして」
そう笑うシドウの、上気して桜色に染まった頬を撫でてカズイも「そうだね」と笑う。恥ずかしくてなんとなく避けてきたけれどたまにはこういうのもいい、と。
だが、湯船の中でシドウの腰に回されたカズイの腕は、離れたくなさそうに、シドウの薄い腰をしっかりとホールドしていた。
風呂から上がり、各々寝支度を整えた頃、シドウの方から「今日は、一緒に寝ましょうか」と提案され、カズイは二つ返事で了承した。
一日中様子のおかしかったカズイの事が、シドウも心配だった。自分が一緒にいることで安心できるのならと、自ら申し出たのだ。
カズイも、今日ばかりはシドウと離れて眠るなんて到底できないと考えていた。心配させていることはわかっていたけれど、断るだなんて選択肢は存在していなかった。
電気を落とした寝室で、二人並んでベッドに横になる。
眠らなければと思うのに、カズイは目を閉じられずにいた。
隣から聞こえる呼吸音を数えて、ようやく現実に繋ぎ止めているような感覚。
そばにいてくれている。わかっているのに、どうにも不安で、確かめずにいられない。
「
……
シドウくん」
低く、掠れた声で呼ぶと、すぐに返事が返ってくる。
「
……
起きてますよ」
返事をして、天井を見ていたシドウの横顔がカズイへと向き直った。
闇の中で、わずかにカズイが身じろぎをして、おそるおそる手が伸びてくる気配。
それを感じて、今日一日、カズイが近づけば離れず、離れれば不安そうにする仕草の理由が、胸の中でゆっくり形を持ち始める。
不安。
言葉にされていない、強いそれ。
伸ばされてきた手を取る。
指先は少し冷たくて、微かに震えていた。
「
……
そばに、いてほしくて」
掠れたような、寂しさを湛える声。
それが欲情ではなく、縋る声色であることを、シドウははっきりと理解した。
「
……
はい」
シドウは全てをわかっているように、その言葉だけを返した。
そして、シドウが手袋をしていない両手でカズイの頬を包み、額へ、そして瞼へ、唇へ、軽くキスを落としていく。
それを合図にしたように、確かめるように何度も、浅く、静かに唇が重なった。
触れ合った部分から、じわじわと熱が移ってくる。
さっきまで別々だった体温が、境目を失って溶け合っていくように。
カズイの手が背中をなぞるたび、その掌の熱が布越しでもはっきり分かる。
シドウの指が触れるたびに、そこだけがじんわりと温かくなって、離れると少しだけ心細い。
ベッドに沈むと、体重がかかり、軋む音が小さく響く。胸と胸の間に逃げ場のない熱が溜まった。
呼吸のたびに、その熱が押し付け合うように伝わってくる。
「
……
っ、シドウくん、」
触れ方は慎重で、急ぐ様子はない。
ただ、離れないように、いなくならないように、
何度も確かめるみたいに、肌に触れては戻ってくる。
「はい、椋原さん
……
っ、俺は、ここにいますよ」
シドウはそのすべてを受け止め、同じだけ触れ返した。冷える隙を与えないみたいに、肌と肌の距離を詰めたまま。
手のひらでカズイの頭を抱きしめるように引き寄せ、胸に顔を埋めさせる。
「
……
大丈夫です。俺の心臓の音、聞こえるでしょう?」
いつもより少し速いリズムのシドウくんの心臓の音。汗ばむ肌。伝わる体温。
ああ
――
大丈夫だ。
「うん、聞こえる」
間違いなく、ここにいる。
「
……
夢を、見たんだ」
落ち着いた後、カズイはシドウの胸に抱きしめられたまま、ポツポツと今朝見た夢の話をした。
それが原因で、一日中恐怖と不安に付き纏われて、シドウについてまわったことも。
「
……
それは、とても怖い夢を見ましたね」
抱きしめられながら、頭を撫でられる動作。かけられるこの言葉。
カズイは急に、シドウが父親だった事実を思い出し、同時にいたたまれない気持ちに苛まれた。
「
……
子供扱い、してない?」
問うと、一度目を丸くしてからシドウは優しく笑みを返す。
「してませんよ。そんな夢を見たら、俺だって不安でどうしようもなくなります。子供でも大人でも変わらない。大切な人がいなくなるのは、誰だって怖い。
……
俺だって、貴方が居なくなるのは怖いです」
その言葉に、胸の奥がじんわりと緩む。
不安が消えたわけじゃない。
またあの夢を見るかもしれないし、同じ恐怖に襲われる日もきっとまた来る。
それでも今は、こうして。
胸に伝わる心臓の音があって、
すぐそばで混じる呼吸があって、
抱きしめれば確かに返ってくる体温がある。
それだけで、十分だ。
「
……
ありがとう」
そう呟くと、シドウは何も言わず、ただ抱く腕に少しだけ力を込めた。
その小さな圧が、
――
まだ、ここにいる、と教えてくれる。
カズイはその感覚を確かめるように、目を閉じた。
存在と、呼吸と、
それから
――
今夜は、それだけを信じて眠ればいい。
END
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