よっち
2025-12-17 02:09:42
6027文字
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ほんと、しょうがねぇやつ

ドラロナ 死ネタ ブロマンス寄り
両片思いのくっついてなかった二人

 その日も喧騒あふれる愛すべき日常を彩るはずだった。

 
 
 
 ゆっくりと意識が浮上する。もう夜かと棺桶の蓋を開けた私は部屋の寒さで一度死んだ。慌てて暖房をつけて、寝床の淵から身を起こす。

 若造はパトロールだろう。部屋を見渡すと脱ぎ捨てていきましたといわんばかりに部屋着が散らばっている。何回言えばわかるんだあのゴリラめと悪態をつき、脱ぎ散らかした服を拾い集め洗濯機に突っ込んだ。
 彼のカラフルなパンツを馬鹿にしながら丁寧に干してやって、オータムのウルトラクソゲーのレビューもそろそろやらなくてはとパソコンを立ち上げる。今回のクソゲーも例によって例に漏れずのクソゲーであっいえ、これは素晴らしい出来だという意味なんですと、イマージナリーフクマさんに言い訳をしつつ黙々と原稿を進める。

 原稿も半分進んだ頃だろうか、ジョンのお腹が控えめに鳴いた。
「おや、ジョンお腹が空いたのかい?もうこんな時間か、今から作るからね。」と愛しの丸に声をかけ、ご機嫌なお腹をふかふかと撫でた。今日は、昨日の夜から下準備しておいた鶏肉を揚げる。下味をつけた唐揚げは噛むとぎゅっと旨味が溢れ出るのだ、さすドラちゃん。
 
「明日は唐揚げ作っとけ」と言って顔を上げた彼の顔を思い出す。ぶっきらぼうに言い放ってすぐ、夜食をまた掻き込みだしたが、瞳だけはわがままを許してくれるか期待する子供のようだった。

 思い出して緩んでしまう口元を誤魔化すように「ほんとにあの五歳児は手がかかる」と愛する使い魔に同意を求めたら
「ドラルク様、なんだか嬉しそう」とヌヒヌヒ笑っていて、口篭った。ドラルクキャッスルに備え付けられた電話が遠くに鳴るのをこれ幸いと思い
「今出ますよ」っと濡れた手を拭って足速に向かった。
 


 
「はいはいこちらドラルクキャッスルマークII、ご用件は?」と軽快に応じた。城主としての振る舞いだけでなく依頼人への対応だってもちろん完璧だ。こちら木下日出男さんの事務所で間違いないでしょうか?なんて確認されたので、
「まぁそうともいいますなぁ」といつものように答えた。

 このとき、電話に出る前から嫌な予感がしただとか、胸騒ぎがしたなんてことはなかったのだ。だから
「落ちついて聞いてください、木下さんが亡くなりました」と告げられたとき、人間の持つ直感というものはやはり吸血鬼は持ち得ないのだと漫然と思った。いや、想像だにしていなかった言葉に頭が真っ白になっていてこんなこと思いもしなかったかもしれない。
 まぁそんなことは、今となっては些細なことだ。その後は何か早口で言っていてよく聞こえなかった。ただ、病院に来いということらしかったので、こちらを心配してやってきたジョンを抱き上げ、
「若造が帰ってこれないらしいから、一緒にあの下男を迎えに行こう。」とシンヨコの夜に繰り出した。
 空気の澄んだ月の綺麗な夜だった。まったくあのアホゴリラめ、残機1なのに死んでしまってどうやって復活するつもりなのか、やはり名実ともに五歳児だなと憤慨しながらも身の毛がよだつような寒気に、思わず体を小さく縮こまらせた。そういえば上着を着てこなかったな、これでは寒いわけだ。ジョンが
「ドラルク様大丈夫?」と鳴くのを聞きながらこの愛しい温もりがなければ砂になったまま動けなかっただろうと抱きしめる腕に力を込めた。
  



 ロナルドくんは暗くて寒い部屋に横たわっていた。
レイアンシツという場所らしい。冷暗室かと思ったが霊を安置する場所と書いてそう読むと教えてくれた。なるほど、最近の人間は死んだ後わざわざ安置する場所まであるのかと感心する。

 さてロナルドくんを早く起こさなくてはと寒さに耐えながら
「起きろバカ造」と声をかけた。ジョンが腕の中から飛び出して若造にすがりついて、
「ッロナルドくん!!!」と叫んでいる。体を震わせながら泣く姿をみて、こんなところにはいられない、寒死してしまう、早く帰らなければと彼の肩に手を伸ばし「おい」と揺すった。あまりの冷たさに驚いて死んだ。
「いつまでこんな寒いところにいるつもりだ。ジョンまで風邪をひいてしまうではないか。ドラルクキャッスルを温めてきたからとっとと起きろ。それに今日は君がリクエストした唐揚げだぞ。」寒さでなかなか戻らない体を集めながら彼を起こそうと大きな声で並び立てた。
 いつもなら、「うるせーなクソ砂、早く唐揚げよこせ、あ、ジョン〜待たせちゃってごめんね〜一緒に食べようね〜」なんて言って起き上がってくるが今日は随分と寝汚い。まったくしかたがないと彼の腕を引こうと力を込めたが
「ドラルク」と嗜めるように呼ぶ声に遮られた。
 
 振り返ると隊長さんがいた。その横にはヒマリ嬢も蹲っていた。彼らが呼び掛ければいくら寝汚くても起きるだろうと思って開いた口は、その顔が目に入った途端動かなくなった。今までの人生で見たことのない表情であった。

 いやはや、奇遇ですなぁ隊長さん、ヒマリ嬢もご機嫌麗しゅう。ところでお宅の弟さん、こんなところで寝てたら風邪をひきますよ、まぁバカは風邪を引かないって言いますけれど、いくら霊長類最強ゴリラでもこんなに冷えた場所にいたら風邪をひいてしまいますよ。なんて頭に浮かんだが一言も口からこぼれ出ることはなかった。
 
 長いような一瞬のような沈黙の中、先に口を開いたのはあちらだった。

「ロナルドは死んだんじゃ、もう起きん」血反吐でも吐いているのかと思うような声だった。
「起きんのじゃ」もう一度繰り返した。意味を咀嚼しようとIQ200の天才的頭脳をフル回転させているがいかんせん調子が悪く、隊長さんが何を言いたかったのかよく理解できなかった。ただ、彼によく似た青い瞳から流れる涙を見ながら、どうして隊長さんがヒマリ嬢がジョンが泣いているのにロナルドくんは起きないのだろうかとそればかり不思議に思った。
 
 葬式は彼のご兄妹によって慎ましやかに行われた。手続きに必要な書類は遺書と共に引き出しの奥に仕舞われていた。用意周到すぎてムカムカする、そんなものを残すぐらいならドラルク様を讃える手紙の一つもよこさないかと事務所の机をひっくり返したが、それらしきものは見つからなかった。

 吸血鬼と共存する新横浜では夜に行われることも多いらしく、告別式にはハンター仲間や吸隊メンバー、吸血鬼まで大勢参加した。私はやるせなさそうに涙を流す彼らの姿を、ぼうっと眺めながら、あの日隊長さんに言われたことを繰り返し考えていた。
 考え始めると身体が自分のものではなくなっていくような、ここが現実ではないような気がしてきてあまり考えないようにしていたことだ。自分の意思で体を動かすことができなくなる。私の顔を見たヒナイチくんが、「ドラルク、ロナルドが……、ロナルドがっ」と顔を覆って嗚咽を漏らすがそれでも指先一つ、ぴくりとも動いてはくれなかった。泣いている女性の涙を拭ってあげられないなど紳士の名折れであるというのにどうしたことだろうか。ヌーと私の顔に腹毛をよせるジョンの温もりは確かに感じるのにあの日からずっと寒気が止まらないなと他人ごとのように思った。
 
 彼の身体はそれからあっという間に焼かれてしまった。焼いてしまうのかと聞いたら、このままでは腐ってしまうからと有無を言わさず連れて行かれた。
「あまり小さくなってしまうと退治人業が大変になってしまうではないか」と言ってみたが、誰一人として賛同の声をあげてはくれなかった。同意の声を求めて視線を彷徨わせるが皆一様に目を伏せてしまう。何かおかしかっただろうか、と見回すと半田くんが何か言いたげな顔をしてこちらを見ていた。随分とやつれた顔をしていた。途方に暮れているようにも見えた。そのまま数秒見あったが結局何も言わずに顔を逸らした。彼の瞳はまっすぐロナルドくんが連れて行かれた先を見つめていて、ついぞこちらを向くことはなかった。

 戻ってきた彼は案の定小さくなっていた。だから言ったじゃないか、こんな小さくなってしまっては退治はできまい。名実共にドラルクキャッスルに名前を変更しようと企みながら、それでも彼を置いて行く気はなくて、にっぴきで早く事務所に帰ろうと手を伸ばした。
 隊長さんは難しい顔をしていたが、やがてため息を一つこぼすと、弟を頼むと軽く頭を下げた。随分と軽くなってしまったねぇと声をかけると、(お前に言われたくない)と聞こえてきた。



 君そんなに小さくなってしまったら吸血鬼退治なんてできないんじゃないか?
 (舐めんな、俺は強いから大丈夫だ!)
 はいバカー、なんでも強いで片付ける脳筋ゴリラ
 (ブッコロすぞ)

 それから君がいうから唐揚げたくさん揚げたのにどうしてくれる、しばらくジョンはダイエットだぞ
 (えーん俺の唐揚げ、ジョンはムチムチしてても可愛い)
 


ロナルドくんが帰ってきた。


 
 城主様の帰還だよ
 (俺の事務所じゃ)

 ジョン、ホットケーキを焼いてあげようね、ロナルドくんには内緒だよ
 (聞こえてんぞクソ砂、6段作れ)
 
 見た前、ドラルク様の超絶テク!1.7秒でこのステージをクリアするなんてこのクソゲー史上類を見ない新記録だ!
 (またクソゲーかよクソが好きなスカトロ砂おじさん)
 その罵倒語二度と使うなと言っただろう!
 

 
愛すべき日常が帰ってきた。
 何も変わらない。バカで、騒がしくて、お人好しで、泣き虫な君だ。
 
 


 吸血鬼退治事務所は休業にした。ただ、休業にしてからも変わらずたくさんの人が事務所を訪れてくるので、あまり意味はなかったかもしれない。
 彼らは、かわるがわるやってきてはロナルドくんの話をした。ロナルドのやつから始まる話は、彼の仕事での失敗や、日常での奇行、お人好しエピソードなど多岐に渡り、私を楽しませた。しかし、話終わると最後は決まって悲しげな顔をして、黙りこんでしまう。ドラルクキャッスルにやってきた客人を辛気臭い顔で返すのはプライドが許さないと、ロナルドくんはもう食べないとわかっているのについ多めに作ってしまう手料理を振る舞った。この量全てジョンに出すのは健康に悪いなと処分に困っていたからちょうどよかった。しかし彼らの表情が晴れることはなかった。
「この私の天才的な料理はあの5歳児をも黙らせるぞ」と言うと顔を歪めて泣き出してしまうものまでいた。なんだか調子が狂ってしまう。

 隊長さんとヒマリ嬢もよく尋ねてくるようになった。なんだかんだでこの兄妹はブラコンである。ロナルドくんなんかは泣いて喜んでいる。
「落ち着けゴリラ」と彼を宥めていたら息を呑む声が聞こえて、振り返った。
 言葉を探して結局諦めたように顔を歪めた二人を見て、最近よく見る顔だなと思った。



 それから1ヶ月と少し経った頃だろうか、その日は隊長さんとヒマリ嬢とお父様が尋ねてきていた。お父様は最近頻繁にいらっしゃる。幸い私はずっと事務所にいるのでお父様とすれ違わずにすんでいる。この間もいらしては「何かしてほしいことはあるかい?パパにできることならなんでもするよ」と言って私をそっと胸に抱き寄せた。「ありがとうございますお父様。けれど大丈夫です。」と伝えると、優しく私の背中を撫でた。しばらくそうしていると父が部屋の中に赤いものが増えたなと独り言のようにポツリと呟いた。多分口に出したことにも気がついていなさそうだ。部屋を見渡してみる。そうだろうか?
 背中を撫でる手が震えていて、父も寒いのかなと思った。


 さて、この日いらしたお父様は挨拶もそこそこに隊長さんとヒマリ嬢に
「彼の遺骨をドラルクに預けていただき心より感謝する。人間は手続きが必要だと聞いた。もう引き取ってもらって大丈夫だ。」と頭を下げた。引き取るとはどうゆうことか、彼の家はここであるのに。声に出ていたのだろう、
「ドラルク、人間はね」と言うお父様を遮って、隊長さんは強い眼差しで私を見据えはっきりと言った。
「人間は死んだら墓に入れるんじゃ」
  


 がたんとけたたましい音が鳴った。
 脳に言葉が伝わるより早く体が動いて、気がつけばその白い箱にしがみついていた。ショックで死ななかったのは奇跡に近かった。いや、意地だったのかもしれない。
「ドラルク」と隊長さんが悲しげに私を呼ぶが冗談じゃない、ロナルドくんは渡してなるものかと思った。私のものだ。墓に入れるなんてとんでもない、彼はこのまま私たちと一緒に暮らすのだ。温かい事務所でジョンとメビヤツとキンデメと死のゲームと変わらない毎日を過ごすのだ。

 最近ようやく素直に夕飯のリクエストができるようになった君は、

「ドラルク」と柔らかい声で呼んで、この映画見ようぜと服の袖を掴んで口をもごもごさせる君は、

怪我をしたら誰にも見つからないように傷を隠していたのに「痛いから包帯巻け」と治療をさせてくれるようになった君は、

無理をした君を叱った後「心配してくれたのか?」と頬を染めて、目を潤ませる君は、

君は、ここにいるのに。
 
 抱えたまま叫んだら喉が裂けたような気がした。もしかしたら意味のある言葉になっていなかったかもしれない。呆気に取られた顔をした彼らを尻目にそのまま窓から飛び出した。ドラルクッと声が聞こえる。変身がうまくいっていたかはわからない。ただ箱を抱えたまま逃げ切れる姿になれればなんだってよかった。引き離されるのは嫌だった。ロナルドくんの帰る場所はあの事務所で私達のもとなのだから、間違っても冷たい土の中ではない。

 (ドラ公)
 彼の心配そうな声が聞こえた。ぎゅっと抱きしめて、大丈夫だからねロナルドくんと声をかけた。
  


 さて、これからどうしようか、事務所には当分戻れないし、どこか行きたいところはあるかい?君のリクエストを聞いてあげるから言ってごらん、そこに行こう。
 このまま私が君を抱えて世界中を回るさ。もちろんジョンも一緒だ。人生地図は新横浜以外にも広げておいた方がいいじゃない、何せ世界は広いし時間はたくさんある。

 歌うように囁きながらふと顔を上げる。しょうがねぇやつだなと笑う彼の姿を探す。目を凝らしてみても彼の姿は見つからなかった。「ロナルドくん」と名前を呼ぶ。耳をすましてみても彼の声は聞こえなかった。




 ああ、そうか、君死んでしまったのか、私を置いて死んでしまったのか。

 


 涙が一筋こぼれ落ちた。眩しくて目が霞む。

 ねぇこのまま私も連れていってよと言ったら、瞼の裏で彼が呆れたように笑った。