白殊皎(しらよし こう)
2025-12-16 20:30:00
3959文字
Public FGO【歳勇/土近】
 

来る者拒まず、去る者は追う

FGO【歳勇/土近(としいさ/ひじこん)】
発足したてでリソース不足なカルデアに召喚された黒の剣士。
土方にもぶっきらぼうな態度を取り続けるその訳は。

土方さんは福袋か何かくらいで来たと思ってください。
レベルマ(Lv90)ではあるけれどスキルマではない。
おつきあいはまだまだまだです。
こういうカルデアもあるかもしれないというくらいの感じで。




 先だっての京の特異点で新選組の新たな仲間が増えた。
 この発足したてのカルデアにとって、戦力が増えることは喜ばしいことなのだが……
──魔術リソースの素材になるものが足りないんです。
 少女マスターはそう言ってしょんぼりと肩を落とした。
「それで?」
 土方歳三は腕組みをしたままマスターに問う。
 彼はその京の特異点の少し前、特別に様々なサーヴァントとの縁が深くなるという時期に召喚された、現時点でこのカルデアの最高峰の戦力だ。
──だから、近藤さんに回す魔力がまだ……
「そうか……
 仕方ないか、と土方は思った。
 自分をいまの状態にするにも、かなりの苦労があったのだ。
 前々から枯渇気味だったリソースだ。
 今回は原田、藤堂、そして近藤、と一度に三人も増えてしまったのだから不足するのも無理はないだろう。
「ということだ、近藤さん。あんたの出番は当分先になるようだ」
「そうか」
 土方の隣に立つのは近藤勇。
 その姿は京の特異点でマガツヒノカミの魔力を受けて変質した黒の剣士と呼ばれた姿だ。
「別に、戦えないわけではない。好きに扱ってくれ」
 近藤は無感情に言った。
 それを見て土方はこっそりと溜息をつく。
 その姿の近藤が嫌なわけではない。
 近藤は自ら望んでこの姿になったのだし、その一因、いや全ての原因は自分にあるくらいだし、それぐらいでぐらつくくらい、土方の想いは薄くない。
 土方にとって近藤は望んでも望んでも手の届かなかった唯一の存在。
 それが今こうして、傍らに立ってくれているだけでも、大いなる奇跡だと思っている。
 縁が深くなる今、それを辿って召喚したいから、と召喚ルームに呼ばれた時も、おそらく無理だろうと思っていた。
 自分が英霊の座に刻まれることになった最大の要因、新選組というものを真っ向から否定してあの特異点に顕現した近藤だ。
 おそらく、召喚は拒むだろう。
──そう土方は思っていた。
 それでも、ほんの少しだけ期待がなかったと言えば嘘になる。
 千分、万分……いや、億の単位でも僅かな可能性があるのなら、それに縋ってみたかった。

 近藤は召喚に応じた。

 なんという奇跡だろう。
 神も仏も信じないが、もしそんな存在がいるのなら、初めて礼を言いたくなった。
 マスターはそれを知ってか知らずか、土方に近藤へのカルデアの状況を説明──もとい慣れるまでのお世話係をしてほしいと言ってきた。
 顔には出さなかったがもし自分が思ったままを口に出す人間だったら『よく言ったマスター!』と背中を叩いていたかもしれない。

 そうして近藤のカルデアでの生活が始まったのだが──

 正直、とりつく島もなかった。
 聖杯からの知識がある、と状況の説明を拒んだのに始まり、人間の生活に興味はないと食事による魔力供給くらいしか説明させてもらえぬまま、近藤は与えられた自分の部屋に引き籠もった。
 マスターが用事があると呼びに行く時以外、ほとんど出てこない。
 霊基の維持のためと無理矢理食事に連れ出すが、必要な分だけ口にするとすぐに立ち去ってしまう。
 生前むかしも態度が硬化した時は頑固だったが、この状態はさらに輪をかけているようだった。
 マスターの前を辞し、部屋まで一緒に行く。
「歳。おまえも、俺になど関わるな」
 部屋の前で立ち止まり、そう言うとぴしゃりとドアが閉まった。
「甘いな、近藤さん」
 本人には届かないが、土方は扉の前で不敵な笑みを浮かべた。
「俺が、それくらいで諦めると思うなよ」
 それは、土方からの宣戦布告でもあった。



「近藤さん、メシの時間だ。行くぞ」
 毎日、必ずそう言って定時に連れ出す。
 厨房を預かる赤のアーチャーには口裏を合わせて盛りは多めにしておいてもらっている。
 性格上供されたものを残すはずはないとわかっているからだ。
 それで食事による魔力の供給は問題ない。
 近藤の速度に合わせ、不自然にならないよう自分も食事を終えると必ず一緒に席を立つ。
 返事はなくとも行き帰りにいろいろと話しかける、
 今までの特異点のこと、出会った人々のこと、このカルデアにいるサーヴァントのこと、マスターのことなどなど。
 九割九分、聞いていないと思ったが、様子を見るにそうではない。
 五~六割は聞いている。
 時々、呆れたように口元に弧を描くからだ。
 ならばと煽りも込めてシミュレーションに誘ったりもするが、それには流石に乗ってこない。

わずらわしい。おまえはもっと寡黙な男だと思っていたのに」

 部屋に戻る途中の廊下で、ついにそう言われた。
 願ったりだ。
「あぁ、俺はうるさいさ。他ならぬあんたのことだからな」
 どん、と壁に両手をつき、近藤の身体を取り籠める。
「あんたのことだ、どうせその姿のことを卑下して、手をかけて貰う必要なんかないと思ってるんだろう?」
………………
「人理転覆を企てた黒の剣士、それが今更どうして人理を助けられよう、ってな」
 片手を伸ばしてその頤に触れ、目を逸らそうとした顔を自分の方に向かせる。
「使い潰されるつもりで、使い捨ての便利な道具のつもりで来た。なのにこちとらリソース不足なんて理由で戦場にも出してもらえない」
 唇が触れそうなくらい、顔を近づけてその紅に染まった瞳を覗き込む。
「唯でさえそうなのに、顔見知りが煩く話しかけてくる。しかもそいつはここの主力と来た」
………………
「歯痒くて、悔しくて、それでも──嬉しくて。どんな態度を取ったらいいかわからない。それがあんたの心の内だろう?」
「──ッ!」
 ひゅっと空気の鳴る音がして、拳が飛んできた。
 それを簡単に受けてその手首を握る。
「ほらみろ、当たりだ」
 土方はニヤリと笑って、近藤の身体を壁に縫い付ける。
「いいか、近藤さん」
 そして打って変わった真剣な眼差しで近藤を見つめた。
カルデアここはまだ、動き出したばかりの軍隊だ。そこに無駄なものなんて、使い潰していいもんなんてひとっつも存在しねぇ」
「そんなこと、わかって──」
「いや、わかってねぇ。あいつマスターはまだ戦い方もわからねぇような小娘だが、覚悟だけは決まってやがる。それがわかるってんのなら、そんな態度は取れないはずだ」
 こつん、と額を合わせて言う様はまるで愛の告白だが、その言葉はかけ離れていて──。
「あんたは必要だから、ここに喚ばれた。それだけは──本当だ」
……!」
 近藤の紅い瞳が微かに潤んだ。
「うっ……
 そして、一筋涙が頬を伝う。
「あんたと俺で、ここの両輪になってやろうじゃねぇか。終わりが来て、俺たちが座に還る時、この世界は俺たちが救ったんだと胸を張らせてもらおうじゃねぇか」
「と…………
「おぅ」
「本当にか? 本当にこの姿の俺でも、おまえはそう思うのか?」
 近藤は土方の胸に身を投げ、下から見上げてきた。
「当たり前だろう? あんたは近藤さんだ。あの姿もこの姿もねぇよ」
「弾正が言っていた。俺はもうこの姿から戻れはしないと。それでも、いいのか?」
「近藤さん」
 縋りつくような目をされて、土方は苦笑した。
 そして、その両手で近藤の頬を包み込み、少しだけ引っ張った。
「とひ!?」
「何言ってんだ。まさか、今まで拗らせてたのは、それか?」
「ほかに……なにがある? 俺は……おまえに疎まれているとばかり……
 いじらしい。
 土方はそう思ってしまった。
 近藤は結局、土方から嫌われるのが怖くて、それならばと自分から突き放していたというのだ。
「なんでそうなるんだ。あの時も、どんなに変わっていようともあんただと気付いただろう」
 かの京の特異点で髑髏の仮面を被ってこの姿を現した時、剣を受ける前から土方はそれが近藤だと気付いていた。
 沖田総司ですら、剣を合わせ、仮面を取ってもしばらく気付かなかったというのに。
「──……
「俺には、あんたの魂が見えてるんだ。どこにいたって、どんなに姿が変わっていたって、あんたのことはわかる」
 土方は腕を近藤の背に回し、抱きしめた。
「俺はあんたの全てを受け入れるから」
「歳……
 頬を伝う水量が増し、近藤は耐えきれなくなって土方にしがみついた。
「歳ッ……!! うぁあああああ!!」
 やがて、近藤はそのまま大声で泣き始めた。
 カルデアの廊下で、その状態なのでさぞ周りは驚いて見に来るだろうと土方は思ったが、誰一人様子をうかがう気配はなかった。
 周囲の大人な反応にほっと息をつきながら、泣き続ける近藤の背を撫でる。
「近藤さん、俺にはあんたが一番大事だ。誰よりも、何よりもな──」



「おまえは……ずるい」
 ようやく落ち着いたと見えた近藤は、ぽつりとそう洩らした。
「なにがだ?」
「全部だ……
 ぐし、と手で涙を拭おうとするので、それを押しとどめて持っていたハンカチで拭ってやる。
「あんたのためだからな」
 何もかも用意周到に手を回していたと、ようやく気付いた様子の近藤に、土方はにっと笑ってみせる。
「そら、私闘にならず戦える場所……しみゅ……れーしょん? だったか。いくぞ、しばらく立ち上がれないくらいのしてやる……!」
 今度は近藤が土方の胸元を掴み、挑むように見上げてきた。
「ふっ、お手柔らかにな」
 開き直った紅い目を愛しげに見つめて、土方は応えた。

 あぁ、これだからたまらない。
 この魂の傍にいるためならば、自分はどんな代償も払ってみせる。
 この恋は、死ぐらいでは引き離せないと、運命に刻むために。