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mineml
2025-12-16 18:21:56
6023文字
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【SS】Paranormal Crime 2 ネタバレ
※作者のPCがセクハラ発言をしていますが作者はセクハラを許容しません
平穏な日々は続かない
「あらためて見るとブラックってやっぱいい男だなって思って」
「エヴァ?」
軽く投げた話題に、あからさまに引いた反応をしたのはニクスだったが、ダークラムのグラスを片手にしたエヴァはお構いなしに話を続けた。
「彼の着任の頃、うちがばたついてなければ口説いてたかもなぁ」
「おい誰かこの酔っぱらい黙らせろ」
「黙らなきゃいけないようなことまだ話してなくない!?」
勢いでかぶせてくるエヴァから鬱陶しげに逸らしたニクスの表情はいやもうぎりぎりアウトだろと言いたげだったが、そうして彷徨わせた視線の先でノーヴァが軽やかに挙手をする。彼女の手元にはテキーラ・サンライズ。
「はい! 今ならPCUの状況も落ち着いてるんじゃないですか?」
「ノーヴァやめろ煽んな」
「え?」
「それはそうなんだけど。今となってはそういう気分でもない」
「理不尽〜」
笑いながら、キッチンから戻ってきたヘリオドロが大皿をテーブルへ運んでくる。オーブン焼きの丸魚から芳しい湯気が立ち、覗き込んだ面々が銘々に声を上げた。
渋い顔をするニクスが次に目をやったのはダニエルである。ブランデーを注いだグラスを手に、白い頬がほのかに薄紅しているダニエルはニクスの視線を受けて少し考え、彼の意見を言った。
「アナトリオさん本人に言わないならいいんじゃないですか?」
「こっちはこっちでどうでもよくなってるし。そいつのこと思い出したか?」
「この3年間ほど一緒にやってきた新しい上司」
「まだっぽいわ」
「アナトリオさんが報われるにはもうしばらくかかりそうですね」
やりとりを聞いていたライアンが、白ワインのグラスを手近に置きながら苦笑する。溜息をつき、ニクスはコーラを呷る。
「てかエヴァってたまにだいぶ駄目じゃねえ?」
「気を許してくださっている証拠だとは思いますよ?」
「他で漏らすとまずいので、彼女が素面に戻ったあたりで私から言っておきます」
ライアンがますます困ったように眉を下げる一方で、本人も酔いが回りつつあるのだろうダニエルは気を取り直したように締める。当のブラックはこの集まりのはじめに顔を出したが、一杯を飲み終えるまで滞在した後に気兼ねなくやってくれと言い残し、ブランデーを一瓶とチョコレートの詰め合わせ、それに花束を置いて帰っていったのだった。
魚の大皿を迎えるために、まだ中身の残っているサラダやグラタンの皿が端へ寄せられる。それらはオーブン焼きと同様、ホームパーティーの主人役を買って出たヘリオドロの手製であるし、ビーフシチューやドーナツ、焼き菓子のボックスは他のメンバーの手土産である。なお同じく手土産の棒々鶏やピザはとうに空になっている。イベントに手を抜かないヘリオドロらしく、部屋はクリスマスの飾り付けがされ、ホリデーシーズンの浮き立つ空気にふさわしい煌びやかさだが、実のところこれは奇妙な状況でもあった。
「スペインじゃクリスマスにbesgoをよく食べるんだけどさ」
「これ、ベスゴ? って魚なんですか?」
「いや、アメリカじゃ手に入らないから似てるけど別物」
ヘリオドロはノーヴァの合いの手に答えつつ、言い淀みをそのまま表情にした。
「この時期にクリスマスやるって、たまに冷静になるとなんか
……
面白い絵面だよな」
現在、2月半ばである。
「だってプレゼント交換はしたいじゃないですか!」
「その節はご迷惑を
……
」
「せっかくならクリスマスパーティーもやろうって言ったのはあなたでしょ」
「わかる」
間髪入れずに反論したのはノーヴァ、しおらしい様子で語尾を細らせたのはライアン、フォークの先を揺らしたのはエヴァ、短く同意したのはニクス。ダニエルはサラダの残りを取り皿に移した。
「あー、ほら、2回やるのは別にいいんだよ! 俺クリスマス好きだしさ! だからライアンも謝るなって」
「そうそう、クリスマスの時期はみんなラリってたんだし。今も半分以上のメンバーはそうだけど」
エヴァは椅子の背にもたれかかる。思い出したようにその膝を、彼女自身にしか見えない畸形の植物が這い上っていく。実際には存在しないとわかっていながらつい、それを手で払う。
超常現象や異形の生物に接することは、猟奇的な現場を目にすることや悪意をぶつけられること以上にストレスになる。クリスマス前、ヘリオドロに寄生していたフィル・アンバーの引き起こした事件群に片をつけたとき、PCUの面々の精神は疲弊しきっていた。
それから2ヶ月が経ち、ライアンは心因性の難聴、ニクスは黒い空の幻覚からようやく抜け出したが、ノーヴァは前任の上司であり殉職したホワイトのことを、またダニエルは数ヶ月の行方不明から生還したばかりの現在の上司であるブラックのことをまだ思い出していない。ヘリオドロは今なお、自分の存在が揺らぐ不安感に苛まれているらしい。エヴァは前述のとおりだ。ただノーヴァからプレゼント交換の提案もあり、ライアンの難聴さえ落ち着けば開催できるだろうと見込んで、季節外れのクリスマスパーティーを行うことになったのだった。
ちなみに日常生活にさえ支障をきたすライアン以外は、些かの不具合が生じていようと職務には問題ないと判断され、相変わらず現場に出、書類をまとめる毎日だった。PCUをはじめとしたFBIは慢性的に人手不足なのである。
「お気遣いいただいて
……
あれから、アルニカさんは元気ですか?」
「元気だよ。もしかしたら前より元気かも、ちっちゃくはなったけど」
ライアンに水を向けられたヘリオドロは、ミントとライムを入れたグラスにホワイトラムを注ぎながら表情を綻ばせる。
「学校に通うことにしたんだってさ。でもニコは捜査官としても優秀だったろ? エレメンタリースクールで満足するとは思えないんだけど、同年代の子どもたちと関わるのも大事だろうしなぁ
……
」
「ハイスクールに飛び級するとかしないとか、最後に決めるのはどうせオーバーンじゃんか。お前が悩んでどうすんの」
「そうだけど気になるだろ!」
冷ややかなニクスの指摘に、ヘリオドロの声が半分裏返る。その様子をよそに、頬張った魚を行儀よく呑み込んでしまってから、ノーヴァはしょんぼりと溜息をついた。
「今日だって連れてきてくれてもよかったのに。アルニカに会いたかったなぁ」
「俺も考えはしたけど、ニコの方も生活を仕切り直したばかりだし、また別の機会にと思って。それにいろいろと話をするなら、お互い気を遣うとこがないわけじゃないだろうしさ。今日は俺たちだけで楽に喋ろう」
気安さのためか、ヘリオドロに対し怖いもの知らずな調子のある一番の若手も、納得するところではあるらしい。名残惜しげではあるがひとまず頷いている。ノーヴァに続いて魚を手元へ取り分けながら、エヴァがくすりと笑った。
「でもこれでもう、実年齢6歳の子どもに、捜査官の何たるかを叩きこまなくて済むわけね。肩の荷が下りたわ」
ああ、とライアンが短く漏らして苦笑する。
「エヴァさん、だいぶ厳しくしてましたからね」
「そうよ。保護者たちが甘いなら、誰かが厳しくしなきゃいけないでしょう。仕事なんだから」
PCUのリーダーは不機嫌の形に眉根を寄せてヘリオドロやライアンへ目を向けたが、すぐにほどいて機嫌よく目を瞬く。
「でもちょうどいい分担だったんじゃない? 私のことが怖くても、あなたたちや、他のみんながあの子の安全地帯になったなら。それでいいの」
「まあ
……
ニコは実際、ビビってたときもあったけどさ。彼女はエヴァのこともちゃんと好きだったよ。今度会ったらかわいがってあげて」
「ありがと。そうね」
彼らの会話を聞きながら、保護者ねえ、と呟いたニクスはバゲットでビーフシチューをすくって口に押し込む。パートナーとともに養子のローズを育てているライアン、アルニカがPCUを離れてからも子どものようにかわいがっているヘリオドロが保護者なら、いまや高校生になったジーンの生活を引き受けているニクスもまた、似た立場である。ノーヴァがぱっと顔を上げる。
「ジーンくんは呼ばないんですか?」
「高校生だぞ嫌がるだろ。あいつ断るのも遠慮しそうだし」
「うーん。難しいお年頃ですねぇ」
「ふたりとも無事で、いえ、何事もなくとは言いませんが、命を落とすことがなくてよかったです。本当に」
少し眠たげにゆるんだ調子で、ダニエルが口を開き、話を続ける。
「誘拐案件は生存率が低いですし、アルニカさんに至っては私たちで遺体を確認しましたし。子どもが標的にされるのは
……
よくない。よくないですから」
「未成年が被害に遭う事件は何回担当しても胸糞悪いものね。ライアン、ダニエルに水あげて」
「あなたもですよ、エヴァさん」
「私も? もらうけど」
「といっても被害に遭ったのは未成年の彼らだけでなく、ひどいと複数回にわたって拉致された方もいますが
……
ああ、ありがとうございます」
「俺のこと呼んだ?」
「FBIがいくら危ない仕事ったってPCU危なすぎねぇ?」
顔をしかめるニクスの言葉に応じて、ノーヴァが苦くて酸っぱいものをうっかりして思い切り頬張ったような顔をする。
「変なひとにばっかりつきまとわれました
……
」
「勝手にめちゃくちゃやって勝手に死んだアメトリンの件は正直納得いってないけど、そっちは終わった話だからさておき、あの困った大先輩はいい加減捕まってくれないものかしらね」
「無理だと思います」
グラスをライアンから受け取ったものの、持ったまま声を苛立たせるエヴァに、渡された水をおとなしく飲みながらダニエルが即答する。水のグラスを他の面々にも渡しながら、ライアンは花の面差しを曇らせた。
「お世話になっているのはやまやまなのですが。それになんだか、彼の話をしているとふらっと現れそうな気が、」
「あ~やめやめ、ついそっちに流れるけどこっからは仕事の話もグレアの話もなし! メインを準備するから、ダニエルのピノ・ノワールには肉が焼きあがるまで手をつけるなよ?」
漂いかけるホラーじみた空気を、数回手を叩いたヘリオドロが追い払い、しばらくの間落ち着けていた腰を上げた。先ほどと打って変わって目を輝かせたノーヴァが、勢い余って一緒に立ち上がる。
「何のお肉ですか!?」
「ラムチョップ」
「やった~! ごはんおいしいのでヘリオドロさんちょっと見直しました!」
「ノーヴァって全部が胃袋に直結してないか? いいけどさぁ」
賑やかなふたりがキッチンへ消えるのを見送り、ようやく水のグラスに口をつけたエヴァはふと、ダニエルを振り返った。
「ダニエル、ありがとうね。ブラックの復帰周りで手続きとか根回しとか、いろいろ手伝ってもらって。オーバーンもどうせならそこまで面倒見てくれればいいのに」
「仕事の話はしないんじゃ?」
「あいつ今キッチンに行ってるからいいの。あなたの手を煩わせる気はなかったのよ? 戻ってきた上司といっても、今は知らないひとみたいなものだろうし」
ダニエルは小さく首をかしげ、一呼吸の間を置いて微笑む。
「渉外ですから。それに、少しの情報で相手を説得するのには慣れました」
「さすがですね」
「うんいつも無茶やらせてごめん」
ライアンが感嘆する一方でエヴァが神妙な声を出すのを聞きながら、ニクスがこぼす。
「ダニエルとライアンが詐欺師じゃなくてよかったわ」
「詐欺師かもしれませんよ?」
「え? はい」
「なんでそこでノリが良くなるんだよ」
にこりと笑ったライアンにつられるようにしてダニエルが雑に頷き、ニクスが切って捨てる。「少しの情報での説得」、つまり凶悪犯相手に、ライアンを餌にした綱渡りの交渉をダニエルにさせた前科が一度ならずあるため笑っている場合ではないのだが、エヴァはつい笑い出す。
こんな無謀で大胆な最善策はホワイトの専売特許で、エヴァの立場からすればメンバーを危険にさらすことへの抵抗感を覚えたりもしたものだが、彼と同じ性質を持つノーヴァの提案をはじめとしていつの間にやら、似たような手段をたびたび取っている。ホワイトの影響は否定できない。
「私のことはともかく
……
リーダー?」
「ごめんごめん、続けて」
「ハーパーさんは大丈夫そうですか?」
ダニエルが視線を向けたのはライアンである。
「PCUで仕事をする以上、どうしても記憶に齟齬が出ます。なので誰を忘れているかは伝えていますし、彼女も理解はしているはずです」
「なんかいつも誰かしらが誰かしら忘れてる気がするわ。やっぱやばいだろこの部署」
「ですから今というより、思い出したときに一山あるかもしれませんね。とはいえ皆さんのサポートもありますし、ノーヴァさんなら大丈夫でしょう」
「あの子ももう新人じゃないのよね。一番若いからつい、新人みたいな気持ちになっちゃうけど」
ホワイトに連れられたノーヴァが正式に着任してから、もう数年経っている。彼女がアカデミー所属であったときから数えれば、付き合いはさらにもう少し遡る。
「行方不明、拉致、襲撃が頻発するうえに廃人になりかねないやばい部署をよくここまで辞めずに続けてくれたわ」
「なんとかなりませんか?」
「トラブルが向こうから来るんだから無理」
結局、「健康で無事に」というもっとも穏当な抱負の実現が一番難しいのだった。ダニエルに対し非情な答えにもなるというものだ。
「でもこのところの大きいヤマはアンバーの粘着が原因だったんだし、今年はもう少し落ち着けばいいけど。おかえり」
「やっぱり仕事の話してる。駄目だって」
戻ってきたヘリオドロに釘を刺され、エヴァは首をすくめた。一緒についてきたノーヴァは何やら口をもごもごと動かしている。餌付けされたらしい。キッチンにいる間にグラスの空いたふたりに、ライアンが何を飲むか尋ねている。
「で? 何の話してたの」
「別に目新しい話じゃないよ。強いて言えば今年の抱負?」
「季節感狂うなぁ」
白のワイングラスに変えたヘリオドロに答えつつ、グラスが再び行き渡るのを見て、エヴァは少し考える。彼女が仰ぐ神はないため、メリークリスマスは存在しない。代わりによく使われるハッピーホリデーも、2月のウィークエンドに使うには収まりが悪い。
グラスを軽く掲げると視線が集まる。にやと笑う。
「平穏な日々に。乾杯」
その言い回しをどう解釈したかはそれぞれに違っているだろう。返ってくる表情のバリエーションがそれを物語っていて、ともあれ、彼らは今日何度目かにグラスを合わせた。
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