御令嬢(仮)をエスコートするフリンズさんの話

※ネフェルとヤフォダが少し居ます※

「あ、ヤフォダちゃんだ~」
「ぉお!いいところに!!」
……え?」
 
 太陽が少し傾き始めた頃、なんか楽しい依頼は無いかなぁと冒険者協会に向かっていた。その途中でばったり出会ったヤフォダちゃんに声をかけてみたところ「丁度あんたに合ういい依頼があるんだよ!というか、あんたにしか頼めないやつだ。しかも超特急。一緒に姐さんのところへ向かおう!」と半ば拉致されて気づいたら秘聞の館へ。この時点で嫌な予感しかしない。
 
 迎え入れてくれたネフェルさんは、私の頭から爪先までを一瞥して、満足気に笑った。もうすでに帰りたいんですけど……
「とある貴族様の集まり、つまり舞踏会に潜入してほしいのさ。あんたはとびきり笑顔で会場内に居るだけでいい。あとはヤフォダが裏から潜入して『用事』が終わったら合図するから、帰ってきておくれ」
「え、無理では?」
「予定してた子が来れなくなってねぇ。あんたぐらいの背格好の子を探してたんだ。ヤフォダもたまには良い仕事するねぇ」
「えへへって、ネフェル姐さん!いつもは?!」
……二人とも全然聞いてくれない、面倒な依頼は受けませんよ??」
「ほら、まずは見てごらん。今日のあんた用の衣装だよ」
――こ、これは?!」
 
「着てから考えてごらんよ」と、ネフェルさんに着付けされたのは絢爛豪華な深紅のドレス。ローズ柄のレースが惜しみなく使われており、煌びやかな宝石まで散りばめられている。顔を隠す分厚いベールも準備されている。
 ――これは、女子の夢の塊では
「そうだろう?深窓の御令嬢役だよ。こういうの好きなんじゃ無いかって思ってたのさ」
……声に出てました?」
「顔に書いてあるよ」
……そっかぁ」
 書いてあったのなら仕方ない。よし、ここは気合い入れて深窓の御令嬢にでもなってやりますか!
――ところで、一つ確認したいんですけど」
「なんだい?」
「胸周りキツいんだけど、どうにかなります?」
「ふむあんたは代役だから難しいねぇ。我慢しておくれ」
 そ、そんなー!
 
 準備を進めて夕刻。鏡の中の着飾った私は綺麗で、自分じゃ無いみたいでワクワクしていた。最後に目深くベールを被る。段取りを確認して、会場に向かうことに。途中まではネフェルさんが付き添ってくれるそうだ。慣れないヒールの高さに悪戦苦闘したが、コツコツと歩くのも楽しくなってきた。でもヤフォダちゃんから合図があるまでなんとか……なんとかなるのか?
 と、考え事をしていたら、不意に腕を掴まれてぎょっとした。な、なにごと?!
 
――失礼、貴女はもしや……
 
 すれ違い様に掴まれた腕を見たあと、その先にいる人物は、まさかの、
……フリンズさん!?」
 とても驚いた様子のフリンズさんが目を丸くしている。そりゃそうか、知人が突然ドレス着て歩いてたらびっくりするよね。
「ネフェルさん、これは一体……
「フリンズ、今もし時間あるなら、ちょっとした依頼に乗らないかい?」
「依頼?――詳しくお聞きしましょう」
 
 ***
 
 まだ時間の余裕はあるそうで、秘聞の館へ戻ることに。ネフェルさんから説明を受けたフリンズさんは、しばらく考え込んでいる様子だった。
――なるほど。状況は理解はしましたが、なぜ貴女が参加されているのかは理解できませんでした」
「いやぁ、……その場のノリで?」
………はぁ、貴女と言う人は
 あ、すごい呆れられてる。いいじゃないか、私は楽しそうなことには首を突っ込む性格なのだから仕方ない。
「では、僕も同行しましょう」
「ん?……なんで?」
「そのような場での心得が多少あります」
「そのような場での心得ってなに?!」
 
 ネフェルさんがどこからともなく男性用スーツ一式を用意し(なんでもあるな秘聞の館すごい)、フリンズも着替えが終わった。ライトキーパーとは全く別のフリンズさんが出来上がる。
「いかがでしょうか?」
「とってもかっこいいです!」
「ふふっ、お褒めいただき光栄です」
 普段のライトキーパーの制服(なのかな?)も似合っていたが、こういった正装も似合うんだなぁ。美形の長身さんは何着ても格好いい。
「それと、ネフェルさん。こちらの飾りランプもお借りしても?」
「構わないけど、何に使うんだい?」
「僕はライトキーパーなので、ランプがないと落ち着かないんです」
――へぇ……いいよ、持っていきなよ」
 そうしてフリンズさんは、借り物の飾りランプと元々持っているライトキーパーのランプを近づけて、灯を移していた。小さな青い炎が綺麗に揺らめいた。
 
 ***
 
 それから二人で、とある邸宅の会場へ向かうことに。道中、フリンズさんからの提案のような忠告を貰った。
「貴女はなるべく声は出さず、僕から離れないでくださいね」
「はーい分かりました。けど、なぜですか?」
「きっと御令嬢役のボロが出ますから」
「なにそれ!」
「ほら……
「あ、はい……
 ……よし、喋れない設定の『深窓の御令嬢』で行くことにしよう。そんな設定で大丈夫か?と言う点は気にしないことにする。
 
 招待状をフリンズさんが入り口で提示してくれて、難無く潜入できた。もちろんネフェルさんが用意した偽名と身分である。会場内は仮面舞踏会らしく、フリンズさんが蝶々モチーフの仮面を付けている。私はベールで顔が隠れるので仮面は無くて良いらしい。
 おそらくヤフォダちゃんがそろそろ動く頃だろう。ネフェルさんからは「会場内で少し目立っておいてくれ。後の時間は、笑顔で背筋伸ばしておくだけでいい」と言われた。
 目立つってどうするんだ?と、心配していたのだが、何も苦労せず目立つことができている。……フリンズさんが隣にいるからね。男女問わず視線が痛い。
 たまに私達に話しかけに来る貴族様がいるのだが、私は喋ることができない(設定)ので、すべてフリンズさんが対応してくれた。「この度はお招きいただきありがとうございます」など、様々なバリエーションで挨拶を交わしてる姿は、なんというか……場慣れしている。
 
「ふぅ……
 流石に空気感には慣れてきたが、ずっと笑顔で過ごすというのは、ちょっと疲れたね。
「何か飲み物でも取ってきましょうか?」
 気遣いがありがたい。コクっと頷くと、「では、ここでお待ちくださいね」と言い、すぐ近くのテーブルへ向かってくれた。
 ――フリンズさんが離れた途端に、近くにいた男性から声をかけられてしまう。
 
「失礼、そこのお嬢さん。もしよければ
――僕の妻に、なにか?」
「ひぃっ」
 
 俯瞰して状況が見えていた私は、すぐ逃げ出した彼に少しだけ同情した。とてもわかるよ、怖かっただろうなぁ。ガチギレで数トーン低い声色のフリンズさんってば、滅茶苦茶怖い…………ん?
 
「フリンズさん、」
「いやぁ、油断も隙もない。今の方に何かされてませんよね?」
「うん、全く何も……じゃなくてさ、今なんて言ったの?」
「おや、聞こえてませんでしたか。今日の貴女は『僕の妻』、ですよ」
――なっ!」
「ほらお静かに。喋らない設定だったのでしょう?」
 しーっと人差し指を口元に当てて咎められた。慌てて自分の口を手で塞いだ。
 
 そうこうしていると、会場の窓付近でヤフォダちゃんからの合図があった。大きな星マークの紙が貼られていて、とても彼女っぽい。
「終わったようですね、では僕たちも抜け出しましょうか」
 そう言ってフリンズさんは、私に手を差し出してくれた。とても自然なエスコートに対し、そっと手を乗せて答えた。
 
「つ疲れたぁ……
「いやぁ、結構楽しかったですね」
「えぇ、でもフリンズさん狙いの御令嬢達からの視線で針の筵でしたよ……
「おやおや。――それは僕の方も、でしたが」
「え、何ですか?ちょっと聞こえなかった」
「いえ、こちらの話です」
 ……ふむ?まぁいいか。それよりも、
「うん……そうですね、楽しかったです。こんな経験滅多にできないと思うので。フリンズさん、付き添いありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ。……少し昔を思い出しました」
「ライトキーパーの前は貴族様だったってこと?」
「それはどうでしょうかねぇ」
 あ、これは誤魔化される流れだ。でもそれで良い。言いたくない過去は聞かない主義なので、ここまでとしよう。
 
 会話してるうちに気が緩んだのか、慣れない高いヒールでの疲れが出たのか、小さな段差に躓いてしまった。
「ぅわっ」
――っと、お気をつけて。いえ、こうしましょうか」
……へっ?」
 転けかけた私を支えてくれた後、フワリと体が浮いたかと思ったら、フリンズさんが抱きかかえてくれていた。「これなら転けませんからね」などと言っているが、「お下ろしてください」しか言えないし、「嫌ですね」と返されてしまう。実際、足は限界なので助かるけど!……まぁいいかと、葛藤はそのままにして受け入れることにした。
 
「あぁそういえば、お伝えしてなかったですね」
「なんですか?」
「そのドレス姿、とても綺麗です。お似合いですよ」
……あ、ありがとうござい、ます……
 この距離で、笑顔を携えてその台詞はズルいですよ。私は緩む顔を隠すため、急いで両手で顔を隠した。
 
 
 
『お貴族様ってこう言うこと?』