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ニイナ
2025-12-15 22:36:28
5456文字
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寄り添うきみがいるということ 2
タイトルそのままなので続きです。いつだって若様の傍にいるローが良いな。
本来書きたいと思っていたところがなかなか書けないまま話が膨らみ続けています。どうしてだろう……
ローの訪問を続けて受け、その都度に安堵を見せることに何とも言えない気持ちを抱えたドフラミンゴは事情聴取の日をすぐに迎えることになった。そういえば時間を聞いていなかった、と思ったのだが、ローが来るのであれば問題ないのかも知れない、と思い直す。日取りが変わることもあるだろうし、時間が大幅に遅くなるということもあるだろうとぼんやり考えて一応ドフラミンゴは朝から支度をしていた。
食事はあまり進みは良くなく、食パン一枚を一日でどうにか食べ切るという具合になっている。手早く食べられるものが食パンだったのでそれを口にしていたのだが、特別に好きだというものでもない。ただ何かが食べたいという意思もなかったため、ドフラミンゴは今日で終わる食パンを眺めてどうしようかと思ってしまった。冷蔵庫に使えそうな食材がないので、食事を作るにしても難しいだろう。そうなると何かしらを買いに行くことにならざるを得ず、ドフラミンゴは一旦そのことを頭の端に追いやった。いざとなればローにたかってやればいいだけの話だと決め付けていた。
そうしているうちに、ドアが叩かれてドフラミンゴはゆっくりと玄関に向かう。この部屋に用事がある人間など限られていたものの、ドアを開いてそこに佇むローを見るとやはり何とも言えない気持ちになっていた。それにしても本当に迎えにくるのだな、と改めて思ってドフラミンゴはローに続いて部屋を出ようとした。
「お前、服はそれだけ、なのか
……
」
「これがいちばんまともだ」
「ちょっと待ってろ」
唖然として問いかけてくるローに眉を寄せ、ドフラミンゴは端的に答えてやる。他に服がないとは言わないが、そのどれもがまともだとは言い難かった。そんなドフラミンゴの答えに衝撃でも受けたらしいローがそう言い置いて一度、ドフラミンゴの傍を離れた。そんなローを見送り、服がまともでないことなどわかりきっていただろうに、とやや呆れながらドフラミンゴはローが戻ってくるのを待つしかなかった。
「これに着替えろ」
「
……
どうしたんだこれ」
「お前用に買っておいた」
「
…………
」
不機嫌にも似た顔で押し付けられたのは真新しい子ども服だった。タグも今切ったばかり、という新品の質の良い服は、今生では初めてのものである。紫のシャツとグレーのベストに赤いチェックのパンツ、それから黒いショート丈のダウンジャケットという一式を手にして、ドフラミンゴは言葉を無くした。ドフラミンゴのために服を用意していたローに苦言を呈せば良いのか、呆れれば良いのか、わからない。こんなものを、わざわざ用意しなくても、良いのに、と思いながらドフラミンゴはじっと押し付けられた服を見つめてしまった。
「サイズは合ってるはずだぞ」
「そうか
……
」
いつまで経っても着替えようとしないドフラミンゴにローが見当違いのことを伝えてきて、ドフラミンゴは息を吐いた。ローがドフラミンゴの体型を把握しているのは職業柄わからなくもないので、突っ込むことはしない。真新しい服をそろりと撫で付けて、ドフラミンゴはとりあえず着替えることにした。そもそもそうしないと今日の予定は始まらないのである。
リビングに戻るのも億劫で面倒くさくてドフラミンゴは玄関で着ていた服を脱ぎ捨てた。それにローが慌ててドアを閉め、ドフラミンゴを外から遮断する。べつに誰に見られようと構うことではない、とドフラミンゴは本気で思っているのだが、ローがそうは思わないのも理解は出来ていた。
「お前な
……
」
「早く着替えたほうがいいだろ」
「
…………
」
小言を言おうとしたのだろうローがそれでも何も言わなかったのでドフラミンゴは気にもしないことにする。ここで言い合いになるのも不毛なだけだった。手触りの良いシャツに袖を通し、ボタンをとめてベストを着て、パンツをはいた。ダウンジャケットも羽織れば実に防寒に優れているのがわかり、ドフラミンゴはわずかに感動すら覚えていた。けれども上質な服のどれもが今のドフラミンゴには新鮮なもので、どうにも落ち着かない。服装だけを見ればそこそこ良いところの子息に見えなくもない、気がする。そう思ってしまうことにまた嘆息して、ドフラミンゴはほとんど履く機会のなかった靴に足を入れた。
「ロー、行くんだろう?」
「あァ、そうだな
……
」
上等な服と比べると明らかに見劣りする靴を気にもせず、ドフラミンゴはローを見上げる。困惑を浮かべて感情を揺らしているローを理解できるはずもなく、ドフラミンゴはとにかく事情聴取のために部屋を出た。すこしだけ先を歩くローに続いて、今日が曇天なことにドフラミンゴはほっとしていた。曇っていても目に痛みが生じないかと言えば否なのだが、その差は明らかなものである。それをローに悟られているのかどうかは微妙なところだった。
ローが歩調を緩めて一台の車の前で足を止めたので、ドフラミンゴはそれにならうしかなかった。そういえば移動手段を考えてもいなかったな、とぼんやり思うドフラミンゴを置いて、ローが車のドアを開いた。
「ロー、車なんて持ってたのか?」
「知り合いに借りただけだ」
「ふぅん
……
」
車を運転するローというのがあまりイメージとは結びづらく問いかければ、納得のいくものが返されてドフラミンゴはなるほどと思う。車を貸すとなるとなかなかに親しい間柄なのだろうなと考え、それもまた不思議な気がした。今生でローの交友関係がどうなのかはわからないのだが、あまりそれが広いとは感じられなかった。そうとは限らないことを勝手に想像しながらドフラミンゴは助手席のドアが開かれていることに目を瞬き、そっと息を吐いた。当たり前のようにドフラミンゴを隣に座らせる神経も、よくわからない。けれどもそれを口にしてもどうせ不毛な予感しかせず、ドフラミンゴは黙って助手席へと乗り込んだ。
ローの運転はお手本のように実に安全運転といえるものでこれもまた意外だなとドフラミンゴは思っていた。手先が器用なことと運転が得意なことはイコールではないので、ローもまたそういう類なのかも知れないと勝手に決め付けていたのだ。それも予想とは外れていて、ローは運転が上手かった。
ローの無駄のない運転は心地良く、安心感がある。そのせいか、ドフラミンゴの気はかなり緩んでいたといって良かった。今の家族よりもよく知っているローのほうが、よほどドフラミンゴに居心地の良さを与えてくれている。その事実から目を逸らすようにドフラミンゴはローから目を離した。
会話はなく、車内はかなり静かだった。ほどよく暖房が利いている室内はあたたかく、しっかりと防寒もされた身体がより温まる。そういえばもう部屋の暖房も自由に付けていいのだと不意に思い出し、ドフラミンゴは指をそっと握りしめた。部屋に帰ればこの服もローに返さなければなとぼんやり思いつつも、一日ぐらいは許されるようにも思えてしまった。
「着いたぞ」
「
……
わかった」
思考を飛ばしているうちに目的の警察に着いたようで、ローが車を停める。見慣れない建物をしげしげと眺めてドフラミンゴは車から降りたローに続いた。正面の入り口から中に入ると、すぐに見覚えのある黒髪の女が駆けてくる。ほっと安堵すら見せる彼女は行政の者だったのでは、と思ったものの、気にすることもないとドフラミンゴは決め付けた。
「ドフラミンゴくん、今日はよろしくね。トラファルガーさんも、ありがとうございました」
「よろしく、お願いします
……
」
「気にしなくて良い」
「じゃあ、ドフラミンゴくんはこっちに」
ローに丁寧に頭を下げた黒髪の女を一瞥してから、ドフラミンゴはローを見遣る。ローの顔にはほとんど表情がなかった。けれどもそれは、内側にある様々な感情を抑えつけているから、だとドフラミンゴは理解した。ドフラミンゴに対する理不尽に苛立ち憤り、不快感を見せているローを、やはりドフラミンゴは理解できなかった。遠ざかるドフラミンゴをいつまでも見送り続けるローの視線が、すこしだけ煩わしかった。
「話を聞くのは私じゃないし、トラファルガーさんは一緒じゃなくてごめんね」
「
……
べつに」
黒髪の女の言葉に意識を引き戻され、ドフラミンゴはゆるく首を振る。話を聞くのが誰であっても関係がなかったし、ローと一緒である必要もない。ローがいなければ話を出来ないほど、ドフラミンゴはか弱い存在ではなかった。
黒髪の女に連れられてきたのはちいさな個室で、取調室、という札がかけられていた。フィクションでしかお目にかかれない代物を物珍しく眺めてから、ドフラミンゴは中へと通されることになった。そしてそこにいた人物に、ぱちりと目を瞬かせた。
「おはようございます、ドフラミンゴさん。今日、お話を聞かせていただくコビーです。よろしくお願いします」
「
……
よろしく、お願いします」
これはまた意外な人物だな、と桃色の髪をした青年
――
コビー
――
を見つめてドフラミンゴは息を吐く。海軍の者は警察に就職するのが義務なのか、と訝りつつも考えるほどのことではないと切り捨てた。どうやらコビーには記憶がないようで、ドフラミンゴに対して実に誠実に話をしてくれていた。女のこと、男のこと、それぞれの扱われかたについて、調べたこととの証左を進められるのにドフラミンゴは静かに事実のみ受け答えをした。いつからだったのかと問われてあまり記憶にないが四歳ぐらいではないかと伝えた時に、コビーの顔が痛ましげにしかめられ、ドフラミンゴはついため息をこぼしそうになった。今までの境遇を、かわいそうだと勝手に同情されたくはなかったのだ。
一通りの事情聴取が終わり、ドフラミンゴにしてみれば長い時間がようやく過ぎた。また何かあれば声がかかるだろうが、もう必要はないとドフラミンゴは勝手に判断していた。話してくれてありがとうございます、とコビーに告げられてドフラミンゴは曖昧に頷くしかなかった。その後で黒髪の女にも沈痛な面持ちで、遅くなってごめんね。もう大丈夫だから、と声をかけられるのにも、ドフラミンゴの感情は一切揺れなかった。何の思いも湧いてこず、やっと面倒ごとから解放されたという実感しかない。ドフラミンゴの淡々とした態度が気丈さに見えていたとしたのであれば、それはあまりに人を見る目がないとしか言えなかった。
コビーに見送られて黒髪の女に連れられて正面玄関まで戻ってくれば、そこにはまだローがいて、ドフラミンゴはぽかんと口を開けた。ずっとここで待っていたのか。どうしてそんなことをしたのか。何をしてるんだこいつは、という思いがぼろぼろと湧いたものの、ローの月をとかした眸とかち合った瞬間、ドフラミンゴは全身から力が抜けた気がした。真っすぐにドフラミンゴだけを見つめる眸が、いつか手を伸ばした月に繋がって、ふらり、と足がローの方へと向いた。
「ドフラミンゴ」
「
……
ロー」
ほっとしたように名前を呼ばれて、同じように名前を口にすれば、どうしようもないほど安堵が生まれ、ドフラミンゴは息を吐いた。それほど疲れていたわけではなかったのだ。多少なりとも疲労感はあれど、全身がぐったりするほどのものではなかった、はずなのだ。けれどもドフラミンゴの意志とは反して、身体は休息を求めていた。
「ドフラミンゴくん、トラファルガーさん、今日は本当にどうもありがとうございました」
「いや、いい」
「ドフラミンゴくん、気を付けて帰ってね。ご飯もしっかり食べてね」
「
…………
」
黒髪の女からかけられる気遣いの言葉になんと返していいかわからず、ドフラミンゴはこくりと頷くに留めた。そうすればこれ以上は話が続かないだろうと判断してのことだったが、それははたして黒髪の女には正しかったらしい。にこりと穏やかな笑みに気遣いを包みこんだ彼女は、ローにまた丁寧に頭を下げて踵を返していった。
「そろそろ昼だしな。ドフラミンゴ、何が食いたい?」
「
…………
お前が食べたいものが、いい」
「は?なんの遠慮なんだそれ」
「遠慮じゃない。ローが食べたいものなら、食べたいかも知れないってだけだ」
ローからの問いかけにドフラミンゴはしばらく考え、ぽつんと答えた。それに眉を寄せて納得などしないローに返されたところで、ドフラミンゴにはそう言うしかなかった。食べたいと思うものが、ドフラミンゴには何も浮かばない。空腹感があっても、食事を選ぶ気にはなれないのだ。だからこそ、ローが口にしたいと思うものなら、ドフラミンゴ自身も食べられる気がしただけだった。本当にそういう単純な話だったのだ。
「
……
っ」
「ロー?」
「それなら、おにぎりと焼き魚が良い」
「フフフッ
……
そうか」
息を詰めて声を呑んだローの顔に、喜色のような困惑が浮かぶのを不思議に思いつつ名前を呼べば、ローの口からシンプルなものが聞こえ、ドフラミンゴつい笑ってしまった。神妙にも思える、何かを噛み締めた顔のローがちゃんと食べたいものを言うのがおかしく、素直に笑みがこぼれていた。この辺りにある店など知る由もないが、ローが知っているだろうし、任せておけばいいだろう、とドフラミンゴはひとり完結する。どこで何を食べることになったとしても、一緒にいる相手がローであるだけで、その食事は美味しくなる気がした。
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