フリンズさんの寝顔(?)を眺める話

ライトキーパー事務員さん2

「あれ?フリンズじゃん、おはよう。朝早いね」
「おはようございます……。え、朝ですか?」
 
 ライトキーパーの事務所に出勤後に、少し扉の開いていた作業部屋の一つを覗いたところ、珍しい光景を見た。朝からフリンズが出勤してるところなんて久しぶりにみたかも、とは思ったが。
「その様子だと、もしかしてそれ朝まで書いてたの?」
「えぇ……報告書が書き終わらなくて、ですね
 とてもぐったりしている様子。書き終わったらしい報告書の山があったので、一番上の書類に目を通してみた。手に取ったソレは結構前の現場報告書のようだ。
「これ締め切り過ぎてるやつでは?」
「はい、なので今書いているのです」
「いや遅いでしょ」
 ははっと渇いた笑いが出ているが、もう目が笑っていない。夜通し書いてたのなら、もう限界なんだろうな。手元の書類を覗いてみたところ、もうすぐ書き終えるところのようだが、心なしか字が雑である。
 
 少し早めに出勤したので、私の勤務開始まではもう少し時間がありそうだ。同じ部屋にあるソファに腰掛けて、フリンズを観察しておくことにした。フリンズのこんな姿を見るのは珍しいので、ね?
「何を楽しそうにしてらっしゃるのですか
「え、声に出てた?」
「顔に出てますよ」
「あらら。でもほら、人の不幸は蜜の味っていうじゃない?」
「おやおや、ひどいお人ですね」
 そう言いながらペンを置くフリンズ。どうやら一段落したようだ。
「締め切りが過ぎた報告書は書き終えました。明日締め切り分は、まぁ後程という事にしましょう」
「うん、お疲れ様」
 事務作業で凝り固まった体や腕を広げて伸ばしている。ねこちゃんみたいだ。
 
「フリンズ、」
「はい」
「おいで」
 自分の膝をぽんぽんと軽く叩いて、彼を呼び寄せる。若干ぼんやりしながら立ち上がり、ゆっくり近づいてきた彼は、私の膝に頭を乗せてソファへ横になった。しかし彼の足は長いのでソファからはみ出している。長身の方々は大変だなぁ。
「あぁ……これは良いですね。とても癒されそうだ」
「ふふっ、そうですか。私の仕事が始まるまで、だよ?」
 仰向けになって私の顔を見ていた彼にそう伝えると、静かに目を閉じた。彼の頭を優しく撫でてあげると、表情が緩やかなった。彼のお腹に乗せていた方の手は、いつのまにか抱え込まれてしまっていた。そこは気にせずそのまま頭を撫でたり、長い髪の毛をくるくると弄んでいたところ、フリンズからの反応が無くなった。もしかして寝たのかな?まぁいいけど、よっぽど疲れたんだろうね。
 
 改めて人形のように綺麗な顔を眺める。いつもながら美人さんである。徹夜の影響で少しやつれてはいるが、綺麗な肌と生え揃った長いまつ毛が羨ましい。手の甲で彼の頬を撫でてみる。触り心地が良くて、これはこれで楽しい。
――くすぐったいですよ」
「起きてましたか」
「えぇ。でも心地良くてゆっくりできました」
「それはなにより」
 
 ふと壁に掛けてある時計に目をやると、結構な時間が過ぎていた。
「はぁ、さて……そろそろ仕事に向かうとしますか」
「おや?もう終わりですか」
「フリンズさんよ忘れてるかもしれませんが、ここは職場なのですよ」
「そうでしたね。それはまたとても残念ですねぇ」
 暗にそろそろ起きてほしいと伝えているのに、全然起きようとしないな。でも、そろそろ人が来てしまう可能性もある。少し顔を近づけて、小声で「おきてくださーい」と伝える。
 
 その、顔を寄せたタイミングにフリンズも少しだけ起き上がり、私の後頭部がグッと掴まれる。そして唇に触れた柔らかい感触にびっくりして、反射的に下がろうとするが頭を押さえ付けられて動けない。そのままフリンズの気が済むまで唇を奪われ続けてしまう。
――ん、ごちそうさまです」
……ふりんず~~?!」
 目を細めて満足気な彼は、ペロリと口の周りを舐めてから起き上がる。動揺しすぎて言葉にできないこの感情を、どうにもできず私は顔から火が出そうだったが、なるべく声を抑えてまずひとつ抗議した。
「ここは……職場なの!!」
「はい、そうでしたねぇ。本当にとても残念です」
 
 ははっと口角を上げて楽しそうに笑う彼に対し、何が残念なのかはあえて聞かない事にした。
 
 
 
『束の間の逢瀬にはご注意を』