フリンズさんが心配性な話


「えっ、お一人で……ですか?」
「そうですけど、はい?」
 
 フラッグシップのカウンターで一人ご飯を食べていたところ、フリンズさんに声を掛けてもらった。たまにお店で出会うと、冒険者をしている私に興味を持ってくれたのか、話し相手に選んでくれるみたいだ。隣の席を勧めて座ってもらった。とは言っても、彼がご飯を食べている所はあまり見ない。今日もデミアンさんに声をかけてお酒の注文をしていた。
「最近はフリンズさんをナシャタウンで見かけませんでしたが、お忙しいんですか?」
「はい、最近はそうでしたね……。明日も朝からこちらで仕事なので、今日はナシャタウンで泊まりの予定なのです」
「あらら、大変そう……
 デミアンさんから注文していたお酒を受け取り、グラスを傾けているフリンズさん。コクコクと飲んでは「はぁ……」と少しため息が出ている。お疲れの様子ですね。
 
「私も明日は朝から出掛けるので、今日は早めに夕食を取って休む予定なんです」
「そうでしたか。ちなみに、どちらまでお出かけに?」
「はい、ヒーシ島まで行ってみます。一人で行くのは初めてなので、時間の余裕を持って、朝から出発する予定なんです」
「えっ……
 フリンズさんの持っていたグラスがパシャっと音が鳴る程に揺れた。溢れてないのが凄い、と思いつつ、何をそこまで驚く事があったかと首を傾げてしまった。
 
「お一人で、ですか?」
「そうですけど、はい何か問題でも……?」
 本当に分からないので、聞いてみることにした。
「ナシャタウンからは結構な距離がありますが……
「そうですね、なので早めに出発することにしました」
「いえ、問題はそこではなく……
 コトン、とグラスを置いてフリンズさんは頭を抱えた。えぇと、なぜ
「明日はラウマさん主催の、霜月の子の催しがあるそうで、リーリキさんから誘われました。私などの一般人も参加して良いらしく、とっても楽しみなんです」
「であれば、リーリキさんたちと向かうのが良いのでは」
「彼女たちは明日の準備のために、今日から向かってるそうですね」
「なるほど、では……しかし明日は僕も抜けられない仕事が……
 フリンズさん、凄い悩んでる。頭を抱えたまま髪を握っているので、前髪がクシャクシャになっている。珍しいなぁ、と眺めてみた。でも、何をそんなに……
 
――わかりました」
「え、何が?」
「少しお待ちを」
 そう言って少し後ろを向いて、何かを取り出した……?ように見えた。こちらに向き直ったフリンズさんの手には、小さなランプがあった。手のひら程の大きさの飾りランプのようだ。可愛い。
「こちらをお持ちください」
「えっと、……それはなぜ?」
「お守り代わりです。少しは魔物避けにもなります。特殊なランプなので一日程度であれば火も消えませんし、水にも強いので。ぜひこちらを」
「そうですか。でも少しの魔物ぐらい平気ですよ、一応冒険者の端くれなので」
「すみません、僕が勝手に心配してしまうだけです。道中は腰ベルトか鞄にでも着けておいてくださいね」
 有無を言わせない圧力を感じる。笑顔に見えるのに、不思議。
 
「わかりました、お預かりしますね」
 まぁいいか……と思い直して受け取った小さなランプは、綺麗な炎が揺らめいていた。焚き火や暖炉の炎を見ていると癒されると聞いたことがあるが、それと同じかもしれない。
「はい、受け取ってくださりありがとうございます」
「ぇえ?お礼を言うのは私の方では?」
 そう聞き返したところ、困り顔をするフリンズさんを見て、私はクスクス笑ってしまった。
 
 明日の夜もフラッグシップで会うことを約束して、フリンズさんとは別れた。家まで送ってくれるとの申し出は丁重にお断りした。だってフリンズさんの方が疲れてそうだったし、なんならお店で出会った時よりも疲れて見えたのは気のせいだろうか。
 
 
 ***
 
 
 翌日は朝から良い天気で、ヒーシ島までの一人旅は道中何事もなく目的地に到着できた。ラウマさんやリーリキさんとも沢山お話しできて良かった。
 ラウマさんには、鞄につけたランプのことを聞かれたので、フリンズさんからの借り物だと伝えたところ、苦笑いされた。なぜなのか。
 ナシャタウンまでの復路では、クルムカケ工房にも寄り道できた。イネファとアイノちゃんとも会えて良かった。イネファはランプのことを気にしているようだった。聞いてくることまでは無かったが……ほんとになぜなのか。
 
 フラッグシップへ立ち寄ると、カウンターにはすでにフリンズさんが居た。特に時間は決めていなかったはずだが、私より早い時間にいるのは珍しい。
「こんばんは、フリンズさん」
「あぁ、おかえりなさい。ご無事で何よりです」
 昨夜とは打って変わって心配した様子もなく、目を細めてニッコリ笑うフリンズさん。忘れないうちに、と思って鞄に付けていたランプを返すことにした。
「ほんとに魔物避けの効果があるんですね。全然出会いませんでした」
「そうでしたか、それは良かったです」
 フリンズさんは受け取った小さなランプを、カウンターの机に置いた。カウンターの隣の席に私が座ると同時に、デミアンさんが私の前に料理を運んできた。
「え、まだ注文してないですよ」
「こちらはフリンズさんが注文されてましたので」
「はい、そろそろかと思いまして」
……そうでしたか、ありがとうございます」
 まだニコニコと私の顔を見ているフリンズさんに加え、今日一日の違和感を当て嵌めて、一つの答えに辿り着く。
 
――もしかして、この小さなランプ。発信器とか付いてます……?」
「まさか。そんな機能は付いてないですよ」
……そうですか」
 んんー、ほんとかなー?でもフリンズさんがそういうのなら、そうなのかも。
「それで、今日はどんなことがあったのですか?お聞かせくださいね」
「はい、ヒーシ島では霜月の子の催しに予定通り参加できて楽しかったです。あぁ、あと帰り道にクルムカケ工房も寄り道しました」
「そのようですね」
……ん?」
 
 なんでそこで「そのようですね」と言われる……
――もしかして、やっぱりこのランプ。盗聴器とか発信器とか付いてます……?」
「まさか。そんな機能は付いてないですよ」
 さっきと同じこと言ってるー!怪し過ぎるー!!
 
 
 
『寄り添う小さなランプと共に』