なんでもコレクションするフリンズさんの話


「今日は一段と寒いねぇ」
「そうですね……ってほら、約束は守ってくださいね」
「はーい」
 小声で話すフリンズに対し、気持ち小声で返事を返した。
 
 釣りに行くというので、暇を持て余した私も付いていくことにした。
「なるべく静かにしてくださいね」
「うん、わかってるってば」
 出発前にそのように答えたばかりなのに私の声が大きい、ということを含められた小言でフリンズに嗜められてしまった。元々暇だから付いてきたのに、釣りを見ているだけでは暇つぶしにはならない事がよく分かった。
 たまには釣りをするフリンズでも見ながら外で編み物でもしようかな?と最低限必要な道具を持ってきた。しかし海辺近くの岩肌に座ったはいいが、寒くて手が震えている。これでは編み物どころではない。道具は鞄に閉まったまま、仕方なく目の前の彼を観察することにした。
 
……あれ?」
 フリンズをよくよく観察していると、いつものケープコートの内側に、いつもと違うものが見えた。あれは……なぜか見覚えがあるぞ……
「どうしましたか?」
 小声で独り言のように呟いたはずだが、フリンズの耳には届いたらしい。
「えっと、それ……なんか見覚えが――あっ」
 
 もう少し彼の近くで確認しようと立ち上がったところ、湿った岩に足を滑らせた。
 やばっ!と、次にくるであろう衝撃に備えたのだが――
「ふぅ、間に合いましたね」
 私が岩肌とぶつかる前に、フリンズが腕を体に回して捕まえてくれたようだ。そのままフワっと浮いた体は、しっかりフリンズに抱きかかえられてしまった。
「ごめん、ありがと」
「いえいえ。ここは滑りやすいですから、気をつけてくださいね。――さて、帰りましょうか」
「あれ、釣りはもう良いの?」
 私を片腕で抱えつつも、身軽な足取りで海辺の岩を登っていくフリンズ。多少揺れて怖いので、彼の首に腕を回して抱きつくことにした。
「少々騒いでしまいましたからね、今日は魚が寄ってきてくれそうにありません」
……はい、騒いでしまい大変申し訳ありませんでした
「ふふっ、仕方ないので許して差し上げます」
 仕方ないと言いつつも、目尻は下がっていて機嫌が良さそう。助かった。
 
 海辺からは離れて平らな地面に到着したが、彼は私を降ろす気は無さそうだった。ちょうど良いのでさっき気づいた件について聞いてみることにした。
「ねぇねぇ、首元のこれ。とても見覚えがあるんだけど」
「こら、いきなり首元をつつくのはおやめなさい。驚いて落としてしまいますよ」
「それは嫌!」
「冗談ですよ。僕が貴女を落とすわけがありませんからね」
「そうしてください。――じゃなくて、なんで誤魔化してるの?」
「バレてしまいましたか」
 
 抱え上げられた今の状態ならよく見える彼の首元には、彼と付き合う前に私が作ってあげたマフラーがあった。しかも作成第一号の、正直に言うと失敗作なのだ。ケープコートの内側に着けているので、あまり見えてはいない、けど……
「このマフラーは不恰好だから使わないで、捨ててもいいって、以前伝えたはずなんだけどな?」
「いただいた品はすべて大切にコレクションしてますよ。当たり前じゃないですか」
「当たり前だったんですか?」
 自信満々に言い切られたので、追加で文句を言う気すら無くなってしまった。が、しかしなぜこれを選んだのか?と言う点はやはり気になる。
「とくに理由はありませんが、出かける前にこのマフラーと目が合ったからでしょうか」
「そんな理由で……
「えぇ、はい。それに夜明かしの墓の中で使う分には、僕たちしか見ないでしょう?」
「まぁ、それはそうかも」
「であれば、何も問題ないですよね」
 口達者な彼にいつも有耶無耶にされてしまう私なのだが、今回も(たしかにそうかも)と、納得してしまったので許してあげましょう。
 
「どうせなら今作ってる新しいマフラーを使ってよね」
「おや、それは僕のでしたか。それそれは、楽しみにしてますね」
「うん。だからそのマフラーは使わないでね」
――それはお約束できませんねぇ」
 交渉はうまくいかなかったか。まぁ……もうフリンズの好きにしてくれ、と私は諦めることにした。
 
 
 
『蒐集家には勝てそうにない』