フリンズさんにマニキュアを塗る話


「フリンズって、いつも革手袋してるよね」
「はい、お気に入りなので」
「でも、少しの間外してもらっていいかな」
「えぇ構いませんが……なにか?」
 
 今日はフリンズの家に遊びに行く予定を立てていたので、昨夜はお気に入りの瑠璃色を私の爪に乗せた。少しラメが入っていて、指先を動かすと太陽や月明かりでキラキラと反射するところが気に入っている。
 ふと、その時に思いついたのである。
 
「フリンズの指にも、マニキュア塗ってみても良い?」
「いいですよ、どうぞお好きなように」
 気に入っていると聞いたばかりの革手袋を外してくれて、長くて綺麗な指が現れた。すんなりと許可を得る事ができたので、早速準備をした。
 
「じゃあこのソファに座って、大人しくしててね」
「はい、わかりました」
 指定した場所に座ってもらい、手近なサイドテーブルを引き寄せ、手を乗せてもらう。私も対面に椅子を移動させて座った。それからフリンズの手を取り、自分の手のひらと合わせて乗せる。冷え性の私よりもヒンヤリしている。軽くマッサージしていると、くつくつと小さな笑い声が溢れる。
「少し……くすぐったいですね」
「あ、ダメだよ。このあとは手は動かさないでね」
「大丈夫です、わかっていますよ」
 
 フリンズの手をテーブルに置き直し、マニキュアを取り順番に指先の爪を塗っていく。
「そういえば、人にマニキュア塗るの初めてかも……
「そうなのですか?とても上手に見えますが」
「やめてよ照れる」
 そう答えつつもしっかり照れ笑いしてしまい手がブレたが、なんとか爪からはみ出しそうになるのを抑えた。あぶないあぶない。
 人にマニキュア塗るのも結構楽しいんだな。今度別の友達にも試してみたいかも。アイノちゃんとかイネファとか、塗らせてくれないかなぁ。
 
 鼻歌を歌いながら作業を進めていくと、フリンズの指先は私とお揃いの瑠璃色になった。
「はい終わり。塗るのは終わったけど、まだ動かしちゃダメだよ?」
「ふむ、乾くまではどのぐらいかかるものなのでしょうか」
「えぇと三〇分ぐらい、かな?」
「そんなにかかるのですか。会う度に別の色をされていますが、これは大変な作業ですね」
「そうなのかも?でもまぁ、趣味だからね。自分が一番楽しい」
「そういうものですか」
「そういうものです」
 うんうん、と自分で言って自分で頷いておくことにした。
 
 あぁそういえば、聞いた事があった。
「手が温かい人の方がマニキュア渇くのが早いらしいよ。私もフリンズも手は冷たい方だから、あまり役に立たない情報だけど」
 それを思い出したので、マッサージの時と同じようにフリンズの手を取り、手のひらを合わせるようにして温めることにした。とは言っても私の手は温かくはないのだが。
「あんまり効果ないかもだけど、温めてあげましょう」
「ふふっ、ありがとうございます」
 普段はあんなに大きな槍を振り回しているというのに、フリンズの手は綺麗だ。しなやかで長い指を観察していると、やってみたかったことを思いついた。
 
 フリンズの片手を持ち上げて、乾かしている指先に触れないように注意しながら、手の甲に唇を寄せる。ちゅっ、と小さな音を立ててキスをした。
「えへへ、フリンズの真似してみた」
――っ!」
 言いながらフリンズの顔を見てみたところ、目を見開いて驚いていた。たまに見ることができるネコちゃんのまんまるおめめだった。そこまでびっくりしなくても……と思いつつ、慣れないことをして照れてしまう。自分の頰が熱い気がする。恥ずかしくなってきたので、下を向いて誤魔化すことにした、のだが。
 
 ――その時。
 触ったままのフリンズの手のひらが、一瞬で熱湯のように熱くなった。
 
「きゃっ!」
 思わずフリンズの手を離してしまう。なになに、何が起こったの??
「あぁ熱かったですよねすみません。――こんなに貴女と触れ合っているのに、僕から抱きしめられないことが耐えられなくなりました」
 笑みを浮かべて彼は立ち上がり、私をさっと抱き上げてソファへ戻る。私は彼の膝の上に座らされた。
「え?ま、待って、まだ爪が乾いてないから「いえ乾かしました。ほら、手を取ってみてください。もう熱くはないですから」
 ニッコリと笑いながら手を差し出された。恐る恐る触れると、いつものヒンヤリした手だった。しっかりマニキュアも乾いている。
「なにこれ、魔法?」
「魔法とは少し違いますが、早く乾くとお聞きしたので、手の体温だけを上げてみました」
「なにそれ!そんなことできるんだ、すごい」
「はい、実はできます。僕は元々は炎ですからね」
 普段あまり気にしていないため(そういえばそうだったな)と、言われてから思い出した。話を聴きながら彼の手を触っていると、一拍後にはカイロのような温かい手のひらになっていた。これはこれで、温かくて落ち着く。
「ご希望があれば、いつもこの状態にもできますよ?」
「ううん、いつものヒンヤリした手も好きだから、いつも通りでいいよ」
「そうでしたか、わかりました」
 そのまま触れていると、慣れ親しんだフリンズの手の感覚に戻ってきた。
 
 今度は私の手が彼に取られて、仕返しとばかりに手の甲にキスされた。お互いの目を合わせて笑いあった。
 お揃いの瑠璃色の指先を重ねると、それは月の光を受けて煌めいた。
 
 
 
『触れる指先を着飾らせて、』