usagipai
2025-12-14 22:00:46
2435文字
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誕生日


今日はシナデルフォスの誕生日だと――
その事実を、当日になって初めて知った。

……お誕生日、だったの……
 えっ……ちょ、ちょっと待って。本当に?」

思わず声が上ずる。
隣にいたルルティスの反応に、報告してきた相手が一瞬言葉を詰まらせた。

「え? ええ、そうですが……あっ……
 も、もしやシナデルフォス様……お伝えしていなかった……

……ううん。私も、そんな話をしたことはなかったから……
 そう……だったの……

自分の中で、何かが静かに落ちる音がした。

シナデルフォスには、いわゆる「誕生日」という概念がない。
祝われる日でも、生まれを喜ぶ日でもなく――
彼にとってそれは、ただの“製造日”に過ぎないのだろう。

だから気にしていなかったいやこれは自分からも聞かなかったのが悪い気もする

けれど。

――恋人、なら。

祝いたいと思ってしまうのは、自然な感情だった。
本人がどう受け取るかは別として、
「生まれてきた日」を大切にしたいと願う気持ちまで、否定する理由はない。

そう思った瞬間、ルルティスの足は勝手に前へ踏み出していた。

……セーレちゃん。少し、手伝ってもらえるかしら?」

振り返ってそう告げると、
彼女は一瞬きょとんとしていた

こうして、誰にも知られぬまま――
シナデルフォスの誕生日を祝うための、小さな計画が動き出した。

❄︎  ❅  *.  ❅  ✥  ✣  ✤

……ふぅ……

小さく息を吐く。
それだけで今日一日が、いかに落ち着かないものだったかを思い知らされる。

朝からイオフィエルに呼び止められ、
意図の見えない、要領を得ない質問をいくつも投げかけられた。
答え終えたと思った矢先には、スフィー――
ルルティスの“監視役”を任されている神に捕まり、
まるで様子を探るような視線を向けられる始末。

理由は分からない。
だが、何かが水面下で動いている――そんな気配だけが、やけにまとわりついていた。

結果として、今日は妙に多忙な一日になってしまった。

そして極め付けが――
手元に残された、一通の招待状。

差出人の名を見た瞬間、
胸の奥に、言い表せない引っ掛かりが生まれた。

指定された場所へ向かうと、
そこには見慣れた姿が一つ

……おや、お兄様」

先に立っていたのは、実の兄――ヨエル。

「シナですか。
 ……ということは、シナもこの招待状を受け取ったのですか?」

「ええ。……何なのでしょうね。
 しかも差出人が、ルルティスさんだなんて」

偶然にしては出来すぎている。
だが、考えても答えは出ない。

「とりあえず……行ってみましょう」

そう言って、扉の前に立つ。
手を伸ばし、静かに取っ手に触れた。

扉を開けた、その瞬間だった。

――パンッ、パンッ!

乾いた破裂音が空気を切り裂く。
反射的に身構えかけた視界の先で、色とりどりの紙片が舞い上がった。

……え?」

思わず言葉が漏れる。

視界が開けると、そこには見知った顔が並んでいた。
イオフィエル、セーレ、そして先ほどまで彼を捕まえていたスフィーまで――
皆が、どこか楽しげに、こちらを見ている。

「お誕生日、おめでとうございます」

最初にそう告げたのは、ルルティスだった。

穏やかに微笑みながら、
しかしどこか緊張を滲ませた声音で、彼女は続ける。

……シナデルフォスさん、ヨエルさん」

……おや……

思わず兄の方を見ると、ヨエルも同じように目を瞬かせていた。

「ええ。お二人とも、今日が“その日”だと伺いましたから」

言葉の意味が、すぐには飲み込めない。
祝われる理由も、祝われること自体も――
彼にとっては、あまりに縁遠いものだった。

紙片が床に落ち、
静かになった室内に、温かな視線だけが残る。

この場に集まった想いが、確かにそこにあった

――逃げ場のないほど、真っ直ぐな祝福が
双子を包み込む

シナデルフォスは、ふと今日一日を思い返す。

イオフィエルの遠回しな質問。
セーレの妙にそわそわした様子。
スフィーが離れなかった理由。
そして――ルルティスの、不自然な沈黙。

……なるほど」

小さく、しかし確かに納得の息を吐く。

「皆さんが忙しかった理由……
 私たちのため、だったのですね」
その事実が胸に静かに沈んでいく。

ルルティスを見ると彼女は、少し頬を染めながら照れていた

ルルティスを見ると、彼女は少し頬を染め、視線を泳がせていた。

……その……本当は、迷ったんです」

小さな声だった。
祝うことが正しいのか、
望まれていないことを押し付けてしまわないか――
準備を進めながら、何度も考えたのだろう。

「誕生日だなんて知らなかった私が祝うのもいいのかわからなくて……

一瞬、場の空気が静まる。

シナデルフォスは、ゆっくりと息を吸った。
そして、彼女の方へ一歩近づく。

「確かに伝えてはいなかったし伝えるような事か不明でした」

そう前置きしてから、言葉を選ぶように続ける。

「けれど……
 誰かが、こうして時間と手間をかけてくれた日、というのなら」

視線が重なる。

「今日を、嫌だとは思いません」

その瞬間、ルルティスの肩から、ふっと力が抜けた。

……ふふよかった……

ほとんど聞き取れないほどの声で、彼女はそう呟く。

「じゃあ、改めまして」

場の空気を破ったのはイオフィエルだった。
双子を差し置いてみんなは顔を合わせて彼らの方を向き、最後はみんなで

「「お誕生日おめでとう〜!」」

色とりどりの飾りと、温かな料理の香り。
不器用ながらも真っ直ぐな祝福が、そこにあった。

シナデルフォスは、ほんの僅かに笑う。

――この日を“製造日”ではなく、
誰かに想われた日として記憶に残しながら