フリンズさんと呑みに行けなかった話

ライトキーパー事務員さん1

「こんなところで何してるんですか、貴女は」
「見てわかるでしょ、ヤケ酒ですよ」
 
 仕事はすでに上がっているので文句は言われないはずだ。その辺で買ったワインを瓶のまま口につけて飲んでいたら、フリンズさんに見つかってしまった。まぁライトキーパー事務所裏の木箱の上という、場所が場所だけに誰に見つかってもおかしくはなかったのだが、もうどうなってもいいや……と飲み始めていた。
「今度は何があったんです?」
「なんでもないでーす。彼氏にフラれただけでーす」
「なんでもあるじゃないですか。というか、またですか」
「またとか言わないでくださーい」
 
 はぁ、とため息をつくフリンズさん。ちなみにこの光景はもう三回目ぐらいなので、『また』と言っても語弊はないかもしれない。
……ん?)
 そういえばフリンズさんは、なぜ毎回見つけてくるのだろうか。
 
「ほら、こんな寒いところでは風邪をひきます。一杯奢りますから、フラッグシップに移動しますよ」
「えぇ……
 
 多少動くのが億劫になりつつあるが、奢りとなれば行くしかない、とは思ったが。
……んん?)
 おかしいな、前にもこんなことあった気がする……と首を傾げた。先に飲んでいたワインのせいで頭の回転は落ちているとはいえ、妙に違和感がある。動かない頭を働かせようとしていたところ、フリンズさんに腕を引っ張られて、少し強引に立たされた、と思ったが。
――っと、気をつけてくださいね」
 立てたと思ったのだが、自分の両足が自身の体を支えきれなかったようで、フリンズさんの片腕に抱えられる形で寄りかかってしまった。ついでに取られてしまったワインの瓶を見て、彼は再度ため息を付いていた。
「もう中身がほぼ空じゃないですか。しかも度数が高い」
「バレてしまったか、実はそうなのです」
 へへっと笑って誤魔化そうとしたのだが、「これは没収します」と、残りのワインはフリンズさんに飲まれてしまった。あー私のワインがー。
 
「それで、いつまで私の腕に体重預けてるんです?」
「実は自分の足で立てないみたいでして、楽な体制を取らせてもらってます。これ、とても良いですね」
 しかも良い匂いがする。落ち着く。さすがに声には出しませんが。はぁぁ、と三回目のため息をつくフリンズさん。しかもさっきよりも長め。
「フラッグシップは諦めてくださいね。ほら、家までお送りしますよ」
「えー今がいいのにー」
「この自分さえ支え切れない状態で言われても、僕は何も許可できませんよ」
「せっかくの奢りの美味しいお酒が」
「諦めてください」
 
 きっぱりと断られる。残念。仕方ないのでフリンズさんを支えにして歩こう思ったところ、体が宙に浮いた。
「へっ……?」
 背中と足裏に手を差し入れられ、横抱きで持ち上げられてしまった。
「ちょっと……フリンズさん??」
 フフッと意地の悪い顔で笑うだけで、無言で私の家方向へ進み出すフリンズさん。いわゆる姫抱きでナシャタウン内を歩かれるのは、さすがに恥ずかしいのですが?!しかも、うわ!美人の顔が近すぎる!!
 
「あの、えっと……、フリンズさん??」
「ああそういえば、今はフリーになったってことですよね」
「え?何の話??あの、降ろしてくれない……かな?」
「では、今度は僕が立候補しても?」
……はい??」
 
「貴女の隣が空くのを待っていたんですよ」とか、「前回は悩んでいたら機会を失ってしまい残念でした」とか、「僕ならヤケ酒なんてさせないですからね」とか、いろんな話をされているが、一向に降ろしてくれる気配は無かった。
 これ、絶対明日の職場で噂になるやつだ。外堀から埋めていくタイプの人だったのか、と感心してしまった。でもまぁ、フリンズさんから良い匂いするなって思ったあたりから、私自身も気付いた。好きな人って好きな匂いがするって聞くからね。
 
 
『一度気づいてしまったら、もう逃げられない』