手先が器用なフリンズさんの話


 やってしまった、寝坊だ。
 
 急いで起きあがろうと思ったが、隣にいる恋人のことを思い出し、なるべく揺らさないようにベッドから降りた。そこからは全速力で準備に時間をかけていると、いつの間にかフリンズが起きてきていた。
 
「おはよう。起こしちゃったよね、ごめんね休みの日に」
「おはようございます。いえ、お気になさらず。それよりも急ぐのでは?」
「そうでした」
 
 最低限のメイクをするためにドレッサーの前に座ったところで、櫛と結い紐を手に持ったフリンズから声をかけられた。
「僕が触っても?」
「え?……では、お願いします。とても助かる」
 
 フリンズと同じ長さ程ある黒髪は、諦めてそのまま出かけようかと思っていたが、彼が何とかしてくれるらしい。髪を解かしてくれたあと、慣れた手つきでセットしてくれている。手先が器用で羨ましい。たまに触れる手の感覚で首元がくすぐったかったが、嫌ではない。むしろ好き。
 ちらりとドレッサーの鏡越しにフリンズの顔を見ると、妙に楽しそうである。
 
「できましたよ。では、気をつけて。いってらっしゃい」
「うん、ありがとね」
 
 もう一度鏡の中のフリンズへ目を向けたところ、彼と目があった。そして彼は私の髪を一房掬い取り、見せ付けるように口付ける。
 
「無事に僕の元へ帰ってきてくださいね」
 
 映影のワンシーンのような光景を目に焼き付けてしまい、顔が赤くなっていくことを自覚し固まってしまったけれど、「急いでいたのでは?」と言われて我にかえる。慌てて出発しようとするも、フリンズも何故か着いてきた。
 
「やはり途中までお供しましょう」
……そんな薄着のままで平気なの?」
「なんとかなるでしょう」
 
 ふふっと笑いながら上着だけ羽織ったフリンズは、私の手を取ってくれた。二人で部屋を出て、少し急足で向かうことにした。
 
 
 
『あなたの髪へ、僕の祈りを』