春日水隠という名は、僕の爺様がつけたんです。どうです、見るからにおめでたそうな名前でしょう! 春に、水。きれいな音です。爺様はこの家から、この代で刀遣いを出すことを夢見ていたようで。そうです。ふつうの家です。僕にとってはね。昔は刀遣いをよく出していたみたいですけど、今はもう、とんと。やれ血が薄れただの、分家から養子をだの、古い概念に縛られて、それでどうなったと思います。僕みたいな目を持つ子どもがたくさん産まれた。血が濃くなりすぎたんでしょうか。遺伝子のやまいだったのかもしれません。慌てた爺様は、自分の子ども――僕にとっての父――にあてがったのは、ふつうの女性でした。お金でもつんだのでしょうか。そんな夫婦の間に愛など芽生えるはずなく。けれどまあよくある話で。そして僕は刀遣いになった。祖父の敷いたレールに、きっちり乗りました。けれどもね、僕はタダで乗ったわけではありません。呪いをのこしました。祖父に。彼が憎いかって? ええそうですね憎いかもしれません。かわいそうな母さん、かわいそうな父さん。祖父さえいなければ僕は生まれなかった。僕が、だれの子であろうと関係ない。彼には。父の血を引く男であれば誰でもよかった。僕知っているんです。母さんは、僕を産んだ母さんではない。僕を産んだ母は、違う女性。遺伝子のやまい。そう、おそらく父側の親族でしょう。吐き気がする。ここで得をするのは祖父だけ。祖父の自己満足のためだけに僕は生まれ、育ち、刀遣いになった。そんな祖父も、もうなんにも分からない老人です。たった三十年余の満足のために、爺様は僕を刀遣いという作品に仕立て上げた。どうです、美しい器でしょう。美しい容でしょう。けれどもそれが一体誰の満足になるというのでしょう。
水を、隠す。
水。
水子。
水子を隠す。
僕の名前は、そんな誰かのための名前だった。死んでいった子ども達を供養するための。
許さない。許さない許さない。僕は死んだ者たちのための男なのか。そんなの許さない。僕は僕でありたい。
僕は、僕である証明を持たない。それがどれほど心許ないか、誰も分からない。爺様ですら分からないだろう。いや分かってたまるか。どうかそのままなにも分からず、死んでほしい。
これが僕が、爺様にあてた呪いです。めぐる、めぐる。円環は、めぐっていく。
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