お花屋さんに通うフリンズさんの話


「良い夜ですね」
 店先で作業していたところ、背後から声かけられた。
 
「フリンズさん!こんばんは、良い夜ですね」
 以前、一人で店番をしている時に大きめの植木鉢が動かせずに困っていたら、丁度通りかかったフリンズさんが手伝ってくれた。それ以降、彼がナシャタウンに来る時に寄ってくれて、閉店間際に売れ残りの花束を買ってくれるようになった。
 
「実はこれ、私が初めて作った花束なんです」
 この時間まで売れ残ってしまいましたが……と少し目線を落として呟く。
「そうでしたか、それは貴重ですね。とっても素敵な花束です。ぜひこれを」と、嬉しそうに手に取ってくれる。
 
 フリンズさんは何て良い人なんだ、と嬉しくなった。モラと共に花束を受け取り、花束は持ち帰り用に軽く包んだ。
 
「今度は開店時間に来て、この貴重な花束を買うことにします」
「次いつ作るかは決まってないですよ」
「おや、それは残念。では次の機会を楽しみにしていますね」
 お互いにクスクス笑ってしまい、自然と目線が合う。
 
 花束を渡す際に、フリンズさんの手に触れしまった。少しひんやりとした手だった。
「すみません!」と慌てて手を離し、驚いた拍子に半歩ほど後ろに下がってしまった。
「いえいえ、ですが……
 遠のいた半歩分ではなく一歩分踏み込んで、私から離れた手で軽く腕を掴み、引き寄せられた。そして私の耳元で小さく呟く。
 
「いまのはわざと……ですよ」
 
 目を丸くして驚いている私を見て、目を細めてふふっと小さく笑い、私の腕から手を離す。
 
「また寄らせていただきますね」
「あ、ありがとうございました!」
 胸元に手を当てて優雅に会釈をして去るフリンズさん。後ろ姿を見送りながら、顔が赤くなっていることを自覚した。
 閉店準備を始めないといけないのだが、そのまましばらく動けなくなってしまった。
 
 
 
『次もどうか、その手を僕に』