kr0mm333
2025-12-14 18:03:18
2133文字
Public バチ(腐)
 

滑り込み性夜

あざしばウェブオンリーのワンドロ作品で、クリスマスで書かせていただきました。
様子のおかしい薊柴の聖夜()の話。

 十二月二十五日、二十三時三十七分。
 自宅に帰る気力を失った薊は、柴と共に彼のマンションへと帰宅した。距離的には薊の部屋のほうが近いが、柴の妖術を持ってすれば距離も時間も関係はない。
 年末が近くなって世の中が浮き足立っているせいか、一般人だけでなく半グレやヤクザまでヤンチャをし始める始末。
 本来なら定時で上がれるはずだったのだが、帰宅しようとしたところで呼び止められた。
 そしてもう少し、もう少し……と懇願され、気づいたらこの時間になっていたわけである。
 しかも、ここ一週間はまともに睡眠も取れていなかったせいもあって、二人とも目の下には色濃い隈が刻まれていた。
 つかれた、それ以外の言葉が出てこない。
 電気もつけず、靴も上着も脱がず、もちろん空調も入っていない玄関に寝転んで虚空を見つめて約五分。最低限の気力を取り戻した柴が「くーりすますがことしもやあってくるー」と凄まじい棒読みで歌った。
 あまりに唐突だが、薊もツッコミを入れられれるだけの元気はない。
 今日は十二月二十五日。つまり、クリスマスである。
 日本においてはイベントという意味が強くはあるが、柴と薊の中ではチキンとケーキを食べながら酒を飲む日としてインプットされていた。
 男二人、十代の頃よりは食欲も落ち着いたが、それでも一般的な中年よりはよく食べる。
 なので、スーパーの割引品を買い占めることで総量を増やし、飲んで食べて管を巻こうとしていたのにヤクザのクリスマス乱闘のおかげで予定はすべてパァ。
 結局、買い物もできずに神奈備本部から体ひとつで帰宅し、ぐったりしていたのである。
 「ねぇ」と薊が呼びかけ、柴が「なーにー」と返す。二人とも口以外はぴくりとも動いていないので、ちょっとしたホラーのようにも見える。
「ケーキもチキンもないクリスマスって意味ある? クリスマスって、ケーキとチキンを食べる日なんでしょ? 柴の冷蔵庫、何かクリスマスらしいものって入ってる?」
「空気以外入ってないわ。こうなったらもう歌うしかないやろ……ええか、薊。俺らがクリスマスやと思ったらその瞬間はどこにおってもクリスマスなんやで。歌う以外にクリスマスらしいことって何かある? サンタさん捕まえてきたらええの?」
「誰でもいいから今すぐにクリスマスケーキとチキン届けてくれないかな……クリスマスが来い……
 はあ……と同時にダサいため息を吐いたが、その直後、薊が「わかった!」と叫んで腹筋の力だけで起き上がった。
 反動もなく、シームレスに起き上がる動作はまるで逆回しの映像のようだったと後に柴は語る。死んだ魚のような目をしていた薊は、何かに気づいたことで元気を取り戻したらしい。
 柴は「若いな……」と呟いて虚空を見つめる。柴と薊は一歳しか年齢が変わらないので、若いも何もないわけだが。
 そんな柴の呟きを一切聞いていない薊は、勢いよく振り向くと「脱げ。今すぐ」と言った。
「何で!?」
 先ほどの薊に負けない勢いで起き上がると、彼はにこりと笑う。
「聖夜はもう無理だけど、性夜はまだ間に合う!」
 「滑り込み性夜!」と薊が続けて声を上げると、「待って待って!」と柴はそれを遮った。
「滑り込み性夜ってナニ!? それで上手いコト言うたつもりなん!?」
「まだギリギリで二十五日だ。今から始めれば、クリスマスらしいことをしたってことになるだろ」
 確かに恋人と性なる一夜を過ごす……と、言うのもクリスマスの醍醐味であることに間違いはない。
 が、そもそもの話。柴と薊の関係はただの友人であって、性なる夜を過ごすような関係性はない。疲れすぎているのか、それに気づく気配はない。
「上手いわけあるかアホ! ちゅーか無理! 俺もう体力ないから!? 今からヤったら寒さと過労でテクノブレイクするわボケェ!」
「大丈夫だって。死なない死なない」
 自分たちがそんな関係にないことを完全に忘れ、スる、シないで争い始める二人。
 隊服の羽織を脱ぎ捨てた薊が、柴の羽織を素早く脱がす。ワイシャツに手をかけると、柴がその手を剥がそうと抵抗した。
「ほら、ばんざーい」
 そう言いながら薊が柴のシャツを引っ張ると、ボタンが弾け飛んだ。そして、紙を破るかのように布が引き裂かれていく。
「言うてることとやってること一致してなさすぎちゃいます!? バンザイ言いながらシャツ引き裂くって山賊かなんか!?」
 室内の冷えた空気に晒された肌が粟だってくるのがわかる。
 慌てて両腕で胸を隠すと、薊はフッと笑って柴の顎を掬い上げた。
「威勢がいいね。その口、塞いであげようか?」
「何やねんその少女漫画のイケメンみたいなセ……ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!?」
 柴の絹を裂くような雄叫びが響き渡る。
 上下左右の部屋から壁や床を叩く抗議があったが、二人には聞こえていない。
「も……あか、ん……
「ぼくも……むり……
 数時間後。
 その言葉を最後に、二人は床で寝落ちするのだった。
 
 余談だが、二人が実はただの友人であり、性夜を過ごすような関係ではないと気づいたのは翌日の昼頃、部屋の惨状を片付けている最中である。