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花月ゆき
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ゆる赤安ドロライ
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第28回お題「体格差」
両片想いの赤安。無自覚れいくんが少しずつ自覚中。前回投稿分・第27回お題(風邪or看病)で、あかいさんからマスク越しにキスをされたれいくん。夢か幻か現実か、高熱のなか混乱するれいくんと、看病を続けるあかいさんのお話です。
目が覚めると、窓の外からは夕陽が降り注いでいた。
降谷はゆっくりと身体を起こした。体感では、まだ熱は高いままのような気がする。
窓は閉められていて、部屋の隅では加湿器が稼働していた。自分が眠っている間、赤井が水を入れて電源を入れてくれたのだろう。
その赤井の姿が見当たらず、降谷は急に心細くなった。部屋の中にいる気配もない。何か用事があって外に出かけてしまったのだろうか。眠っている間に「鍵を借りるぞ」と声をかけられたような気がしなくもない。
喉に違和感を覚えて、コホコホと咳き込む。発熱に咳、いよいよ風邪が本格化してきたようだ。薬を飲んでいなければ、さらに悪化していたかもしれない。喉の渇きを覚えて、枕元に置いてあったペットボトルを手に取る。
ペットボトルのキャップを捻り、マスクを下ろしたところで、降谷はふと思い出した。
自分が眠りにつく前、マスク越しに柔らかな何かが触れたのを。
マスクとマスクが触れ合ったような感触が、かすかに記憶として残っている。降谷はぶわりと顔が熱くなるのを感じた。これは、風邪のせいではない。
「もしかして、赤井にキスされた
……
?」
降谷は必死に記憶を辿った。しかし、自分の記憶に自信を持つことはできなかった。
眠気に抗えず、目を閉じたすぐあとの出来事だ。熱も高かったので、正常な認識ができていたかどうかも定かではない。
夢を見ていたのかもしれないし、幻だったのかもしれない。
喉の渇きと気持ちを落ち着けるために、降谷はペットボトルを傾けて勢いよく水を飲んだ。半分ほど飲んだところで、ようやく喉の渇きが満たされる。
汗もかいていたので、服も着替えることにした。着替えを終えると、気分もだいぶすっきりする。再びマスクを引き上げて、降谷は布団の上に寝転んだ。
念のためスマホを確認するが、通知は何も届いていない。
いったい赤井はどこへ行ったのだろう。自分は本当に赤井にキスをされたのだろうか。
交互に浮かぶ疑問にぐるぐると頭を悩まされながら、降谷は再び眠りに落ちた。
次に降谷が目を覚ましたとき、窓の外は真っ暗だった。
しかし部屋の中は明るく、包丁で何かを切る音がキッチンから聞こえてきた。赤井の存在を感じて、口元が綻ぶ。
熱は少しは下がっただろうか。降谷は額に手を当てた。冷たい感触が額に広がる。部屋に戻った赤井が、新しい冷却シートを貼ってくれたのだろう。
「あかい?」
声を上げるが、風邪のせいでひどく掠れた声が出た。赤井には聞こえなかったかもしれないと思ったが、すぐに赤井は寝室へとやってきた。
「降谷君、起きたか。具合はどうだ?」
「
……
まずまず、です」
「そうか。そろそろ夜の分の薬を飲んだ方がいいが
……
食欲はあるかな?」
そう問われて、降谷は頷いた。熱や咳はあるが、胃腸には影響が出ておらず、空腹と呼べる感触があった。
「
……
お腹、空きました」
「あとは煮込むだけだから、もう少し待っていてくれ。ああ、水分補給はしっかりしたほうがいい」
そう言って、赤井は一度キッチンへ行き、ペットボトルを持って寝室へと戻って来た。ペットボトルのラベルには、経口補水液と書かれてある。この家にはなかったものだ。
「もしかして、買い物に行ってました?」
「ああ。夕食の材料と、他にも色々と買ってきたよ」
赤井はどこへ行っていたのか。ひとつ答え合わせができた。
「ありがとうございます。面倒をかけてすみません」
差し出されたペットボトルを降谷が受け取ったところで、赤井は言った。
「俺が好きでやっていることだ。君が気にすることはない」
好きでやっていること? 赤井の言葉に意識が向き、ペットボトルを滑り落としそうになる。あ、と思った瞬間、赤井の手が降谷の手ごとペットボトルを掴んだ。がっしりと力強い赤井の手は、自分の手よりも大きくて、そして温かい。
「す、すみません」
「いや
……
それより、大丈夫か?」
「はい。少しぼーっとしてしまっただけなので
……
」
赤井はペットボトルを手に取り、キャップを捻った。口の開いたペットボトルを差し出され、降谷は礼を言って受け取る。
こんな形で甲斐甲斐しく看病されるとは思っておらず、降谷はくすぐったい気持ちになった。
「キッチンにいるから、何かあったらすぐに呼んでくれ」
赤井が念を押すように言う。
まさかここまで心配させてしまうとは、思いもよらなかった。
「は、はい
……
」
経口補水液で水分を補給し、再び布団の上に寝転ぶ。少し経つと、何かを煮込む音がキッチンから聞こえてきた。赤井は何を作っているのだろう。
ここ最近すっかり忘れていた、日常生活が奏でる心地よい音。それが赤井によってもたらされていることを不思議に思いながら、降谷は優しい音に耳を傾けた。
しばらくすると、赤井が寝室に顔をみせた。
「降谷君、そこで食べるか?」
寝室には小さなちゃぶ台がひとつある。しかし、ふたりで囲むには少々小さい。キッチンにあるテーブルの方が広いので、そちらの方が食事をしやすいだろう。
「いえ、そっちで食べます」
降谷はキッチンへ向かおうと立ち上がった。だが、今日一日ずっと横になっていたせいか、ふらついてしまう。床に手をつこうと手を伸ばしかけたところで、急いで駆けてきた赤井に受けとめられた。気づけば、赤井の逞しい腕にがっしりとホールドされている。まるで抱き締められているかのようだ。
「大丈夫か」
「は、はい
……
」
赤井とは、身長に何十センチもの差があるわけではない。それなのに、自分の身体は赤井の腕にすっぽりとおさまってしまう。
同じ成人男性であるはずなのに、どうしてこうも差があるのだろうかと思ってしまう。だが、不思議と、男として悔しいという気持ちは微塵も湧かない。むしろ、すぐそばで感じる赤井は、こんな風なのかと新鮮な気持ちにさえなった。
赤井に支えられながら、降谷はキッチンにあるテーブルの席についた。コンロの上には土鍋があり、赤井が鍋料理を作っていてくれていたことがわかる。赤井は手慣れた様子でテーブルの上に食器を並べ、鍋敷きの上に土鍋を置いた。土鍋の蓋を開けると、ぶわりと湯気が立ち昇る。
鍋の中には、鶏肉、白菜、きのこ類、長葱、豆腐と、盛沢山の具材が入っていた。栄養も取れて胃腸にも優しい食事を、赤井は考えてくれたのだろう。
「君の口に合うといいが
……
」
「おいしそう
……
」
二人で両手を合わせて「いただきます」と声を重ねる。赤井がとんすいに取り分けてくれた具材を、降谷はゆっくり口に運んだ。
温かく優しい味がして、胸がじんとする。「すごく美味しいです」と感想を告げると、赤井は嬉しそうに笑った。
鍋の〆の雑炊まで、赤井は振る舞ってくれた。ふわふわした卵の上に、葱と海苔が散らしてある。
「赤井が〆の雑炊まで作れるなんて
……
」
「意外だろうが、沖矢でいるときに鍋料理は一通り学んだんだよ」
「そういえば、そんなこともありましたねぇ」
熱々の雑炊をふーふーしながら食べる。具材の味が染みていて、とても美味しい。
「ところで、熱はどうだ?」
赤井に問われて、降谷は自分が病人であることを思い出した。
額から冷却シートを剥がして、掌を当ててみる。昼間のような熱さはない。
「んー、だいぶ下がったような気はします」
「俺も触っていいだろうか」
一瞬どきりとするが、赤井も昼間に自分の額に触れているので、その差を確かめたいのだろうと降谷は思った。
「どうぞ
……
」
赤井が席を立って、こちらに近づいてくる。反射的に、降谷は目を閉じた。赤井の大きな掌が、降谷の額に触れてくる。
「ああ、だいぶ下がっているな。念のため体温計でも測ろう」
熱が下がっていたら、赤井は帰ってしまう
――
。
額から離れてゆく赤井の手を、降谷はそっと掴んだ。赤井が体温計を取りに行こうとしたのを、無意識のうちに引き留めてしまっていた。
赤井が驚いたような顔をしてこちらを見ている。引き留めた理由を正直に告げることはできず、降谷は場を取り繕わなければならなくなった。
「
……
あ、あなたの手には何度か触れたことがありますが、大きくて、あったかくて、気持ちいいですね」
赤井はなぜか少し困ったような表情をしたが、降谷の目から手へと視線をうつして、自分の話題に合わせるようにこう言った。
「君の手は、細く、しなやかで、美しいな」
自分の手の感想を聞くのは、初めてだ。
「
……
そ、そうなんですか?」
「ああ」
頷いて、赤井が自分の手を握る。胸が甘く締め付けられるような心地がして、降谷はうっとりと目を閉じた。
あともう少し。あともう少しだけ。赤井と一緒にいられる時間がほしい。そう願う自分の気持ちに、降谷は向き合わざるを得なかった。
熱にうなされていたら、きっとそのまま本音を告げていたかもしれない。
しかし、熱も引きつつある今のこの状況では、溢れる気持ちをぐっと堪える冷静さがほんの少し残っていた。
もし、そばにいてほしいと本音を告げたら、赤井は自分のことをどう思うのだろうか。
わずかに残る自分の冷静な部分で、降谷は思案した。
ふと、赤井はマスク越しに自分にキスをしたのか
――
という、もうひとつの疑問が浮かび上がってくる。
もし赤井が本当に自分にキスしていたのだとしたら、赤井は自分に対して“そういう感情”を抱いているということになる。
自分に恋情を抱く赤井を、降谷は想像した。そして、想像してしまったこと自体に戸惑いながら、降谷は自分の胸が高鳴ってゆくのを意識した。
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