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来羅
2025-12-13 23:03:47
2280文字
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トワウォ
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背中(風信)
ワンドロライ第22回。
「祖哥哥!」
どん、と背中に衝撃を感じて振りかえろうとすれば、小さな手が龍捲風の顔を掴んで「振りむいちゃダメ!」と唇を尖らせた。
「なにかいてるか、あててね」
最近の信一お気に入りの遊びだ。
理容室のお知らせで余った藁半紙。砂を掃いたアスファルト。壁はさすがに駄目だと注意してから描かなくなったが、信一のキャンバスは至る所にある。
そのひとつ。
最近増えた龍捲風の背を新たなキャンバスに見定めた信一は、きゃらきゃらと笑いながら指先を背に当てた。
最初は大きな、丸。
ゆっくりと服の上を滑る指はくすぐったい。
次はその中に四角が、ふたつ。
丸と四角。その形で構成されたものは世の中にはたくさんあって、絞り切れない。しかしながら、そこは信一の世界だ。
丸と四角。
「
…………
ロボットか?」
「はずれ~~! 哥哥、ちゃんとみて! こうして、こう、だよ」
大きな丸。その中の小さな四角。さらに、その真ん中にもより小さな四角が描かれた。
「わからんな」
「えー、ちゃんとかんがえてよ」
「ヒントをくれ」
「それじゃあねぇ、ヒントはー」
間延びした声が背後で左右に揺れる。
両手を龍捲風の肩に置いて飛び跳ねる信一は、ちらりと上を見上げた。
「もうすぐ、おひるです!」
ぐうっと鳴った腹の虫に、また唇を尖らせ、信一がべたりと抱きつく。
「哥哥、おなかすいたー」
そこまで言われれば、察しの悪い龍捲風でももうわかる。
大きな丸。その中の四角。さらにその中の小さな四角。
くすりと笑った龍捲風に、信一が「わかった?」と顔を覗き込んでくる。その期待にキラキラした大きな瞳に、甘い自覚はもちろん、あった。
「うちに蜂蜜はあったかな?」
「! あった!」
甘い物好きな信一のために、いつからか常備されるようになったピーナッツバターと蜂蜜。甘い甘いそれをふんだんにかけて食べるのは、信一のたまの贅沢だ。
本当は毎日でも食べたいのだとその顔は語っているが、一度でもそれを口にしたことはない。さすがに毎日こんなに甘いものを食べていては育ちざかりの子供の体には悪い、と龍捲風が考えているのを信一は知っている。知っているから信一が言わないことを、龍捲風も知っている。だからその健気さがいじらしく、こうして時々ねだるときには、どれだけでも甘やかしたくなるのはしかたのないことだ。
「それじゃあ、信仔のリクエストに応えるとするか」
「やったー!」
西多士、西多士、と節をつけて歌う信一が龍捲風に抱き着いたままぎゅっと細い腕を交差させた。その愛しい可愛い重しを背負って立ち上がる。うわっと声が上がるのを笑って後ろ手に支え、信一をおぶった状態でキッチンへと赴けば、パンはあっち、卵は冷蔵庫、と背中から指示が飛んだ。両手両足でしがみつく子供は、下りる気などさらさらないらしい。
「落ちるなよ」
それだけ声をかけて西多士の準備に取り掛かれば、信一は「はぁい」とご機嫌な返事をしてまた歌い始めた。
メロディなどない、信一オリジナルの歌に合わせて、卵を割り、菜箸で掻き混ぜる。
楽しげなその声を背中で聞くだけで、いつだってこの心は温かい。
ふふ、と喉の奥で笑う声が背後で聞こえた。
どうしたと振り向こうとした龍捲風の汗ばんだ背を、先んじて指先が撫で上げる。ひくりと背が強張ったのはしかたがない。その背に爪を立てられしがみ付かれたのは、つい先刻のことだ。
「信一」
悪戯な指先がくるくると背を撫でる。
くすぐったさに身を捩れば、笑い声が上がった。
「大佬、意外と背中弱い?」
「誰でもそうだろう」
くすくすと笑う唇が、そっと押し当てられてぺろりと舌先が舐める。その場所が、今自分がつけたばかりの爪痕の上だと気づけば、咎める言葉は出なかった。
「痛い?」
「いや」
ごめんね、と言うわりには満足そうな声は、触れる唇から龍捲風の肌を震わせた。そうしてまた信一の指先がは痕をなぞり、肩甲骨の間を滑る。
「だーいろ」
節をつけたような楽しげな声。
指先は同じところを何度も何度もくるくるなぞる。
「大きくなっても変わらんな」
呆れたように笑えば、不服そうな唇に肩口を齧られてまた笑った。
「大きくなったから、できるんですぅー」
間延びした声はあの頃より低くなって、けれども甘え方はあの頃のままだ。
「なんだ、また西多士か?」
「はずれー!」
背中の絵は大抵の場合、そのとき信一が食べたいものだった。
西多士、蛋撻、ミルクプリンは最後まで何を描かれているのかわからなかったが、それも遠い日のことだ。
「ゆっくり書くから、当てて」
払った指先が真っ直ぐ横に引かれる。何度も同じところで動く指先が跳ねる。点は三つ。それから、もう一字。
最後に音を立てて口付けた信一が「わかった?」と弾んだ声で問うのを、体を反転させてその体を抱き寄せた。
そんなに可愛いことをして、どうしようというのか。
簡単に火をつけてくれる愛し子には、降参するしかない。
その背に答えを返してやろうかと手を滑らせて、しかし龍捲風はただ背を撫で下ろすだけで腰を抱いた。
児戯に付き合ってやる余裕もないくらいに、この愛し子に参っている。それも悪くない。
「俺もだ」
だからそれだけを返して、言葉は深い口付けの中に呑み込ませた。
当たり、と瞳を蕩けさせる信一の体はまだ柔い。
愛している、のその言葉。
交わす吐息に幾度となく想いを滲ませた。
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