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水樹
2025-12-14 00:00:00
10970文字
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憧れに、手をのばして
DLC後編、藍の円盤配信2周年おめでと〜〜〜〜!!
スグアオ(未満)です
アオイと出会ったときのことは、とてもよく覚えている。
知らない土地をたった一人で駆けてきて、ねーちゃんがふっかけた理不尽なバトルに勝利した、太陽みたいな女の子。
アオイはおれを、明るく照らしてくれた。
それと同時に、濃く暗い影を、落としていった。
大好きだった。ずっとずっと、憧れていた。会うことは一度たりともなかったけれど、友だちに、なれたらいいなと思っていた。これからもずっと、ここにいるんだと思っていたのに。
なんで。
どうして。
アオイを選ぶの。
ねーちゃんも。じーちゃんも。鬼さまも。
みんなみんな、アオイを選ぶ。好きになる。
なんで。
なんで!
どうして、アオイばっかり!
ずるい! ずるいずるいずるい!!
「
――
っ!
…………
夢
……
」
じっとりと嫌な汗が、背中を伝って気持ち悪い。気だるさを訴える体を無理やり動かし、シャワーを浴びる。鏡に映る〝おれ〟は、重い前髪の奥からうかがうように、睨むように、〝俺〟を見つめていた。
今日はいよいよチャンピオン戦。カキツバタに勝てば、俺はこの学園で最強の称号を得られる。〝特別〟に、〝主人公〟に、一歩近づくことができる。そう考えるとどろりしたと歓喜があふれて、歪に口角が上がった。
ポーラの気温で冷まされた雨が降りそそぐ。ニョロトノのとくせいでもたらされたものは既に止んでいて、この雨は、カキツバタのキングドラが呼んだもの。そのキングドラも、もうフィールドにはいない。残るはお互い、一体のみ。あと一撃で、決着がつく。
「ブリジュラス、力を溜めろ」
「撃たれる前に落とすぞ、カミッチュ」
「りゅうせいぐん!」
「テラバースト!」
放たれた攻撃がぶつかりあい、強い風をおこす。その風圧は凄まじく、目を開けていられない。ごうごうと鳴り響く音の中に、テラスタルジュエルが砕けるものが混ざった。つまり、どちらかが倒れたということ。
舞いあがった煙の向こう。
伏していたのは。
「
――
ぶ、ブリジュラス、戦闘不能! 勝者、スグリ!」
「
…………
おめでとさん、スグリ。おまえが新チャンピオンだぜぃ」
……
まだだ。まだ足りない。アオイの強さは、こんなものじゃない。もっと強く、ならないと。もっともっと、強く、強く。
「んじゃ部長業のほうもよろしく。わかんねえことあったらじゃんじゃん聞いてくれよ? ま、タロのほうが詳しいけどな」
「
……
そう」
チャンピオン兼部長というのはなかなかに忙しく、けれど与えられている権限はかなり便利だった。
部の方針を変え、部員全員にノルマを考え与えた。一人で鍛えたって、強くなれたかどうかはわからない。部全体が強くならなければ意味がない。そのためのノルマだ。
それなのに。
「
……
こんなこともできないの?」
「ご、ごめんなさい
……
。勉強で忙しくて」
勉強は大事だ。知識を増やせばそれだけ戦略も増える。けど、それを理由にこなせないのはおかしな話だ。だってそうだろ? 部員全員に課したノルマ、それは俺も例外ではない。けど俺はそれをクリアしている。もちろん勉強だって怠ってなんていない。
「あ、の、スグリ、くん」
「
……
何?」
「ノルマ
……
少し緩めてくれない、かな
……
」
「どうして?」
「ど、どうしてって。厳しすぎるから、なんだけど
……
」
「
……
そう。それじゃ、部活辞めたら?」
「
…………
えっ」
何? 何か文句でもあるの? そう視線で訴えるも、相手は青い顔をしているだけで返事をしない。
……
時間の無駄だったな。
「ちょいと待ちな、スグリ。そいつはちっとばかし横暴ってやつじゃねえの?」
「カキツバタ、さん」
「
……
ついてこれないやつは
……
弱いやつは、俺の部活にはいらないから。文句があるなら、俺に勝ってからにしてよ」
「
……
」
これを言えば、大抵のやつは黙る。ときどき悪態をつくやつもいるけれど。
「
……
スグリ。ネリネから一つ進言を」
「何?」
「あなたのやり方では、反感を招きます。そしていずれ、孤立する可能性があります。バトルは、一人ではできません」
「
……
」
「強くなること、なろうとすることは、悪いことではありません。ですが、やり方を今一度見直し、変えるべきかと」
「
…………
そんなの、わかってる。でも、方針を変えるつもりはない」
「
……
スグリ」
なに? 俺のやり方は、間違ってるっていうの? 悪いことだって言いたいの?
「
……
じゃあ俺、忙しいから」
足りない。足りない。足りない。
時間も、強さも、何もかも。
〝特別〟な、〝主人公〟には、まだ届かない。足りない。
俺は間違ってない。間違ってなんかない。それを証明するためには、もっともっと、強くならないと。
くらりと視界が揺れる。
……
今日は、部屋で戦略をまとめたほうがよさそうだ。
「ミッチュ!」
「
……
カミッチュ? 急に出てきて、どうかしたの?」
「ミ! ミチュ!」
「
……
? カバン
……
?」
なんとなく、手持ちから外せずにいたカミッチュ。どうぐをいろいろ持たせていたときに、しんかのきせきの効果が発揮されることがわかった。つまり、カミッチュはまだ進化する。だが鍛えあげてもどんなわざを覚えさせても、進化のきざしは全くと言っていいほどなかった。
……
そのおかげで、ブリジュラスのりゅうせいぐんを耐え抜くことができたわけだが。
そんなカミッチュが勝手にボールから出てきて、俺のカバンからなにかを必死に取り出そうとしている。無理やり引っ張るものだから、お菓子やどうぐが床に散らばっていく。怒る気力もわかず、ただただ見守っていた。
「! チュ!」
「
……
それ、ドラゴンエール?」
「チュー!」
「覚えたい、の?」
そう問うと、こくこくと頷いた。勢いがいいものだから、触角が当たってちょっと痛い。
……
ドラゴンエール。味方の急所率を上げるわざ。俺の手持ちには今カイリューがいるから、彼に使えばその効果はさらに上がる。相手がドラゴンタイプでなくても、急所に当たる確率が上がれば大ダメージを期待できるわけだから、覚えさせて別に損はない、か。
「わかった」
わざマシンをかざして、ドラゴンエールを覚えさせる。目を閉じて頭の中で戦略を練っていると、まぶたの向こうが、なんだか妙に明るくなっていた。
「
……
えっ」
見下ろしていたはずのカミッチュの体が光り輝いて、ぐんぐんと大きくなっていく。一際強くなった光に目がくらむ。な、何
……
? 一体何が起こったんだ
……
? いや、俺は知っている。あの光は、進化の証。つまり今、カミッチュが、進化した
……
?
「ギャウ!」
「
……
しん、か、してる
……
」
「ギャワウ!」
カミッチュよりも、ずっと大きくなった体。部屋に漂う甘い香り。何も言えずに、見下ろしてくる瞳を見つめていると、その数が増えた。
「ぅわっ!?」
「グルル
……
」
「えと、進化、おめでとう
……
?」
「ギャウ!」
じゃれつかれるのをどうにかこうにかいなしながら、借りている端末で図鑑を開く。カミツオロチ。りんごオロチポケモン。蜜壺の中で、七匹のオロチュが集まっているらしい。
「ギャウウ」
「わかった。わかったから。
……
じゃ、改めてよろしくな、カミツオロチ」
強くなってくれたことは、素直に嬉しい。
嬉しいはず、なのに。
りんごあめを彷彿とさせる姿でなくなったことが、なぜか少しだけ、惜しいと思ってしまった。
「スグリ、ちょっといい?」
「なに?」
「カキツバタ先輩が、食堂に来てほしいって」
「
……
なんで?」
「わかんないけど、タロ先輩とネリネ先輩も呼ばれてるみたい」
「
…………
そう」
食堂に向かうと、にんまり笑うカキツバタと目があった。ここ数日でよくするようになった、何かを企んでいるような目と。
そして。
「スグリ、久しぶり」
「えっ
……
アオイ!? な、なんで
……
!?」
学園の制服に身を包んだ、会いたいけど会いたくなかった、憧れがいた。
カキツバタの企みに乗るのは面白くなかったけど、アオイと戦えるのなら悪くない。
……
カキツバタの企みに乗るのは、面白くないけど。
リーグ部のやつや他の生徒とのバトル、四天王とのバトル、どれも一つだって見逃せやしなかった。見逃すわけにはいかなかった。
アオイは誰とでも楽しそうにバトルしていて。
窮地に立たされたって、不敵な笑みを浮かべそれを乗り越えていく。
その表情を、一瞬たりとも見逃したくなかった。
それは、コートをはさんで対峙している今も。
アオイ。
アオイ。
俺、強くなったんだ。この学園で、いちばん。
誰にも負けないくらい、強く、強く。
吐くほど勉強して。
寝る間も惜しんでポケモン強くして。
どれもこれも全部、全部。
アオイ。
きみに勝つために。
アオイは変わらず強かった。変わってなくてよかった。きみは、そうでなくては。
食らいつく。食らいつく。キタカミのときよりも、もっと、もっと。
なのに、どうして。
ニョロトノが。カイリューが。ポリゴンZが。オーロンゲが。ガオガエンが、倒されていく。
「いい加減倒れてよ! ありったけ全部、ぶつけてるのに!!」
それでもアオイの手持ちを、残り二体まで追い詰めた。うち一体は、初めてのパートナーだと言っていたポケモン。そしてもう一体を繰り出すために、アオイが取り出したボールは、どこか見覚えのあるものだった。
「いっておいで!」
「がおー!」
「!」
全身の血が、頭に集まったように熱い。
なんで。なんで! なんでなんで!! どうして!!!!
「よくも
……
よくも、今! ここで!! 鬼さまさ!! 出せたよな!?」
〝おれ〟がどれだけ憧れてたか、好きだったか、きみは知ってるくせに!!
衝動のままに指示したきまぐレーザーは本気を出し、アオイのパートナーを倒してくれた。フィールドに残されたのは、カミツオロチとオーガポンのみ。カミツオロチの体力は残り少ない。
フィールドの向こう。
アオイが、テラスタルオーブを掲げる。
輝く碧の面は、嫌でもあのバトルを思い出す。
「っ、カミツオロチ! きまぐレーザー!!」
「オーガポン! ツタこんぼう!!」
選択肢にはテラバーストもあった。だけど、オーガポンを倒すにはおそらく足りないと思った。
俺の願いが伝わったのか、カミツオロチは本気のきまぐレーザーを放ってくれた。
勝てると、思った。
「がおう!!」
レーザーをいなしながら突っ込んでくるオーガポンの姿を、見るまでは。
「ギュ、ア
……
」
「カミ、ツ、オロチ
……
?」
ジュエルが、砕ける。長い首が、だらりと落ちていく。
「
…………
えっ、え?」
目の前が。
真っ暗になった。
嘘だ。うそだ嘘だウソだうそだ嘘だ。信じないしんじないシンジナイしんじない信じない。
だって。
だってだって。
だって!!
吐くほど勉強して!
寝る間も惜しんでポケモン強くして!
頑張ったのに!
がんばったのに!
こんなに、こんなに努力したっていうのに!!
「残念だったねぃ、元、チャンピオン」
カキツバタの声が、その言葉が、嫌というほど、頭に響いた。
アオイとなにか話しているようだが、聞き取れない。
俺に向かってなにかを言っているようだが、なにもわからない。
「
……
まだだ」
「ん?」
「まだ、負けてない。今度
……
今度こそ、俺が、勝って
……
」
「スグリ
……
」
「おいおいそいつぁちょっとよくねえぜ?」
詰め寄りたいのに、足が動かない。目を合わせたいのに、顔が、頭が上がらない。
体が、いうことをきかない。
頭の中で鳴り響いていたカキツバタの声は、重苦しいチャイムの音色で、やっとかき消された。
重たい足を引きずるように動かして、アオイ達の後ろを歩く。呼び出された教室で聞いた話は、今の俺にとってなにがなんでもすがりつきたいものだった。
ゼロの秘宝。伝説のポケモン。特別なポケモン。
……
テラパゴス。
「では諸君、準備ができ次第エントランスに集合してくれ! なるべく早く頼むよ」
「はいはい
……
」
「わかりました」
「
……
」
道中、先生は終始興奮していた。それをねーちゃんが呆れたように止めるけれど、楽しそうな声は止むことはなかった。
それとは対照的に。
「
……
」
「
……
」
俺とアオイは、お互いずっと黙ったままで。話すことも特になく、俺はずっと窓の外を眺めていた。
「おお
……
! ここが、エリアゼロ!」
「わやじゃ
……
」
使わないようにしていた訛りが、思わずこぼれる。
夜にさしかかる頃に入ったというのに、一歩中に踏み入ればそこは昼のように明るかった。上空には分厚い雲のようなものがあるにもかかわらず、だ。
「それじゃあ、ゼロラボに向かいましょうか」
「ああ!」
「ちょっと先生! ポケモン持ってないんだから一人で先走らないでよ?」
「わかっているさ!」
「いや絶対わかってないでしょ
……
」
「
……
」
アオイの案内で、第一観測ユニットから第四観測ユニットまで移動する。中がひどく荒れていたが、聞く気にはなれなかった。
「わ、なにここ
……
。てらす池みたい」
ユニットの外に出ると、さっきとは打って変わって暗く、だけどあちこちにある結晶のおかげで歩く分には困らない。地面もずいぶん様変わりしていて、てらす池の結晶の上を歩いたら、きっとこんな感じなのかなとどうでもいいことを考えてしまった。
「ここがゼロラボだね? だが入口はロックがかかっているようだ」
「前に来たときは、中から開けてもらったんですけど」
「なるほど。協力者がいたんだね」
「どうしたら
……
わっ!?」
『あおのディスクを検知。挿入してください』
「
……
あおの、ディスク?」
「もしかして、これ、かな?」
アオイがオモダカさんから預かったというディスクをよく分からない機械に読み込ませると、再び電子音声が流れ、ラボの扉が開いた。
「おお! 開いたね!」
「あっ、ちょっと先生! 一人で先に行かないでってば!」
「
……
行こっか」
「
……
ん」
あちこち物色ている先生を止めて、どこかに頭をぶつけたらしいねーちゃんに「ちょっと元気出た?」なんて言われながら、ラボの奥にあったエレベーターに乗りこむ。
どれだけの距離を降りてきたのか。扉の向こう側は、ラボがあったエリアよりも狭く暗く、まさに洞窟という表現がぴったりの場所だった。
「こっ
……
これは! 博士の研究資料ではないか!? 宝の山とはまさにこのこと!」
「先生」
「
……
はっ!? すまない。目的はゼロの秘宝だったな。しかし
……
くぅっ」
ねーちゃんが先生の背中を押して、無理やり前に進めさせる。その背中をアオイが追って、その後ろを歩いた。
……
以前の〝おれ〟のように。
「ここもふさがれてるわね
……
。アオイ、頼める?」
「まかせて」
「アギャス!」
水辺の向こうに、アオイが消えていく。移動手段がない俺たちは、ふらふらとあちこちに行きそうになって危なっかしいブライア先生を野生のポケモンから守りながら、道をふさぐ謎の結晶が消えるのを待つことしかできない。それがひどく、もどかしい。
「消えたようだね」
「じゃあほら、次はスグの番。アオイ呼んであげな」
「え。でも、俺なんかからじゃ、嬉しくないでしょ」
「いいから!」
「
……
」
「さっさと呼ぶ! アオイにはこっちの状況わかんないんだから!」
「うう
……
。お、おーい
……
! 先、進めるよ
……
!」
戻ってきたアオイは、なんだかにこにこしていた。なんなら「ありがとう」なんて言う始末だ。くそ、わやじゃ。調子が狂う。
「わ、何これ、オーブが
……
」
「
……
俺のも」
「あたしのも。何なのこれ?」
「
……
やはりそうだ。どんどんエネルギーが強く濃くなっている! 近いようだね!」
「
……
! ゼロの、秘宝
……
!」
「スグ! 先生! 待ちなさいよ!」
駆けた先には広い空間があって、そのずっとずっと奥に、周りの結晶とは違う、宝石のような何かがあった。
「もしかして、これが
……
?」
「ああ! その可能性は高い!」
宝石に手をかける。引っこ抜こうと力をこめるが、びくともしない。それでも。
……
それでも。
「これが
……
これがあれば今度こそ、アオイに勝てる
……
!」
「スグ、あんたまだそんな
……
」
「ねーちゃんは黙ってて!」
引く手は緩めないまま、口から言葉がこぼれてく。我慢してたものぜんぶ吐き出すように、次から次へと、止まることなく。
「俺は
……
アオイが羨ましい
……
! ポケモン強くて! どこへでも行けて! 誰とでも仲良くできて!! 俺がずっと好きだったオーガポンにも認められて
……
! ねーちゃんだって!! 最初イジワルしてたくせに! すぐ好きだし!」
「スグ
……
」
「俺には
……
何も、ないよ」
「
……
スグリ」
「血が滲む努力しても無駄だった!! かなわなかった!! 俺には、もう、もうこれしか
……
!!」
「やはりそうだ! それこそが秘宝に違いない! さあスグリくん、早く引っこ抜くんだ!」
次の瞬間、今まで微動だにしなかったのがうそみたいに、宝石がすっぽぬけた。転がったそれを手に取ると、眩い光を放ちながら、その姿を変える。
そしてまるで、刷り込みのように。そうするのが当然みたいに、アオイの方へと。
記憶の中の、オーガポンと、重なる。
待ってそれは。
……
それはだめ!
「こっちだ!」
チャンピオン祝いにともらったまま、使い損ねていたマスターボールを投げると、いともたやすくボールへ吸い込まれていった。
……
俺の方を、見ないまま。
「マスターボールを所持しているとは用意がいいね!
……
さて、帰ってからでも研究はできるが
……
今ここで、その力を見せてもらいたい!」
「何言ってるのよ先生!」
「
……
だってさアオイ。だから、俺と勝負して」
「ちょっとスグ!」
「
……
」
「俺から、逃げないでね」
「
……
わかった」
ゼロの秘宝さえあれば。テラパゴスがいれば、俺は強くなれる。
特別に、なれる。
そう思ったのに。
なのに。
再び、目の前が真っ暗になった。
なんで。
……
どうして。
「どうして、どうして勝てないの? ゼロの秘宝さえあれば、強くなれるんじゃ、ないの?」
「スグ
……
」
「やはりおかしい! エネルギーの出力が足りなすぎる
…………
。そうか! テラパゴスはテラスタルエネルギーそのもの! スグリくん! 今すぐテラパゴスをテラスタルさせてくれたまえ!」
「ブライア先生!?」
「ちょっと! 何言って
……
!」
「わかった」
オーブを構える。普段よりも力が強いのか少しよろめいてしまったが、なんとか踏ん張って、オーブを投げた。
「おお
……
! 素晴らしい
……
!! これこそが! ゼロの秘宝!!」
「これが
……
」
テラスタルしたテラパゴスは、先生が見せてくれた本の姿そのもので。
あれ? でも、なんだか苦しそう
……
?
「パアアァァァァゴォォォォ!!!!」
「
……
えっ?」
「スグ!」
突然、俺に向かって放たれた攻撃。なにがなんだかわからなくて、その場から動けなくて、体を縮こませることしかできなかった。
だけど、いつまで経っても、衝撃も痛みもこない。おそるおそる目を開くと、さっきまでアオイが乗りこなしていた、でも少しだけ姿の違う龍がそこにいた。
……
もしかして、アオイが?
「スグなんかやばいよ! 戻したほうがいいって!」
「わかってる! 戻れテラパゴス!
……
えっ?」
ボールに、戻らない。それどころか、ボールが、壊れ
……
えっ? え?
「も、戻らな
……
どうしよう、どうしたら
……
」
「まさか、暴走しているのか!? みんなすまない! なんとかしてくれ!」
「ああもう! やるっきゃないわね! いくわよアオイ!!」
「うん!」
「こ、こんなはずじゃ
……
。違う
……
。俺のせいで
……
こんなことに
……
?」
目の前で、アオイとねーちゃんが戦っている。ねーちゃんの手持ちは、ブライア先生を守るために戦ってくれていて、残るはヤバソチャだけ。そのヤバソチャも、テラパゴスが張ったテラスタルシールドを破った直後、倒されてしまった。
「あのバリア、こちらのテラスタルエネルギーを奪って形成しているのか
……
! だがあんなこと、そう何度もできるはずないと思うが
……
」
「スグ! あんたも戦いなさい!」
「む、無理だ
……
! 俺なんて
……
で、できっこない
……
!」
「何弱気なこと言ってんの!」
「で、でも
……
。ダメだ
……
お、俺は
……
おれなんか
……
」
「スグリ!」
アオイが、振り向いた。
「一緒に!」
おれに手を、差しのべている。
その目は。
その姿は。
初めて会ったときと同じくらいきらきらしてて、まぶしくて。
おれの憧れ、そのものだった。
けどどこか、不安そうにも見えて。
そっか。そうだったんだ。
「お、おれも
……
! 俺も! 戦う!!」
「うん!」
「あたしが許可するわ! やっちゃえ、あんたたち!」
テラパゴスのシールドを破る。アオイがオーガポンをテラスタルさせ、碧の面が強く輝く。けれど、テラパゴスがエネルギーを吸収する素振りは見られない。きっと限界がきてるんだ。
……
だったら!
「カミツオロチ! オーガポンにドラゴンエール!」
「スグリ?」
「大丈夫! きっといける!」
「
……
わかった! オーガポン! ツタこんぼう!!」
「がおーっ!!」
高く飛んだオーガポン。彼女が振り上げたこんぼうはまっすぐ、真っ直ぐ、勢いよく、テラパゴスへと落とされる。
「パ
……
ゴ
……
」
テラパゴスを包んでいた光が小さくなっていって、その姿は最初に見たものと同じになる。これって、もしかして
……
。
「今なら、ボールに入るかも
……
!」
「スグリ!」
「ううん、俺じゃない。アオイが捕まえて! アオイにならまかせられる!
……
けっぱれ!」
「
…………
うん!」
「みんな、すまなかったね
……
」
「それは本当にそう! 先生テラスタルバカなんだから、もっと大人として自覚しなさい!」
「返す言葉もないよ
……
」
「あの、アオイ」
「うん?」
「俺も
……
よくなかった。ずっと
……
ずっとアオイに憧れてて
……
。ずっとずっと、アオイみたいに、主人公みたいになりたくて
……
」
「スグリ
……
」
「
……
あせってたんだ。
…………
でも、やっぱり
……
俺には
……
無理だぁ」
ずっと、きみのようになりたかった。
ずっと、きみに憧れていた。
だから、強くなりたかった。
だから、特別になりたかった。特別が欲しかった。
でも。
その輝きは、きみのもので。
その煌めきは、きみだけのもので。
「やっと
……
やっと、あきらめられる」
きみのように、なることを。
「
……
そんなこと、ない」
「アオイ?」
「さっきのスグリ、かっこよかった!」
「そんな
……
こと
……
。俺、俺
……
」
「うわああああああん!!」
「わ、わわっ、スグリ?」
ごめん。ごめんな。かっこ悪いな、俺。
でも、なんか、止まんね。止められね。
「何よ、やっと、素直になれたじゃない
……
。う、うう
……
。うわああああああん!!」
わやじゃ。どうして、ねーちゃんまで泣くの。
「さぞかし怖かっただろうに
……
。それでもみな、輝いていたね!」
違う。怖かったから泣いてるんじゃない。でも、否定する気力は全くわいてこなかった。
「わあああん! わあん
……
!!」
二人分の泣き声が響き渡る。
アオイの手が、俺の手を包んでくれる。
小さくて、あったかくて、ほんの少しだけ、ふるえていた。
外に出ると、どうやら夜が明ける時間帯だったらしい。朝日が眩しくて、目にしみる。
「では行こうか。帰りの便の時間は
……
」
「テラスタル関係ないところでは、ちゃんと先生してくれるのよねー。ほんっとテラスタルバカなんだから」
ねーちゃん、すっかりいつもの調子に戻ってる。さっきまで俺と同じくらい大泣きしてたのが、なんだか嘘みたいだ。
その背中を追いかけようと歩を進めると、隣の足音が止んでいた。
「
……
アオイ?」
振り向いた先。朝日に照らされたアオイは、なんだかどこか、泣きそうな顔をしていた。
「アオイ? どうかしたの?」
「
……
なんでもないよ。ただ
……
」
「ただ?」
「
……
きれいだなって。そう、思っただけ」
「
……
そうだな。
……
すごく、きれいだ」
「スグー? アオイー? なにそんなとこで突っ立ってんのよー?」
「ごめんゼイユ! 今行くー!」
「
……
」
帰りの便では、泣き疲れたのかどっと眠気が襲ってきて、起こされるまでずっと眠っていた。
アオイと肩を並べて。ぴったりと、寄り添って。
エントランスへ向かう道が、やけに長く見える。
あのな、アオイ。俺
……
きみに言わなきゃいけないことがあるんだ。
「
……
アオイ!」
前を行くきみが振り返る。潮風に揺られて、三つ編みが少し揺れている。
エリアゼロを出てから、ずっと考えてたこと。うまく言葉にできるか、自信はないけれど。
それでも、他でもないきみに、伝えたいんだ。
「
……
俺、リーグ部のみんなとか、迷惑かけた人にちゃんと
……
ちゃんと、謝りたい。アオイにも
…………
ごめん!! だから、ええっと
……
また
……
その
……
やり直したくて
……
」
声が、尻すぼみになっていく。
けっぱれ。けっぱれ、俺。
勇気を、出すんだ。
「ゼロから、また俺と
……
友達に
……
なってくれる?」
思わずつぶってしまったまぶたを、おそるおそる開く。
水平線の向こうから陽がのぼって、空と海と、そして俺たちを照らしてくれる。
その光の中、アオイはほほえんで、うなずいてくれた。
その笑顔はすごく、すごく、きれいだった。
ずっと、憧れていた。
その輝きが欲しくて、手をのばしていた。
だけど届かなくて、がむしゃらにもがいていた。
強くなれば、きみに、憧れに届くと。
……
でも、違った。
きみは、最初からずっと、そばにいた。
おれに手を、さしのべてくれていた。
遠くで輝く太陽なんかじゃなかった。
手をのばせば届く距離にいる、特別な女の子だ。
……
特別ってのは、俺の中でってことなんだけど。
アオイ。
……
アオイ。
きみに、伝えたいことがあるんだ。
…………
あのな、俺
――――
。
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