れり2777/花珊瑚
2025-12-13 01:01:26
2475文字
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【学生敢高♀】にょ高ちゃんが失恋する話 ※ハピエンです

※先天性女体化 ※年齢操作

 私がそこを通りかかったのは偶然だった。人気のない裏庭のイチョウの木の下。そこが学内でも有名な告白スポットであることに思い至ったのは、男女の人影を視界に認めた瞬間だった。
 立ち聞きするつもりはなかったのだが、その片割れが幼馴染にして私の想い人である敢助君だと認識した途端、私は咄嗟に校舎に隠れてしまった。立ち去るべきだと分かっているのに、私の足は縫い留められたかのように動かなかった。

「好きです」

 震える声が言葉を紡ぐ。飾らないからこそ真っ直ぐなその言葉を受け止めた敢助君は、いつもの凛とした声で返答する。

「ごめん。俺、好きなヤツいるから」

 あまりの衝撃に、私は息を詰めた。すべての音が遠ざかって、自分の心音だけがドクドクと五月蝿い。ハッと気付いたときには二人の姿はもうそこにはなかった。
 そうか。敢助君には好きな人がいるんだ。そんな素振りを見せたことがなかったので、私は微塵も気付いていなかった。
 でも、どこか安堵している自分もいた。敢助君のことが大好きだから、彼には幸せになってもらいたい。彼が想い人と幸せになれるのなら、それでいいと思った。
 敢助君は太陽のように明るく皆を照らす存在だ。私だって何度彼に救われたか分からない。そんな彼が心から好きな人と結ばれるなら、私にとっても喜ばしいことだ。
 だから、私のこの想いは心の底に押し込めて、鍵をかけて、誰にも言わずに持っておこうと思う。ただの幼馴染から好意を向けられても鬱陶しいだけだろうけど、敢助君のことを好きでいる自分のことを、否定したくない。
 でもまあ客観的に見れば、今の私は『失恋した女』なわけで。さっさと帰ろうと思うのに足取りは重く、とぼとぼと夕陽に照らされる通学路には、細長い私の影が伸びている。
 ふと顔を上げると、三色のポールがくるくると回って、来ない客を招いているのが目に入った。
 そういえば、失恋したときの風習がありましたね……
 チカチカとやる気なく明滅する看板に誘われるように、私は閑古鳥の鳴く店内へ足を踏み入れた。



 売店で購入した焼きそばパンを咀嚼していると、バタバタと喧しい足音と共に教室のドアが開いた。

「こーめい!!」
「そんな大声を出さなくても聞こえます。何か用ですか、敢助君」
「いいから来い!」

 離れたクラスからわざわざ走ってきたのだろう、息を切らせた敢助君が私の手首を掴み、強引に教室から連れ出した。どこに向かうのかと思えば、彼は上靴のまま昇降口を出て校舎裏へ回り、例のイチョウの木の下へと辿り着いた。

「何ですか」
「何ですかも何も、学校中で噂になってんぞ」

 だから朝からやたらと視線を感じたのか、と私は妙に納得していた。何かと注目を浴びやすいのは自覚している。

「どうしたんだよその髪!」
「切りました。気分転換に」

 腰まであった長髪を、所謂ショートと呼ばれる長さまでバッサリ切ったのは、おそらく人生初の試みだった。だからもちろん敢助君も、髪の短い私を見るのは初めてだ。

「気分転換って……お前、髪長いの気に入ってたろ」
「まあ。でもシャンプーもドライヤーも時間短縮になって、悪くないですよ」

 敢助君は首を振る。

「何か心境の変化があったんだろ」

 断定ですか。そうですけど。

「髪切るほど嫌なことがあったとか、つらいことがあったとかなら、俺に話してほしい。力になってやれるかは分かんねえけど」
「君は本当に……

 心の奥底に封じ込めた気持ちがカタカタと音を立てる。どこまでも優しい男だ。

「なあ、俺に言えないことか?」
「くだらないことですよ。ただ……好きな人に、想い人がいることが分かって」

 敢助君の表情が固まった。それもそうだ、心配していた女が急に失恋したなどと宣うのだから。

「え、お前、好きなヤツいたの!?」
「ええ。私にも好きな人くらいいますよ。いや、いました、の方が正しいでしょうか」
「諦めるのか?」
「当たり前です」

 その好きな人に向かって私は何を言わされているのだろう。何だか虚しくなってきて、もうどうにでもなれと思っていた。

「なあ。諦めるならさ……俺にもチャンスある?」
「へ?」

 だから、彼が何を言い出したのかすぐには理解できなかった。

「いいか、俺は今、傷心中のところにつけ込もうとしてる」
「え、え?」
「お前が失恋して髪を切るくらいそいつのこと好きで、傷付いてるのも分かってるけど、どうしても俺はお前が欲しい」
「あの、敢助君?」
「高明のことが好きだ」

 敢助君が?私のことを好き?

「ち、ちょっと待ってください! 君、好きな人がいるって……
「もしかして昨日の、聞いてたのか? 俺が好きなのは高明、お前だよ」
「い、いつから?」
「小学校の入学式で隣に座ったときから……

 つまり、敢助君の想い人は私で、それに気付かず私は──

「なあ、もしかしてさ……髪切った意味、なかったりする?」

 敢助君が私の顔を覗き込む。きっと、真っ赤になっているであろう私の顔を。

……はい」
「マジか!!!」

 私とは対照的に、真っ青になった敢助君はその場にうずくまった。

「髪は女の命っつーのに、俺はなんてことを……!」
「あの。伸びますから……ね」
「そういう問題じゃねーだろ! 責任取る、俺が一生かけて幸せにするから」
「大袈裟ですよ」
「だってお前の長い髪、好きだったんだよ……

 心底残念そうにする敢助君に、私はツキリと胸を痛めた。

……ごめんなさい。髪短いの、嫌いですか」
「いやすげー似合ってるしめちゃくちゃ、その、かわいいと思う」

 敢助君が真っ直ぐ伝えてくれるので、胸がいっぱいになりながら私も答えた。

「ふふ。髪、伸ばしますから。その代わり……もう切らなくていいように、私のことずっと好きでいてくれたら、嬉しいです」
「おう。それは任せとけ」

 敢助君は照れ臭そうに笑った。