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タロ文庫の作品置き場
2025-12-12 14:10:59
2751文字
Public
作品
最良の花火
2021-11-01
WinTeam創作企画『夏のWinTeamまつり』ONEWeekDraw第一週『花火』
ウィンとティームが見る花火シリーズ第一弾。ドラマのEP4や5くらいの二人の距離感です。まだまだイチャイチャしてない。
ドンッと重たい破裂音が鼓膜を揺さぶってティームはキョロリと音の出どころを探った。窓の外に目をやれば、通りを挟んで少し先に建っているコンドミニアムの後ろに赤や緑の光の飛沫が一瞬だけ見えてすぐに消えていく。その後パラパラとあられが散るような音がしてティームは目を輝かせた。
花火だ。
課題を打ち込んでいたラップトップを閉じてベランダに出てみると窓ガラスに遮断されていた音がクリアになり、軽快な音楽も聞こえてくる。どうやらだいぶ近くで打ち上げられているらしい。息苦しいくらいムッとする湿度と温度に顔を顰めながらも、心はワクワクしてきた。
年末のカウントダウンほどではないが次から次へと打ち上げられている花火。
…
の音だけはどんどん聞こえてくるのに肝心の大輪の花の大部分はコンドミニアムの黒い長方形に隠れていて見えない。
「くそー。なんだよ」
ちょうどスターマインに入ったのか、夜空が一気に明るくなりパパパパッと連続して炸裂音が響く。ティームに見えるのは花火の外枠と明るく照らされた逆光で真っ黒にそびえ立つ目の前のコンドミニアムだけ。
ティームはベランダの手すりをぎゅっと握って思わず口から悪態をついた。
すると、ぶはっと大きく噴き出した後に高く掠れた笑い声が頭の上から降ってきた。聞き慣れたそれにティームは文字通り思わず天井を仰いだ。
「ウィン先輩、そこにいるの?」
「おー。お前のところからじゃ見えないのか」
首を外ににょっきりと出して上を見上げると、上の階の住人が手すりにもたれ掛かっているのが見えた。三角のモチーフが重なったタトゥーが手すりを超えて、ひらひらと手を振ってきた。
「なぁ! 先輩のとこからは見える?」
花火玉が爆発する音に負けないように声を張ると手がサムズアップの形になる。
「ロケーションは悪くない」
「そっちに行く!」
ティームは言うや否や部屋の中に戻って、赤いリュックを掴んだ。充電していたセルフォンをケーブルから抜くタイミングで、ピコンとメッセージが届く。待ち受け画面にポップアップが出て、ウィンから画像だけが送られてきた。
小さく映った画像はティーム御用達の黄色いスナック菓子とコーラのペットボトルだった。ペットボトルの大きさと比較して、黄色い袋はいつもウィンから与えられるものより大きい。
ティームは低く唸ると二段飛ばしで寮の内階段を昇り廊下をダッシュした。
自分の真上の部屋の扉をノックするとすぐに楽しそうに笑う金髪の男に出迎えられた。
「新記録じゃないか?」
話し終えてからノックまで一分もかからなかったな、なんて大袈裟に言う。まるで食べ物にまんまと釣られたような言い方に、定位置にスニーカーを脱ぎ捨てながらティームが唇を突き出した。
半分図星で、半分は花火が終わってしまうんじゃないかという気のはやりだ。
先程よりはゆったりと間隔があいた破裂音に、ウィンの相手もそこそこに大股で窓に近づく。
良かった、まだやってる。
窓辺に移動すると、いつもは壁際に設置されている小さなダイニングテーブルが配置を変えて置き直されていた。
それを見てティームがまたひとつ低く唸った。
二脚並べて外向きに置いてある椅子。右に寄せられたテーブルの上には先程メッセージで送られた画像そのままのスナック菓子とコーラ、それに空のグラスがふたつ置かれている。
ウィンを振り向けば二人きりの時にしか見られない柔らかい顔で座れとばかりに小首を傾げて笑っていた。ちょうど大玉が上がったのか心臓がドンッと大きく高鳴る。視界の端に自分の部屋よりも見える範囲が多い大輪の花がうつり、ティームはテーブルの隣側の椅子へと座った。
それを待っていたようにウィンは部屋の照明をパチリと落としてからゆったりとティームの左隣の椅子に腰掛けた。
「先輩は今日花火が上がることを知ってたの?」
「いや? 音がしてベランダ出てみて上がってんなーって気づいた」
「そっか
…
」
それならやはり前もって用意されてたものじゃないんだな。
ティームは横に座った男から次の会話が出る前にガサガサとスナック菓子の大袋の口を開けて、ペットボトルの蓋を捻った。パキリとプラスチックの音がして中の炭酸が空気に触れて泡立つ。
「あとどれくらい上がるかなぁ」
「さっき始まったところだから三十分くらいじゃないか」
パタヤのような名の知れた花火大会でもなければ大きな会場でもない。年末のカウントダウンでもない。何の為にあがってるかもわからない打ち上げ花火だ。いつ終わってもおかしくない。
そんな花火を自分と見る為に。
ティームがここの訪れたタイムが新記録ならば、特別観覧席の設営の速さも負けてはいない。
この部屋の持ち主は自分の懐の一部のように、部屋全体でティームを甘やかす。
ティームはコーラを注いだグラスをウィンに手渡して、自分も一気にあおるとスナック菓子の袋に手を突っ込んだ。
ドンッ、パラララ。
スターマインから一転してゆっくりと大玉が夜空に咲いている。
ティームがやっと本来の目的に顔を上げると、障害物のコンドミニアムのてっぺんがやはりティーム部屋よりも低い。パッと咲いた花はよく見えた。
だが少し惜しい。
右側部分が別の建物の屋上についてる看板に阻まれていた。
あとちょっと、もう少しと花火が上がるたびにティームは視界の調整で身体を左に揺らす。
スナック菓子を口に入れてコーラを飲みながら花火から目を離さず、花火の全貌が見えるベストポジションを見つけて落ち着くと、左のこめかみにコツンと何かが当たった。それは耳の近くでゆっくり動いて、ティームの首の後ろを通り右肩をやんわりと包み込んだ。
少し引き寄せられて、ティームが窓の外から視線をうつして見上げると、いつから向いてたのか細められた目とバチッと合わさる。緩く上がっている口角が楽しそうに開いた。
「悪くないロケーションだろ」
じんわり伝わってくるウィンの高い体温の温かさに、部屋のエアコンも就寝時のように下げられてることも今気づいた。
いつから、どこからが、ウィンの思惑通りなのか。
聡いウィンに身の内に湧き上がった浮遊感を察知されないように、揺れる目線は睨みつけるように花火に固定し、緩む口元は菓子を詰め込むことで誤魔化す。
「こっち見てないで、花火見ろ」
「はいはい」
そんなことは全部お見通しの高く掠れた笑い声が頭の上に降ってくる。だが揶揄いよりもあたたかいものをたっぷり含ませていたので、ティームは仕方ないから夜空に最後の一輪が綺麗にまんまるく咲くのを見終わるまでウィンの肩に頭を預けることにした。
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