望月 鏡翠
2025-12-12 00:01:29
899文字
Public 日課
 

#1938 ディルストーン居城にて3

#毎日最低800文字のSSを書く/我らが王の身罷りて 二次創作


 執政は、トルガの沈黙をガニメデの美貌に見惚れていると思ったのか、満足そうに笑った。
「たまたまこちらに来ていたのでな」
 たまたま、ね。
 トルガは胸中で混ぜ返す。
「後進の育成ですか?」
 いずれ彼女がディルストーンの代表にあるというのでもない限りは、同席を許す理由はない。それは非常に婉曲な温度感の拒絶だった。
 伝わらずとも良い。トルガは彼女が退室しないのであれば、この場で政治の話を続けるつもりはなかった。
 立場の違いは示すためか試したのか、トルガが何も言わなければ、そのまま同席させて話に加えたのだろう。
 ディルストーンは玉座に座る人間を輩出した。それはもちろん彼らの地位を確固たるものにして、政治的な発言力を増した。しかし王亡き今、立場として五名家は同格のはずだ。
 そしてこの聞き方であれば、執政は答えにくいということもわかっていた。権力にしがみつく老人にとって、自分の引退するときというのは考えたくもない事柄だ。
 自分は後を考えなければいけないなんてことを考える男は、もう少し謙虚だ。そう思うと素直に国に逃げ帰ったアルダンは、ある意味では謙虚な男だったのかもしれない。
「似た年頃だろう。同じく五名家の子女として君に合わせておきたかったんだ」
 察しの悪い執政がそれ以上食いさがり、二人の間の無駄話を長引かせる前にガニメデ自身が察したのか、自ら部屋を辞した。
「彼女とは、また今度ゆっくりと食事でもしたいですね」
 単なる飾り物であれば、見目麗しい女はいくらでもいてもらってかまわない。しかし単なる飾りの女は、あんな目でトルガを見たりはしないだろう。
 政治の話が絡まない場所でなら、ゆっくりと話をしてみたいところだ。しかしそんなときが来ることは一生こないだろう。
 それこそ、誰かがバンデイアを統一するような奇跡を起こしでもしなければ。
 結局、話はそこに帰ってくるのだ。子女の立場だろうが、領主の地位を持っていようと、五名家に名を連ねるものは、背負った立場や民や、家が抱える玉座への夢から自由にはなれない生き物なのだ。
 それならば、今いる場所でせいぜい舞うさ。