人間はいつまでもちいさいままではいられないので、おおきくなるのだろうと近頃考えている。何のためにおおきくなるのか、それは人それぞれであるだろうけれど、おおきくなりたくなくてもおおきくならなければいけない人もいるだろう。
右手首の骨の部分を左手の親指で押しながら、腕の間に挟まったおおきい男を見つめた。男、といっていいのか疑問だが、少年というには少々、おおきい。けれどもまだ、子ども扱いをしてもゆるされる年齢だろう。――と、自分の中で完結している。
ふわふわとした短い髪に指先がふれる。やわらかい、と思った。まぶたを閉じている顔は、まだまだ稚いものだった。身動きをして、片手を目の上でひらき、指を折る。いち、に、さん、し。ご、まで数えると、当たり前だが指がたりなくなった。齋穏寺慶という少年になにかを告げずに病院を去って、六年がたつ。六年たって、再会した。まったく意図しないものであった。頭を動かしたので、肩口にうまるひたいがくすぐったく感じた。
「そろそろ朝飯の時間だけど」
殊更にちいさな声で呟く。
起きてもいい。起きなくても、いい。そう願うような思いで。横向けになった慶の背中に腕をまわし、とんとんと軽く叩く。途切れない寝息が続いた。同時に、自分の呼吸音が重なる。
「俺が18のときなんてただのおめでたいガキだったのに、どうしてこう、若い奴らが命をかけなきゃいけなくなったんだろうな」
それが自分で選んだ道であることをじゅうぶん承知した上での疑問だった。
正義の名の下での殺人。それが本当に正義なのかは分からない。一生かけてもずっと分からないだろう。許される殺人というものが、本当にあるのか。一端の研究員である飛白マルタにはわからない。任務に出ずに、安全圏でそのようなことを口に出すことは、はばかられる。今後も告げることもないだろうけれど。けれども自分とて、きれいなだけではいられない。
視線をさげると、かたちのいいひたいとまつ毛が見えた。じき、起きそうでもあった。
「慶」
あまりなじみのない音程。ふと、呼んでみる。
まだはっきりとしない瞳孔の目が開いた。ぼんやりと、まつ毛に縁取られた目がこちらを眺めている。
「おはよう」
ちょうど、「おはよう」と伝えてもおかしくはない時間だった。
「おはようございます」
彼もそういった。
いまだ稚い表情と、声色で。
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