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山茶花
2025-12-11 11:27:00
6341文字
Public
[シルデュ]サイト限定(健全)
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手のひらを硬く握りしめて【174SK034】
とにかく大好きな話。
*付き合ってる、恋人設定
「あのっ、シルバー先輩っ」
「ん、ああ。どうした?」
この、急な上目遣いで俺を見てきては俺の心臓を射抜いてくれる後輩の名は、デュース・スペード。可愛い生き物だ。
「ここ、分かんなくて
……
先輩、分かりますか?」
「ああ、この魔法式か。これは去年、俺も苦労した。これはな
……
」
何やらデュースは勉強で分からないところがあって、俺に尋ねたかったらしい。後輩として、先輩の俺を頼ってくれている。可愛い。
とても頑張っている。もう俺からは花丸100点満点やってしまいたい。
「あ! そうか! ありがとうございます先輩、分かってきた気がします!」
「頑張れ」
デュースは、俺の説明によって分からないところが分かったようで、にこにこしている。すぐ機嫌が顔に出る。素直で可愛らしい。
「先輩、あの
……
」
「なんだ?」
「先輩のお陰で、ちょっと早く解き終わりそうなので
……
その
……
このあと、良かったら、ご褒美、とか
……
」
「
……
ふっ。そんな顔をされては、仕方ないな。嫌とは言えないだろう」
「わっ、やった! へへっ、楽しみにしてます。それじゃ、残りも早く終わらせなくちゃな
……
」
少しもじもじとした様子で、俺からの褒美が欲しいと言い出すデュースはとても可愛らしい。さすがは俺の恋人だ。何、この子が俺の恋人なのか? 告白からもう幾日かが経っている気がしたが、未だに実感を持てない。世界で一番可愛らしい生き物が俺の恋人だということに。
それに、褒美か。デュースへの褒美。正直な話、もう生きてるだけで褒美をやりたいが、そこまで甘やかしてしまってはデュースのためにならない。心を鬼にしてぐっと堪え、デュースが報告してくれた、頑張ったことへの褒美をたっぷりと与えるしかない。
それにしても、褒美か。何をしてやればデュースは喜ぶのだろうか? くちづけや抱擁は、俺がデュースに与えて嬉しいことだし
……
。デュース側を喜ばせるような褒美といえば、やはり菓子の類だろうか。デュースは、甘い卵の菓子が好きだったな。
エッグタルトやプディングを食べさせてやれば喜ぶだろうか。ふむ、菓子を食べるデュース。それも可愛いだろうな。
「
……
」
「先輩? なんで見てるんですか?」
「どんな褒美をやろうか、考えていた」
「そうなんですか? 楽しみだなあ
……
」
デュースは嬉しそうにうっとりとした目で、こちらを見つめている。もう食べてしまいたい。いや、いけない。デュースはまだ課題の途中だ。俺がそれを邪魔してはいけない。デュースは今でも魅力的だが、もっと魅力的になるために日々、日夜努力をしているんだ。俺がそれを応援こそすれ邪魔したとあっては、悔やんでも悔やみきれない。
「ほら、頑張れ。お前が喜ぶものを、ちゃんと考えておくから」
「はいっ!」
むん、と真面目に気合を入れた顔でノートを見つめるデュースも可愛い。まじめくさってノートを見つめるデュースを、俺は見つめている。ふっ。幸せな時間だ。
「できた! 先輩、できました!」
「どれどれ
……
。ああ、そのようだな。よく頑張った」
「
……
へへっ」
頭を撫でてやると、デュースは嬉しそうにはにかんだ。まったく、デュースときたら。俺がちょっと褒めてやるだけで、どれほど喜ぶんだ。可愛らしい。本当に可愛らしい生き物だ。
ひょっとしてこの子は俺のことを好いてくれているのだろうか。いや、そうだったな。そのはずだ。数日前に俺が告白したとき、デュースは、自分も同じ想いを持ち合わせていると告白してくれた。だとしたら、今も俺のことを想ってくれている。こんな奇跡があって然るべきなのか? 分かりません親父殿。
「先輩、それじゃあ、その
……
」
「ああ。褒美の時間、だな。何がいい? 甘いお菓子でも、なんでもいいぞ」
柔らかな頬に指を添えると、デュースは少し照れくさそうに目を伏せた。どうした、また可愛い顔をして。
「お菓子、それもいいんですけど
……
。その、今は
……
先輩と、いちゃいちゃしたいな、って
……
」
「なんだ、そんなこと
……
」
わざわざ褒美にせずとも、いつでもしてやるのに。デュースに向けてそう囁くと、デュースは顔を赤くしてしまった。
「しかし、ここでは人目についてしまうな。
……
来い、デュース。秘密の場所に行こう」
「は、はい
……
」
そうして俺たちは図書館を後にし、二人きりになれる場所へと移動した。
「デュース、可愛い
……
デュース。好きだ」
「は、あ、あの
……
っ」
「ん? どうした、足りないか? お前が、褒美にこれを望んだんだろう」
「そ、それは、そうなんです、けど
……
っ」
それから。人目につかない空き教室へ移動した俺は、デュースを物陰に引っ張り込むなり、くちづけと抱擁を与えた。もちろん、口から勝手にあふれ出ていく愛の言葉も合わせて。
そうするとデュースはすぐにいっぱいいっぱいになってしまったようで、真っ赤な顔で俺のことを困ったように見つめている。困った。困っているのは俺の方だ。可愛い。
「ふっ、照れてしまったのか? 可愛いな、デュース」
「~~~~~
……
っ」
デュースはぎゅっと目を瞑って、俺のやることを受け入れている。このまま食えそうだな
……
。はっ、いけない。それも悪くはないが、デュースの前で不埒な男になるわけにはいかない。世界一可愛い生き物を手にするのであれば、俺は世界一いい男でいてやらなくては。
「好きだ
……
デュース、お前からは言ってくれないのか?」
「す、すき、です、せんぱい
……
」
「ふっ。俺もだ。ありがとう、デュース」
デュースの頬に、耳元に、ちゅ、ちゅとキスを落とす。デュースは少しだけ手のひらで抵抗するが、本気ではないようだ。
そんな子猫のような手先さえ、可愛らしくて堪らなくなる。
「はあ
……
、お前はどうしてそんなに可愛らしいんだ」
デュースの肩に頭を埋め、溜め息を吐く。爽やかなシトラスの香りが俺を誘う。香りまで可愛いとは、どういうことなんだ。
「せ、せんぱい、なんでそんな僕のこと好きなんですか
……
」
「俺にも分からない。お前が可愛いのが悪い」
「か、可愛くないですよ、僕は
……
っ」
「お前は可愛い」
デュースの手のひらにくちづける。ずっと抱きしめて可愛がっていたら、予鈴の鐘が鳴ってしまった。
「もう、お前を手離さなくてはいけないのか。時間というのは、いつも残酷だ」
「ま、また時間とれますよ
……
きっと」
「ああ。楽しみにしている」
そうして、空き教室を出て、控え目に手を振るデュース(可愛い)と別れ、俺も授業を受けるべく2年生の教室へと向かった。
それから授業を受けて、放課後。馬術部の活動へと勤しむ。
厩舎からは、運動場がよく見える。お陰で、陸上部の活動風景も目には馴染んだものだ。
……
それにしても、だ。ユニフォーム姿のデュースも可愛いが、いつもながらに露出が多すぎる気がする。
風邪を引いてしまわないかが心配だから、あとで隙を見て、暖かい飲み物でも差し入れに行こう。
そして部活が終わったら、デュースを陸上部の部室まで迎えに行くとしよう。
わずかな時間でも、共に過ごしたいから。
そんなことを夢想しているのが、サムソン号にバレてしまったのか、柵の向こうから、早く競技をしようとばかりに鼻先で誘われてしまう。そんなサムソンを撫でて宥め、今行くと返事をした。
そんなこんなで無事、部活が終わり、デュースを迎えに行く。
「あ、シルバー先輩、ちっす」
「ああ、ジャック。こんばんは」
「またデュースの迎えすか? 先輩もよくやりますね
……
」
「俺が、ただ一緒に過ごしたいんだ」
「そうすか。ご馳走様です」
先に部室から出てきたジャックと少しの会話を繰り広げ、デュースを待つ。
程なくして、ぴょこりと巣穴から出てくるウサギのようにデュースがひょこりとドアから顔を表した。
……
出てくるだけで可愛いな。何故だ。
「あっ、シルバー先輩! 待っててくれたんですか!?」
「ああ。一緒に帰ろう、デュース」
「はいっ!」
デュースの、次から次に、にこにこ、くるくると変わる表情を見ていると、自然と俺の頬からも笑みがこぼれてくる気がする。
「なんかご機嫌ですね?」
「そう思うか? お前といるからかもしれないな」
「へへっ、だったら嬉しいですっ!」
可愛い。こんな可愛い生き物が、俺の愛を享受して、幸せそうに笑ってくれている。この世にこれ以上の幸せというものが存在するものだろうか。いや、ないだろう。
「デュース」
「先輩?」
デュースの頭に、手を伸ばす。くしゃりと頭を撫でると、デュースは照れくさそうにはにかんだ。
「あの
……
先輩に、撫でてもらうの、好きです。いつもは、恥ずかしくて言えないけど
……
」
「そうか」
撫でた手で、デュースを腕に抱き入れる。付き合ったその日から、いやずっとその前から、デュースのことが可愛くて可愛くて仕方なくて、俺は時々、どうしようもなく堪らなくなる。
「はあ
……
、デュース、好きだ」
「
……
はい
……
僕、も
……
」
暗い夜道の下、街路灯の灯かりだけが俺たちを照らしていた。
そんなある日のこと。デュースが、実践魔法の授業で失敗して、怪我をしたと聞いた。
俺は報せを聞くなり、慌てて保健室へと駆け付ける。
「デュース、大丈夫か?」
「先輩。これくらい、へっちゃらです。大したことないですよ。それよりも
……
」
これじゃ授業の評価が散々だ、とデュースは落ちこむ。
だが、俺は授業の評価などよりも、デュースには己の身を大事にしてほしかった。
「デュース。今は授業の評価など、気にするな。それよりも、お前の身の方が大事だ」
だが、デュースは俺の言葉にむっとしてしまう。
「それは、ちょっと聞き捨てならないです。授業の成績だって大事です」
「それは、そうかもしれないが、何も、危ない目に遭ってまで
……
」
食い下がるが、デュースは俺のことを睨むような目で見ている。それでも、俺もここは折れるわけにはいかないんだ。
デュースの前にひざまずき、怪我をした手を取る。
「
……
大切なんだ、デュース。お前のことが。だから
……
あまり、心配させないでくれ」
「先輩
……
」
少しは心を綻ばせてくれたようで、デュースは、ばつが悪そうに目を逸らした。
「お前は、いつも無茶をして、がむしゃらに頑張るが
……
。そんなお前の無事を、願っている人がいる。忘れないでくれ」
包帯が巻かれたデュースの手の甲にくちづけると、デュースは、ようやくはいと頷いてくれた。
それからまた、次のある日のこと。俺が学園を歩いていると、デュースの姿を見かけた。
話しかけようかと思ったが、何やら取り込み中のようだったので、陰に隠れて様子を伺った。
「だから
……
好きなんだ!!」
「そう、言われても
……
」
どうやら、デュースは告白を受けているようだ。この男子校で、俺以外にデュースに向けて告白する奴がいるとは思っていなかったが
……
。いたようだ。
気付かれないうちにその場を立ち去ろうかとも思ったが、少しだけ、デュースの答えが気になってしまい、よくないことだとは分かっていながらも、足を止めた。
そして、デュースの言葉を待った。俺も、デュースに告白しているどこぞの馬の骨も。
「僕は
……
もう、心に決めた人がいる、から。お前の気持ちには、応えられない。
……
悪い」
絞り出すような声で、デュースは彼にそう言った。彼は分かったと言って、その場を立ち去った。
俺も、その場を立ち去った。その場は、それでいいはずだった。
その後、部活帰り、いつも通りデュースに会いに行くと、デュースは少し上の空な様子でいた。
「どうした、デュース。ぼうっとして」
「あ
……
すいません。なんでも、ないです」
「本当か? 具合など、悪いんじゃないのか」
「い、いえ! これは別に
……
その
……
僕が考えなくちゃいけない、問題みたいなものなので
……
」
「問題?」
「やっ、えっと! シルバー先輩には関係な
……
くもないけど
……
なんていうか、その
……
。先輩じゃなくて、僕が答え出さなきゃいけないことだっていうか
……
」
どうにも、デュースの説明は要領を得ない。どうにか聞き出してみることにした。
「俺にも関わりのない話でないというのなら、聞かせてくれないか、デュース。お前は何を憂いている?」
「
……
それは
……
」
「
……
デュース」
じっと目を見つめれば、デュースは、分かりました、とようやく折れてくれた。
ベンチに座って、デュースの話を聞く。カシュ、と音を立ててプルタブを引くと、自販機で買った暖かい缶のスープが湯気を立てた。
「僕、悩んでて。
……
僕がシルバー先輩と付き合うってことは、その裏で、先輩と付き合いたかった誰かが、泣いてるんだってこと、なんですよね」
「そう、だな。俺がひとりの人しか選べない以上、そういうことは起こり得るだろう」
「
……
僕、最近、告白されて。断ったんですけど
……
。僕の方にも、そういうことが起こるのなら、僕より格好良くて、頼りになるシルバー先輩には、どれだけの人がいたんだろう、って思って」
それで、その中には、僕なんかよりもずっと、シルバー先輩と相性が良かったり、お似合いだったりする人もいたんじゃ、いるんじゃないかって思ってしまうと、なんだか落ち着かなくて、とデュースは言う。
「
……
まだ見ぬ恋敵、ということか。だが
……
俺は、いつもこう思っている、デュース」
「はい?」
「俺は
……
いや、俺だって、お前をそういう存在に取られかねやしないかと、不安になる日はある。お前は、最近、告白されたといったな? それも、そういうものも含めて、だ。お前が、どこかで俺から誰かに掠め取られてしまいやしないかと、不安になる日もある」
「先輩、も
……
」
「そうだ。そして、その度に、誓う。お前が、分岐点に立たされたそのとき、何度でも俺を選んでくれるように、良い男であり続けよう、と。お前に選ばれ続ける男でありたいと、そう、思っている。負けたくはない、お前の隣に立つ権利を、譲りたくはない、と
……
」
お前は違うか、とデュースに尋ねる。すると、デュースは、違いません、と言って笑った。
「そっか。そうですよね。不安にばっかなってないで、自分が出来ることをやらなきゃ。シルバー先輩が、他の奴のとこに行っちゃわないように、僕が精一杯引き留めてなくちゃダメなんですよね」
「ああ、その意気だ。
……
とはいえ、元より俺は、お前以外を選ぶ気なんてないが」
「僕だってそうですよ!
……
なんだ、案外、カンタンなことだったんですね」
「そうだな。俺はお前を選び、お前は俺を選ぶ。それを続け、重ねていくことが
……
信頼であり、絆というものなのだろう」
デュースの頭を、ぽんと撫でる。するとデュースは、俺の手に手を重ね、そして、珍しくねだった。
「
……
先輩。キス、してください」
「ああ。もちろん」
デュースの唇に、キスを落とす。いつの間にか、辺りには雪がちらつき始めた。
「身体が冷えてしまうな。もう戻ろうか」
「ちょっと勿体ないですけど
……
。はい」
「
……
なら、手を繋いで帰ろう。鏡舎まで」
「はいっ!」
デュースの手を取り、ぎゅっと握る。このぬくもりを手離さないように、たとえいつの日、何があっても手放すことがないようにと、ずっと、ずっと硬く握りしめていた。
*おしまい
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