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ま
2025-12-10 23:57:48
8687文字
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支部投稿済
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【土きり】熱を知った日
2510、以前あげたkr丸風邪ひき小説の完成版です。
体調不良を隠そうとするkr丸とそれを見抜いて看病しにくるdi先の話です。でも後半マジでいつもと同じ流れになってしまった。
後日支部にもあげる予定です。
ある朝それは起きた瞬間にわかった。
これは完全にしくじった。
学園が休みの間土井先生と一緒に長屋に帰るようになってから二回目。
これまでも学園で顔は合わせてたし、仲が悪いわけでもない。
そもそも一緒に帰ろうと言い出したのは先生だ。休みの間は忍たま長屋が閉まるからその間俺が野放しになるのは把握していただろうけど、そのことについて先生に相談したことは全くない。
それでも前回の、一回目の長屋はどこかギクシャクしていた、と思う。ギクシャクというよりは、お互いに距離感が掴みきれていなかったという感じか。
いくら仲が良くても一つ屋根の下で一緒に暮らそうとなったら色々と話が変わってくるのは仕方のないことだし、何より雨風凌げて暖かい布団で眠れるのなら全然気にならなかった。
それに、土井先生とならこの先楽しくやっていける。そんな気がなんとなくだけどしていた。
アルバイトも手伝ってくれるらしいし先生は生活能力がないからそのへんは俺がフォローすればいい。
得意分野だし、持ちつ持たれつってやつだ。
そんなこともあってか、二回目、三回目と回数を重ねるにつれて穏やかな帰りとなった。
一回目の時は俺のことを訝しげに見ていた大家さんも隣のおばちゃんも二回目からは暖かく迎えてくれた。おばちゃんにいたっては、いつの間にか長屋の溝掃除や不在の間の長屋のことを先生ではなく俺に話してくるようになった。
あの時のショックを隠しきれていなかった先生の顔は、申し訳ないけど当分忘れられそうにない。
だけどそれとこれは話が別だ。
俺のしくじった話に戻すと、結論から言うと俺は風邪をひいた。しかも学園が長期休暇に入る直前という最悪なタイミングでだ。
季節の変わり目というのもあったし、正直ここ最近はアルバイトもいつもより多めに入れていた。でも結局は体調の管理ができていなかった、完全に俺のしくじりだ。
いくら先生から声をかけてくれたとはいえ俺は所詮居候にすぎない。俺が先生の財布を握らせてもらってるのも、先生が俺のアルバイトを手伝ってくれるのも、それは先生の優しさの上で成り立っているだけだ。
体調不良の居候なんてただの迷惑でしかないし、なによりこれ以上の借りは作りたくない。
先生は「そんなこと気にするな」って言ってくれるけど、そこはやっぱり一線を引いておかないといけないと思う。
家族でも兄弟でもない、結局は赤の他人なのだから。
不幸中のなんとやらってやつなのか、今回先生は一晩長屋で過ごした後忍務で二、三日ほど長屋を空けることになっている。
その間にアルバイトも無理のない範囲でできるやつだけにしてあとは安静にして早く風邪を治すしかない。ここで万が一アルバイト先で風邪を移してしまったりしたら今後の信用問題にも関わってくる。目の前の銭を失うのはどうしようもなく辛いけど、未来で稼げる銭の方が額としては大きい。
布団もまだ売っぱらっていないし、万が一の時のため薬箱の場所は片付けの際に確認している。ただ居候の身分で薬をそんなに使うわけにもいかないから本当に最終手段だ。
土井先生はやっぱり優しいから、俺が風邪を引いたって聞いたらおそらく薬も使わせてくれるだろうし心配もしてくれるだろう。でもそんな迷惑はかけられない。
とにかく先生が発つまでやり過ごせればいい。
笑顔を作ることなんて俺にとっては十八番だ。天才アルバイターの名は伊達じゃない。
◇
長屋に帰ってきて次の日の朝。
体調は変わらず
…
どころか、昨晩より悪くなっている気がする。なんか寒気とかもしてきたような。
俺の早朝アルバイトの朝刊配りに出発する時間と、土井先生が忍務へ出発する時間がちょうど同じ頃合だった。いつもならまだ寝ている先生が今朝はしっかり着替えて今は草履の緒を結んでいる。なんか変な気分だ。
「先生も今から出るんですか?」
「ああ。あ、待ってくれきり丸」
外に出ようとした俺を土井先生が引き止める。声の主である土井先生の元に「どーしたんですか?」と向かえば、草履の緒を結び終えた先生は片膝をついて俺に目線を合わせてくれる。
そしていつものようにそのあたたかな手を俺の頭の上に、もう片方の手は俺の肩に優しく乗せ、緩く撫でながら話しかけてきた。
「きり丸、本当にすまないが留守番を頼むな。なるべく早く帰るようにはするから」
「まっかせといてくださいよ〜!土井先生こそ忍務頑張ってくださいね」
俺の返答を聞いた先生はどこか困ったように笑いながら、「ああ、行ってきます」と口にして長屋をあとにした。
そしてなんとか朝刊配りを終わらせて長屋に戻ってきた。
……
けど明らかに体調が悪化している。
身体の芯がやたら熱くて、目の奥までぼうっとする。
朝刊配りの帰りに追加で内職を請けてこようかも迷ったけど、この調子だと納期に間に合うかも怪しい。悔しいけど引受けなくて正解だった。
どうにか水を汲んできてそのへんに転がってた手ぬぐいをしぼる。
ひと息ついてから先生と俺の二人分の敷布団と掛け布団をそれぞれひとつに重ねる。朝先生が身支度をしている時に、「帰ってきたら干しちゃうので布団はそのままで大丈夫です!」と言っておいたから、布団は敷きっぱなしのままだった。普段なら「早く起きて布団も片付けてください」なんて怒ってたところだけど、今回ばかりはありがたかった。
寝着に着替えて重ねた布団に横になれば、いつもより暖かくて身体も熱を持っているはずなのに寒気が止まらなかった。
ふと視線を横にやれば、先生の寝着が脱ぎっぱなしで放置されているのを見つけた。這い這いになりながら布団を抜け出し、先生の寝着を手繰り寄せる。そして自分の寝着の上からそのまま羽織り、また布団に戻って横になった。
寒気がするのは変わらなかったけど、先生の匂いと温もりがかすかに残っていた気がして、少しだけ安心できた気がした。
───あったかい。
俺はそのまま、そっと目を閉じた。
◇
額にひたり、と冷たい感触が落ちた。
熱にうかされた頭がその冷たさをじんわりと受け入れていく。
ぼんやりと目を開けると、視界の向こうに誰かの影があった。
そこにいたのは。
「
……………
せんせぇ?」
俺の声を聞いて困ったように笑う土井先生だった。
いよいよ熱で幻覚を見始めたのか。だって先生は忍務で二日くらいは戻ってこないはずで。
思わず身体を起こせば、すぐに先生の片手が俺の背中を支えた。額に乗せられていた手ぬぐいがぼすっ、と音を立てて布団の上に落ちる。
さっきの額の冷たさも、今背中に感じる温もりも、幻覚なんかじゃなかった。
「ど、どうしたんですか
…
もう忍務おわったんですか。ぼく、そんなに寝てました?」
「最初に気にするのがそこか。お前が忍務のことを気にしなくていい。
……
と言いたいところだが、お前は気にするだろうからな。忍務は利吉くんに引き継いでもらった」
ちゃんと返事も返ってきた。どうやら今俺の目の前に居る土井先生は本物らしい。
というか、今利吉さんに忍務を替わってもらったって言ったけどそれってなんか大丈夫なんだろうか。大人の事情はよくわからないけど、利吉さんは山田先生の息子さんではあっても学園の人じゃないし
…
。
「今回は山田先生との忍務だったからな。利吉くんもプロの忍者として学園からも信頼もあるしそこら辺は大丈夫だろう」
まるで俺の考えを読んでたみたいに先生は言葉を続けた。
……
本当に何でもお見通しだ。
「それよりきり丸、お前その様子だと朝から何も食べてないだろう。起きれるなら一口でもいいから食べておきなさい」
そう続ける先生の手元にはいつのまにかお粥の入ったお椀が置かれていた。匂いからして多分味噌とかも入っている。
「だ、大丈夫です、そんな」
「ほら」
先生は俺の言葉も聞かず粥をひと匙すくうと、そのまま俺の口元に差し出してきた。
…
その声も笑顔もいつも通り優しくて穏やかなもののはずなのに、押し返せない何かがあった。
逃げ場のなくなった俺が口元に運ばれたお粥を受け入れれば、先生は満足そうに微笑んだ。
そのまま三口目くらいまではどうにか食べることができた。けどそれ以上はもう無理だった。先生がどうこうとかではなくて、本当に体がきつくて食欲が沸かない。
先生もそれを察したのか匙を椀に戻すと、今度はどこからか薬袋を取り出し、指先で紙包みを一つほどいて「ほら」と俺に差し出してきた。
そこにあるのはやっぱりいつもの優しい笑顔のはずなのに、「もったいない」なんて口にできる雰囲気じゃなかった。いつもの笑顔だし何も言わないけど拒む隙がない。
差し出された薬を受け取り口に含むと、間を置かずに先生が湯呑に入った水を差し出してきた。その水で口の中の薬を流し込む俺を見て、先生はまた満足そうに微笑んだ。
「薬も飲めたことだしもう寝なさい、明日は医者に診てもら
…
診てあげるからな」
薬を飲んだ後また横になった俺の額に手ぬぐいを乗せながら先生が衝撃的なことを言った。
「も、もら
…
医者ぁ!?そそんな、診察料がもったイナイデスヨ!」
声をあげて反論しようとしたけれど、最後は情けないほどの掠れ声になってしまった。
「そんなに声を掠れさせてる奴が何を言う。とにかく、明日は医者が来るからな。わかったな?」
「
…………………
。」
「わ か っ た な ?」
「
……………
はい」
最後の抵抗で無言になってみたけど通じるわけもなく、かえって先生の圧が強くなっただけだった。
俺が渋々了承したのを聞いて先生はようやく一息ついたようだった。
◆
きり丸は薬を飲み終えると、冷やした手ぬぐいを額に乗せすぐに布団に横になった。
体調の悪さに加えて日頃の疲れもたまっていたのだろう。きり丸はあっという間に眠りに落ちたようで、すぐに穏やかな寝息も聞こえはじめた。それは先ほどよりは安らかなものに聞こえた。
私はそれを聞きながら、きり丸の寝顔をただしばらく見つめていた。
きり丸が休暇に入る数日前から体調を崩し始めていたのはわかっていた。
しかしきり丸はどこまでも平気な顔をしていた。体調のことを相談することもなく、私に頼ろうともしなかった。まるでそうすることが悪いことでもあるかのように。
きり丸は隠すのが上手い子だ。様々なアルバイトで培った経験に加えて、あの子の生い立ちがそうさせた。弱っている孤児なんて、いろんな意味で格好の獲物だ。それはこの戦乱の世では珍しいことでも何でもない。
学園に入学し、同室の二人をはじめとしたは組のよい子たちといった信頼できる友人が出来ても、これまで重ねてきた警戒心が完全に解けるにはまだ時間が足りないだろう。
またドケチを自称するだけあり、根深い損得勘定も根付いていた。
学園には入学金という銭を払っているから医務室を使うことはある。だが、ここ──私と暮らすこの長屋では、それが通らない。
私が財布を預けてあってもきり丸は最低限の暮らししか選ばず、私の財布の負担になることは避ける。アルバイトを手伝わされることはあっても、きり丸の口から何かを求められた記憶はない。今回の薬のように、長屋に置いてある消耗品すらも極力手をつけようとしない。消耗品だけではなく、私が二人分の布団を用意すれば自分の分を売り払いに行こうとしたくらいだ。
そして財布を預けたことも私がアルバイトを手伝うことも、きり丸はそれを私の優しさだと信じている。優しくされたらその分を何か──この長屋なら家事で返さなければ、とすら思っているだろう。
……
間違ってはいない。だが、正しくもない。
休暇に入る前に山田先生へきり丸の体調のことを打ち明ければ、山田先生もとうに気づかれていた。
山田先生は「側についてやんなさい」とまで言ってくださり、さらには学園長先生に掛け合ってくださって、今回の忍務を利吉くんに引き継ぐことの許しも得てくださった。利吉くんも前の忍務を終えたばかりだというのに、「風邪の時ほど心細いことはないですから」と快く引き受けてくれた。昔も今も、あの親子二人には本当に頭が上がらない。
ただ利吉くんの前忍務との兼ね合いもあって休暇に入る前に引き継ぎを済ませることがどうしてもできなかった。そのため、休暇に入ってから一度落ち合って引き継ぎを行った後、再び長屋へ戻ることになった。
学園から一度二人で長屋に帰り、翌朝私が忍務に発つ時になってもきり丸の態度は変わらなかった。さりげなくきり丸の身体に触れて体温を確認してみれば、体調が悪化しているのは明白だった。こうなってなお隠し通そうとするあたりきり丸らしいと言うべきか。
ここで実は私が忍務を代わってもらってまたこの長屋へ戻ってくる、なんて打ち明ければ、妙なところで聡いきり丸は自分が体調を崩したせいだと自らを無意識に責めるだろう。そしてその先何をしでかすかは、正直見当もつかない。
きり丸には申し訳ないが、私が忍務を代わってもらったことは黙っておくことにした。
やがて引き継ぎを終えて再び長屋に戻れば、二重に重ねた布団の中で、高熱からかふうふうと浅く熱い息を漏らしながらぐったりと横たわるきり丸の姿があった。
枕元には水を張った桶と丸めた手ぬぐいが乱雑に置かれていたがどちらにも手がつけられた様子はなく、どうやら額に置くこともできず力尽きたようにみえた。
「きり丸!」
動揺のあまり思わず声を荒らげてしまったが、きり丸がこちらに反応を示すことはなかった。
私は草履を脱ぎ捨て、きり丸のもとに駆け寄り片方の手をそっと握った。その手は今朝触れた時とは比べものにならないほど熱を帯びていた。また私に手を握られてもきり丸がそれに反応することはなく、きり丸の浅く乱れた呼吸の音だけが布団の中から聞こえていた。
私は一度深く息を吸い込み意識して呼吸を整える。
忍たるもの、ここで取り乱してどうする。
長屋へ戻る途中、念の為にと医者を手配はしておいたが来るのは明日。それまでの間きり丸の熱を少しでもどうにかしなければならない。
私はすぐに握っていた手をそっと離し、枕元の桶に手ぬぐいを浸したあと固く絞って額へとあてがった。するとその冷たさに反応したのか、きり丸がわずかに身じろぎする。ようやくきり丸の反応が見れたことでほんの少しだけ安堵の息をつくことができた。
その後は箪笥から薬箱を取り出す。休暇に入る前に新野先生にも事情を話したところ、「医者に診てもらうまでの繋ぎの分でしたら」と少しだけ薬を処方していただき、薬箱の中に入れておいた。 きり丸は薬箱の在処も知っているはずだが、その薬どころか薬箱にすら手をつけようとした痕跡は全くなかった。
きり丸がこうすることは予想できていた。それでも、こうして現実として突きつけられると言葉にしようのない歯痒さに胸が塞がった。
◆
先ほどよりは幾分か落ち着いたものの、なお浅く荒い呼吸を繰り返しながら布団に沈むようにきり丸は眠っていた。
何気なしに掛け布団の端へ視線を落とし、そこでようやく気がついた。気が動転していたのと白い布団と重なっていたせいで見落としていたが、きり丸の身体を包むそれは私が今朝脱いだままにしていた寝着だった。
それに気づいた途端、胸の奥が静かにざわめいた。
たったこれだけのことになぜこんなにも心が揺れるのか。
ずっと見ないふりをしてきた、名をつけるには幼すぎて、けれど確かに胸の奥で脈打っていた──独占したい、手放したくないというこの思い。
そこには家族を案じるような親に似た情も、教え子を気にかけるような教師の慈心だけでは決してなかった。その奥底には、自分でも持て余すような泥濘のような濃い感情が確かに息づいていた。
……
このままいてはまずい。
そんな根拠もない、どうしようもない焦りに駆られて、私は静かに台所へ立ち上がった。
昨日学園から帰って隣のおばちゃんへ挨拶に行った際に味噌をお裾分けしてもらった。おばちゃんは何も言ってはこなかったが、昨日のきり丸の様子を見てほんの僅かに訝しげな表情を浮かべたあとにお裾分けをしてくれたので何か思うところがあったのだろう。
その味噌を使って、きり丸へ粥を作ることにした。
粥を煮ながら、私は先ほど胸の奥に芽生えた感情を静かに見つめ直していた。
いつからこんなにもあの子に執着するようになったのか。
…
そもそも、いつからあの子を気にかけるようになったのか。
そういった意味で言うなら最初から気にかけてはいた。家族がいない、入学金を全額たった一人で稼いで来たと聞いた時から自らの境遇とどこか重ねていた部分すらあった。
やがて教員の間で、きり丸が休みの間帰る場所について話題になった。本人はどこか適当に住み込みのバイトでも探すと言っていたらしいが、放っておけるはずがなかった。担任として日々を共にしていくうちに、気づけば私はあの子にそれほどまで惹かれていた。
理不尽に全てを失いながらも、けっして奪う側に回らず、自分の手足を動かして学園までたどり着いた。そして今も何事も恨むことをせず、時には何かを諦めることはあっても、それでも前へ進もうとしている。
この長屋に来た時に本人にも言ったように、私達は「同じ」だ。しかし「同じ」であっても、あの子は私とは全く正反対の違う道を今も進んでいるのだ。あの子の存在はとても眩しすぎる光であり、希望だった。
学園の外でも共に過ごすようになってからというもの、私は光であるあの子にますます惹かれ続けた。やがてあの子は私の愛のすべてを映したような存在にまでなった。
そこで立ち止まるべきだった。
……
いや、大人して、立ち止まらなければならなかった。
けれど私は、それができなかった。
あの子に惹かれ続け、いつしか求めるようにさえなってしまっていた。
そのことからずっと無意識に目を逸らし続けていたのに、先ほど私の寝着に包まれて眠るきり丸を目にした瞬間、嫌というほどそれを思い知らされてしまった。
一度自覚してしまった以上、今更引き返すことも、止まることもできない。
ならば、きり丸とこれからたくさん話をしよう。
幸いにもきり丸が忍術学園を卒業するまで、時間はまだたっぷりと残されている。
まず、今度は私に体調が悪いことを素直に打ち明けてくれるように。
そしてずっと、いつまでも私の隣にいてくれるように。
一人決意を固めた頃には、ちょうど粥も炊き上がっていた。
きり丸には「味が濃すぎます」なんて怒られてしまいそうな仕上がりになってしまったが、普段が薄すぎるのだから丁度いいくらいだろう。
私は粥の入った椀を手に、きり丸が眠る布団の方へ戻った。
◆
「せんせー、早く帰りましょう!」
長屋へのいつもの帰り道。
きり丸が愛らしい笑顔でこちらを振り返りながら、私の数歩先を歩いている。
……
けれどその体躯は、以前の帰り道の時より確実に痩せ細っていた。
きり丸が以前より痩せ細ってしまったのは病によるものではない。前の休暇中に崩した体調は医者に診てもらいきちんと休養をとったことで順調に快復し、後に引くような症状も一切残っていない。
──原因は、他でもない私だった。
秋口に入る前、私は自らの失態からあろうことか忍術学園の敵に回り、更にはきり丸を一人にしてしまった。
いつまでも隣にいてもらえるよう決意を固めたのにこの有様だった。
しかしきり丸はそんな私の不始末にもかかわらず、敵地にまで足を踏み入れて共に帰る場所を私に示してくれた。
更には食事もまともに摂らず、自らの命より大切だという銭を稼ぐことすらもせず、私を探していたと聞いた。
きり丸が痩せ細ってしまったのは私を探していたからだというのだ。
きり丸も、私のことをそれほどまでに想ってくれていたと、
…
求めていたというのか。
このことを聞いた時から、私の中で何かが微かに、しかし確実に軋み始めた。
胸の奥にかろうじて置かれていたはずの歯止めのようなものがずれていく感覚がした。
あの子がそこまでして私を探していたと知ってしまった今、もう以前のようには戻れない。
守るや導くといった綺麗な言葉ではもはや誤魔化せない。
自らの失態が原因だというのに、あの子の時間も想いも、こうして削られていった理由の全てが私へと向けられていたのだと思うと、手放すという選択肢はもうどこにも残されていなかった。
きり丸と、これからたくさん話をしよう。
幸いにもきり丸が忍術学園を卒業するまで時間はまだたっぷりと残されている。
私はもう二度と手放さないから、きり丸が私の隣から離れることなどないように。
いつまでも、帰る場所を共にできるように。
「先生何してるんですか!早くしないと日が暮れちゃいますよ!」
「すまん、そうだな。
……
一緒に、帰ろう」
私はこちらを向いて待っていてくれたきり丸が呼ぶ方へ、迷いなく足を進めた。
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