そらまあ彼らの視界から見れば私は悪役だろうね。彼らには彼らの人生があり、自分が主人公で正義なのだから。そうでなければ上手く息ができないだろうし。正義だと思うこと自体は否定しないさ。ただ、たまには振り返ったほうがいいんじゃないかとは思うけどね。
掟に則り海へと突き落とした私は所謂「悪役」というというものになる。人生を劇と例えるのならば。彼らの人生からみたとんでもない極悪人だろう。
そのことはよく考える。誰の人生から見ても正義側の人間であるなんて不可能だ。そんなものは存在しない。誰かにとっての正義であるということは誰かにとっての悪であることとセットだ。どちらも嫌ならばもはやこの世界に存在ができない。穴蔵で暮らせばいいんじゃないか?おっと、言い過ぎかな。
もう少しくだけた言い方をすると、誰からもよく思われたいなんて無理だよって話さ。自分が大切に思う誰かにとっての正義でありたいと努力することくらいしかきっとできないよ。そして何かを選択する以上、誰かの間違いになるんだよ。そんな話だ。いやはや話が逸れたね。
うん、絶対的に正しいとは何か。そんなもの分からない。私海賊だし。奪う側の人間が何を言っているのかって話だろうがね。
私が連ねた掟は私の船でのルールであり、他所では関係の無いものだ。そこまで押し付けたりなんかしないさ。神様じゃないんだから。
あくまで私の船に乗るからにはの話。相手方の船のルールなんざ知らないよ。好きにしたらいい。
それを私は尊重しよう。それがどんなに虫唾が走るものであろうと私は尊重する。その価値観を否定し踏みにじる権利は私には無いからね。
ただ、こちらの領域に土足で入るというのであれば容赦はしないという話だよ。ましてや私の船に乗り、その上で好き勝手に暴れるというのであれば尚更だよ。
私は彼らを尊重する。
私は敵船を尊重する。
私は掟を破った船員も尊重する。
尊重するからこそ魚の餌にするんだよ。
じゃないと私は彼らを見下し、舐め腐っているってことになるだろう?
これはかっこつけみたいだし、エゴとも言えるのかもしれないからなんともなんだがね、私は海に落とした彼らのことを忘れる気はないよ。
罪悪感とか許しとか、全然ないけど。後悔とかないし。
...え?....うーん、なんか、そう言われると反応に困るよ、以蔵。
てっきり薄情だのなんだのと言われると思って...いや、君はそんなこと言う人じゃなかった。申し訳ない。分かってたはずなのにな。
ん"ん"、そう後悔はない。罪悪感もなければ許すこともない。ただ、確かにあの日々を過ごしたことは変わらない。無邪気に笑う彼らの顔を今も思い出す。船乗りに向いたよく通る声だった。港から連れ出したときは下を向いてばかりだった彼らがおかしくて仕方ないと笑う姿を今でも思い出せる。
その時間は確かにあった。あの時間を愛おしく思う。よくある過去を美化しているだけなのかもしれないが、そのうちの4割くらいは本当のことであってもいいんじゃないかなと思う。
笑ってくれると嬉しかったよ。よかったと思ったとも。こんなに無邪気に笑うのかと思ったよ。
海賊に安らぎなんて言葉は馬鹿らしいと思うけれど、彼らの心が少しでも自由になってこの海に愛されればいいと思っていたよ。
それは変わらない。全てが変わった今でさえ。
もう私はここに一人だけれど。ろくでもない結末を与えたことは事実でも。
あの日々を私は否定しない。彼らはどうかしらないが。あの日々が愛おしかったこと、あの無邪気な笑顔に安心したこと、少しでも自由に生きてくれと願ったことは今も否定しない。変わらない。
彼らは死んだ。私がこの手でやった。突き放した。
それも変わらない。
全部なかったことにはならない。良かったこともそうでなかったことも。後悔はしていない。
後悔はしない。許しもしない。
ただ変わり果てる彼らを見ながら怒りを覚え、それと同時に悲しみを感じたことは確かだ。
ああ、そう。
きっとひどく悲しく思った。
それは確かなことだ。
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