白殊皎(しらよし こう)
2025-12-10 20:00:00
2327文字
Public FGO【歳勇/土近】
 

爛漫に咲くを愛でる

この作品はぐだ鯖WEBオンリー『ボイラー室横より愛をこめてW 』に連動して、白殊が勝手に考えた【白殊に歳勇小説リクエストを投げつけよう】企画にてリクエストいただいたものになります。

◆リクエスト内容
「土方さんを振り回しまくるフリーダム近藤さんの歳勇」

北海道旅行(なのか? あれは)でわんこ三匹連れてきてしまう辺り、吹っ切れて新選組以前に戻ってしまった近藤さんはきっともっとすごいと思いつつ、楽しく書かせていただきました!
近藤さんにはストームボーダー(または南極カルデア)の中を興味津々で走り回って欲しいです。
リクエストありがとうございました!

 べったりとガラスに張り付いてストームボーダーの外を眺める人物がいた。
 それは浅葱混じりの黒髪を靡かせ、浅葱の羽織を身に纏った美丈夫で……
「歳。いつも思うんだが、これは本当の景色なのかい!? こんなものが空を飛んでいるなんて信じられない!!」
……近藤さん」
「それに、外つ国も日本も、こんな真っ白になっているなんて……何があったんだ!?」
……近藤さん」
「歳! あっちの部屋はなんだい? 行ったことない! 入ってもいいのなら行こう!」
……近藤さん」
 ぱたぱたと楽しそうな足音を立ててその人物は廊下を走る。
……近藤さん」
 土方歳三は溜息をつきながらその後を追いかける。
 行き先はエンジンルームだった。
「なんだいなんだい。あぁ、この間来た新顔か。ここに面白いものはないよ!」
「いや、この大きな船を支える英知の結晶がここかと思うと、大変興味深い場所です!」
 ネモ・エンジンはその姿を認めると軽くあしらったが、相手が食いついたのでおや、と言うような顔をする。
「しょうがないな、ちょっとだけだぞ。あんまり妙なところは触るなよ」
 まんざらでもない顔をして見学を許す。
 この調子で日々彼は個人の部屋以外、様々なところに特攻している。
 その都度追いかけて事情を説明し、許可を取り付けるのは土方の役目だった。

──今更かもしれないが、その人物とは近藤勇。

 先だっての特異点の解決後、縁が繋がれてこのカルデアに名を連ねた一人である。
 そして土方の想い人でもある。

──告白は……まだしていない。

 そもそも、するヒマがない。
 カルデアに召喚された当初近藤はかの京の特異点で姿を現した黒の剣士の姿だった。
 これは手強いかもな。
 その時土方はそう思った。
 なんせその姿は自分たち──いや自分が追い詰めた果ての姿。
 マガツヒノカミの力を取り入れ、現界している隊士たち全てを贄に新選組を消し去るのだと思い詰めた姿。
 そんな姿で現れたのだから、警戒しないはずがない。
 その存在にではなく、その心の中に。

 だが……それは杞憂に終わった。

 注がれたカルデアの魔力リソースがどう作用したのか、近藤は元の姿を取り戻した。
 そして何を吹っ切ったのか、まるで新選組を結成する前の多摩にいた頃のような天真爛漫さまで一緒に取り戻したのだ。
 そうなると忙しくなるのは土方だった。
 毎日のようにストームボーダー内をはしゃぎ回る近藤を追いかけて回る。
 初めは近藤は無理にそうしているのではないかと心配をした。
 正直、近藤は自分の心を押し隠すことが巧い。
 特異点で自分が成したことに対して、自責の念を隠すためにこうしているのではないかと思ったのだが……
 夜になっても朝になっても昼になっても、このはしゃぎようは全くと言っていいほど変わらなかった。
 三日目の朝に問い詰めた。
 あんた無理をしていないか? と。
 そうしたらきょとん、とした顔で『何をだい?』と聞き返されてしまった。
 土方とて伊達に近藤の傍にいたのではない。
 嘘をついているかそうでないかくらい見分けはつく。
 つまり、近藤は心底カルデアここでの生活を楽しんでいるのだ。

──ということで、連日の追いかけっこである。

 ストームボーダー内はほぼ回り尽くしたと思うが、まだまだ近藤の興味を引くものは多そうだ。
 食堂で珍しい料理が出てくれば目を輝かせて頬張るし、少女マスターと共にレイシフトなんぞに出かけようものなら、綺麗な魚が見えたとか言って川に飛び込みそうになり、藪をつついてヘビを出すではないが気の荒い現地の生き物を虎徹の先でつついてみたり、その辺りに飛んでいるチョウチョまで追いかけて何処かに行きそうで気が気ではない。
 その変わり様を見たマスターはしみじみと、近藤さんってあんな人だったんだねと溜息をついた。
 昔を知っている土方はともかく、特異点での近藤しか知らないマスターにはかなりの衝撃だったようだ。

──その様子に、土方は嬉しくもありまた心苦しくもあった。

 あの暗い影を宿した目をしていた近藤が、昔のように自分と沖田を可愛がり、重荷から解き放たれたように振る舞う姿は、あまりに眩しくて。
 その輝く笑顔を自分は曇らせていたのかと。
 己が担ぎ上げたせいであのようにしてしまったのだと。
 だから、少し距離を置こうとも思ったが、それは近藤が許してくれなかった。
 何をするにも、第一声が自分を呼ぶ声なのだ。
 世話のかかる兄貴分──マスターにはそう語ったらしいが、そんなことは全く苦には感じない。
 こんなことは迷惑のうちにも、世話のうちにも入らない。
 もっと、もっと面倒をかけてくれて、振り回してくれて構わない。
 もう永遠に巡り会うことはないと思っていた相手が、今ここに自分の隣にいるのだから、これ以上の歓喜はない。
「歳! 甲板に出られるんだって? 行ってみたいと思わないかい?」
「待て待て、近藤さん。外は風が強すぎる、今はやめとけ」
 吹き飛んじまうぞ、と付け足そうとしたところに近藤は廊下の先にマスターの姿を見つけて、駆け寄っていってしまった。
 おそらく甲板に出る許可を取り付けるつもりだろう。
「歳!!」
 嬉しそうな声が聞こえて近藤がマスターの傍でぶんぶんと手を振っている。
──やっぱりな。
 土方は苦笑しながらそちらに歩を進める。
 ずっとこの時が続けばいい──土方はしみじみとそう思った。
 できればもう少し落ち着いて、自分の告白を受けてくれれば最高なのだが──と心の中で付け足しをして……