usagipai
2025-12-10 16:49:58
2709文字
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温泉


湯面がゆらりと揺れるたび、檜の香りがふわりと立ちのぼる。
大きな湯船に肩まで浸かったパルは、両手を伸ばして思いきり背伸びした。

「くっーーー!! 一仕事終えた後のお風呂って、本ッ当に気持ちいいよねぇ〜!!」

ぱしゃっと水飛沫が上がり、その勢いに隣のウィネットが目を瞬かせる。

「お姉様ったら……ふふ。今日はレジスタンスの方のお仕事でしたっけ?」

「そうそう! 商店街のみんなも元気そうでさ。あっ、今度みんなで遊びに行こうよ。——って、さっきからウィネット何してるの?」

パルが首を傾げると、ウィネットは胸元を両腕で押さえながら、小さくもじもじと体を沈めた。

……あ、その……抑えてないと浮いてきちゃって……あっ、ちょ、触らないでくださっ……ひゃあっ!?」

ぴとっ、と指先が沈む。
パルは悪戯っぽい笑みを浮かべて、つん、と二度ほど突いた。

「ふふ、ごめんって。でもさ、本当にぷかぷかして……ウィネットのお胸、柔らかいね! ぼく、こんなに柔らかくないからちょっと羨ましい〜」

「お姉様は鍛えてますもの。筋肉で引き締まってますわ」

そこへ、湯の縁に腰掛けて髪をタオルで押さえていたファリスが、にやりと口を開いた。

「ねぇパルちゃん? ウィネットだけずるいわよ? ほら、私のお胸も触ってみる?」

「えっ……ファリスのお胸もなかなか……むむ……これはこれで……

楽しげに揉み心地を比べ始めるパルに、湯船の奥から低い声が飛んだ。

……何くだらんことをしているんだ貴様は、ここにはステラ様もいらっしゃるのだぞ!」

オリエンスが真っ赤な顔で立ち上がり、片手で湯気を払いながら怒鳴る。
しかし、当のステラは湯に頬を染めながら柔らかく笑った。

ステラがオリエンスの背に腕を回したまま、しっとりと頬を寄せる。
細い指がするりと肩をなで、湯気の中で控えめに笑った。

「ふふ……別にいいのよオリエンス。女同士だもの。それに——あなたも本当にスタイルが良くて柔らかいわ。ほら、こうして……

「ステラ様!? ちょっ……こ、こうして抱きつかれると……ゴホン……っ!」

湯縁に背を預ける形で抱きしめられたオリエンスは、耳の先まで真っ赤に染まった。
普段の凛とした表情が崩れ、目を泳がせながらもステラの腕を払いきれない。

そこへ、パルがごく普通の調子で言ったのが引き金だった。

「というか! 逆になんで揉まれても動じないのだお前らは!!」

ばしんと湯が揺れる。
思わず立ち上がったオリエンスに、レンと恋蓮は肩をすくめた

「えーだってウチら、トレーナー達にお触りさせられたりしてたし? 慣れちゃった的な?」

「レン姉様!?ほらほらそういうことを言うと——

「あっー待って待ってイチゴさん殺意抑えてーー!!!!」

湯の奥でタオルを握りしめたイチゴが、鬼のような気迫で立ち上がりかけていた。
顔は笑っているのに、目だけがまるで氷のように冷たい。

「ふふ……あいつら、まだそんなことをしていたの? また今度“しば……いえ、お話”させていただきますわ。その間は恋人たちのお家でゆっくりしてくださいな」

「話し合いになるのかな……

ウィネットがぼそりと呟くと、隣のリヒテンがぽちゃんと肩まで沈みながら言った。

「むむ……警察としても見過ごせませんし、何かあればすぐお知らせくださいね……

「リヒテンさん、イチゴさん……ふふ、ありがとね〜!その時はまたよろしく!
でもさぁ、それより〜ウチ知ってるよ〜?」

パルがにやりと笑い、湯の中で指をくるくる回す。

「リヒテンさんさ〜、家族できたんしょ! インテレオンのお兄さんから聞いたよ〜。
そういうお話もさ、たまには聞かせてよ!」

「へっ!? おっ……夫と……あ、あの子のことです……か、わ……わわわ……

リヒテンは湯を跳ねさせて狼狽え、頬だけでなく鎖骨まで真っ赤に染めた。
ふだんは落ち着いている彼女が、ここまで動揺するのは珍しい。

「その……まだ私も信じられないくらいの幸せなので……
で、でも……もしよければ……今度ゆっくり……

「わ〜照れちゃって〜!!」

レンが身を乗り出して茶化すと、湯の中はまた笑い声で満たされた。
あたたかな湯気がゆらゆらと立ちのぼり、誰の肩の力も自然と抜けていく。
まるで、戦いや日常の重さを一時だけ忘れて良いと、湯がそれを包み込んでいるかのようだった。




一方その頃

男湯

湯けむりがもわりと立ちこめる男湯は、女湯の賑やかな声がかすかに聞こえるほど静か……
……だったのは数十秒前まで。

「ひょー……胸がデカいとな……なぬー! 揉み合いっこしとるぞ!!!」

仕切りの向こうに耳を寄せていたリョウランが、目を輝かせて叫んだ瞬間——
ごつんッ!!!

「いってぇえええええ!!!!!!」

すかさず背後からゲンコツが落ちた。
腕を組んで仁王立ちしていたカガリが、心底呆れた顔で髪をかき上げる。

「このエロジジィ!……まったく……お前は油断も隙もない奴だな」

「も、もみあ……? な、なに言ってるんだ……

湯に沈んでいた若手の棗が、耳まで真っ赤にしながら湯面に目を逸らす。
彼の視線は決して仕切りの向こうには向かない。
向けられるはずがない。

そんな空気をよそに、リョウランは頭を押さえながらまだぶつぶつ言う。

「いやいやいや……聞こえたもんは聞こえたんだって……——

「言わなくていい!!」
カガリは慌てて湯をばしゃりとはねさせ、顔を覆った。



少し離れた岩風呂では、ケリーヴァが肩まで湯に沈み、隣でぼんやりしているモパモパをちらりと見る。

「ほらモパモパくん。ここの温泉、肌にいいんだって。疲れも取れるらしいよ……
…………で、この手なんだい? ケリーヴァさん」

モパモパは気付いた。
自分の肩に、なぜかケリーヴァの大きな手が置かれている。

「ん?」

「ん?じゃなくて!!」
ウィスペルが湯から半身を乗り出す。

「あんた、エルダーサークルのエリアあるでしょうが!! そっちで入ればいいものを!」

「君たちがここにいるからな」

即答したケリーヴァは、湯の温度と同じくらい平然としていた。
その不動さに、ウィスペルはこめかみを押さえる。

「っ……あーいえばこー……いう……っ!!」

結局、男湯も静寂とは無縁だった。
湯気にまぎれて、それぞれの声が生き物のように反響していく。

どこもかしこも、賑やかで——けれど心地よい、そんな夜だった。