ortensia
2025-12-10 07:46:56
1128文字
Public 傭リ
 

謎時空聖地(そのままの意味)巡礼(はしてない)傭リ


 ある教会での話だ。と言っても、ロマンチックな話ではなく、かと言ってカルトな意味でもない。
 もう既に廃屋となってしまったそこには、かつての栄華を、ただただ醜いものとして教えを下しているだけだ。
 突然廃墟が見たいなどと言ったノッポ野郎は、成る程この場によく似合う。ひとのことは言えないかもしれないが、おれの場合きっと、年月が然程経っていない、ついさっき爆破されたような場所だ。
 その場所で、男は女神像を見上げていた。おそらく主人公のほうである十字架は、根本からぽっきりと折れた挙句、ここには跡形もない。誰かが持ち去ったのだろうか。兎に角残されたヒロインは、この場で異形の長身の目に晒されている現状だ。まあ、神話の登場人物をそんなふうに称してはいけないのかも知れないが。
「碌なこと考えてないだろ、このスケコマシ。」
 睨んだ先で、漸く男がこちらを振り向く。
 にまりと笑っていることが分かる。廃屋に差し込む光の加減なんかじゃない。
「手の届かない相手こそ、爪の先だけでも引っ掻いてずたずたにしたいではありませんか。」
「爪の先だけとか言っときながらずたずたかよ。」
 やっぱりな。呆れて溜め息をはく。廃墟なんて間違いなく埃っぽい所の筈だが、何故だか神聖な空気のような気もする。
「マリアって、つまりクマリだろ。確かに大人の女に見えるが。」
「クマリ……おまえの国の女神ですか。」
「おれはネワールの民じゃねえけど、グルカとカトマンズは近いからな。」
 一呼吸置く。故郷に程近い情景が浮かぶ。
「女神に手を出そうとした王がいた。結局はその前に消え、自らの罪を反省した王に、女神が声だけで言った。自分は二度と肉体では現れないが、代わりに幼い少女を崇めよ、その少女を通して助言を授ける。……そういう話だ。」
 男は珍しく、大人しく聞いていた。
「おまえはわたしが手を出して、それを反省すると思う?」
「いいや。」
「じゃあ、わたしは消えて、もう二度と姿を見ることが出来なくなると思う?」
……おまえは慎重な奴だが、時が来れば抑えが効かずに、現れてまた騒ぎを起こすんだろ。」
 男は一頻り笑った。教会はよく響く。
「成長した少女の女神はどうなるんです」
「退役する。」
「そんな軍人みたいな。」
「なら言い換えれば良いか?普通の生活に戻るんだぞ?」
 男はこちらを見詰めている。
「普通の……店の従業員とか。」
「嗚呼……おまえは向かなそうな。」
 おまえだってそうだろ。
 自分への興味が失せたノッポのことも、初めからさして関心がないおれのことも、変わらず女神像は見下ろしているようで、何処を見ているのか知れなかった。
 廃墟はやっぱり埃っぽかった。


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いつもリアクション絵文字等ありがとうございます。