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ふじまる
2025-12-09 21:42:20
2962文字
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ダタユリ
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優しさとは
ダタユリ(カプ未満)と子供の話
「英雄様、おれにもお菓子ちょうだい」
「え?」
そのまっすぐな声に足が止まる。そして、気づいたときは声の方に足が向いていた。
「えと
…
?」
「ちょっと前に他の子にお菓子あげてるの見た。だからおれもほしい。英雄様は、困ってる人をたすけてくれるんでしょ?」
薄汚れた服をまとい、細い足と腕をさらした子どもが真っ直ぐ目の前の人物を見上げて菓子を強請る。この国では珍しくない光景。普段なら気付かないふりをするところだが。
「えっと
…
うん、いいよ。何がほし」
「よお、坊主」
「っ!?」
人当たりのよい笑顔で承諾する人物の前にしゃがみ込んで子供に声をかけると、横にいる英雄様も子供もビクリと体を跳ねさせた。
「
…
ぇ?」
子どもが震えた声で、俺のほうをじっと見る。その目は明らかに怯えていた。大きな目をキョロキョロと泳がせると、素早く英雄様の足の後ろに身を潜め、影からこちらを見つめてくる。
「だれ
…
?」
ぎゅ、と英雄様の服を掴む小さな手。
「ダタくん?」
「よお、英雄殿」
軽くかわされる言葉に子供は、俺と英雄の顔を交互に見て何か言いたげに英雄を見上げる。
「あ、えっとね?」
「英雄様のオトモダチだ」
「えっ、友達?」
「おともだちなの?」
英雄と呼ばれる男から聞こえた言葉にふは、と笑えば、友達と聞いて興味がわいたのか子どもが影から少し前へ出る。
「坊主、菓子が食いたいのか?」
「
…
!うん!食べたい!」
「で?何でこいつに言ったんだ?」
こいつと顎で英雄を指すと、子供は悪びれることもなく期待に目を輝かせて素直に答える。
「英雄様は困ってる人のお願いは何でも聞いてくれるって、お母さんや友達が言ってた!お母さんのともだちも、おじさんもおばさんも言ってたよ!」
「ふーん、で?」
「前に別の子にお菓子を渡してるのを見たから、おれも欲しいから、お願いしたんだ!」
「そうかそうか」
楽しそうに答える子供と、その言葉に何か話し出しそうな英雄に視線を送って目を細めると英雄はきゅ、と口をつぐむ。
「なあ、坊主。菓子が食いたいのはどうしてだ?」
「え?
…
えと、おれ、なんみん?なんだって。だから、あんまりご飯とかもらえないから、えっと」
「腹減ってんのか」
「
…
ん、ぅ、
…
うん
…
」
と、自分の腹を撫でる痩せた手を取ると、鱗だらけの手が珍しいのか子供はぱちぱちと瞬きをしながら、俺の手を見た。
「飯が沢山食いたいなら、人にたかるんじゃねぇ。それは悪い癖になる」
「え?」
「誰かの手を借りなきゃ、飯も食えねぇ人間になるんじゃねぇ」
「
………
」
隣に立つ英雄をみあげると、子供も釣られて青年を見上げる。
「こいつは確かに色んな人間を助けてきたかもしれない。でも、お前やお前の家族を助けるのはコイツじゃなくて、本来は国だ」
「国?」
「ああ、国だ。国がお前達を助けると決めたのなら、お前達が食えるように、働けるように助けるのも国だ。こいつじゃねぇ」
首を傾げる子供に少し難しかったなと苦笑すれば、子供は困ったように俯いた。
「どうすれば、くに?は助けてくれるの?」
不安そうな子供の頭にぽんと手を置く。小さくて丸くて、懐かしい感覚。
「ここはそんなに悪い国じゃねぇ。だから、いつか助けてくれる。だか、それを待ってちゃ腹は満たされねぇよな」
「
…………
」
「だから、その日までお前は沢山母ちゃんの手伝いをしろ」
「
…
え?」
「母ちゃん、友達、母ちゃんの友達、みんなの手伝いをしろ。困ってる人の手伝いをしろ。で、もう少しでかくなったら、今度は国の人を手伝え」
「ダタくん
…
」
小さく呼ばれた声に立ち上がると子供の手を引いて、近くの店でパイと飲み物を買い、子供の手にそれらを渡した。
突然の事に子供は、驚きと嬉しさで俺を見上げたのでその頭をもう一度撫でて、言葉を落とす。
「それはあげるんじゃねぇ、貸しだ」
貸しという言葉に子供は首を傾げる。
「食べちゃ駄目なの?」
「
………
ふはっ、食っていい。ただし、今日だけだ。明日からはまじめに手伝いをしろ。食って満足したら、その満足した分同じもんを俺に返しに来い。大人になったときな」
「
……
わかった!」
本当に分かったのか、そう聞かずとも、この子供はもう乞食のようなことはしないだろうというのはわかる、それでいい。嬉しそうに走っていく子供を見届けた後、また料理屋の店主から飲み物を買うと、それを後ろの英雄に渡した。
「俺にも貸し?」
やりとりと静かに見ていた英雄の言葉に笑う。
「お前、あのガキに菓子を買ってやったあとどうするつもりだった?」
「え?
…
その後って?」
きょとん、とした顔にため息をつきつつ、首根っこを掴んで人の少ないところへ連れて行く。
「ねえ、ダタくん。今の」
「あーいう物乞いのガキに手を貸すとキリがねぇぞ」
「え?」
「さっきの奴が言ってた「他の子」ってのにはあげたのか、それとも別の用だったのは知らねぇが、物乞いするガキってのは1人甘い汁を吸ったら、どんどん増えて、飯から菓子、菓子から金
…
そうやって欲しがるもんが変わっていくもんだ」
「でも、欲しいって言われたら
…
さ
…
」
「じゃあ、ここの国にいるガキたち全員養えんのか?」
「
……
それ、は
…
」
こいつが何で英雄になったのか、誰でも助けるという噂が広まっているのはきっとこういう「優しい」性格からなのだろう。
それを否定したくはないが、結果、その優しさと人の良さがこいつを「英雄」という化け物にしてしまったのではないのだろうか。
「物乞いに物をやるとどうなるか知ってんのか?」
「?」
「人からもらうことしか考えねぇ奴になるんだよ。生活が苦しくて、そうするしかないとしても一回貰えることを覚えちまったら、あとはずっと人の財布をあてにする。人の財布をあてにできなくなったら、次は奪う。そういう風になっちまう」
俺の親は、金欲しさに、安定した生活を手に入れるために俺を売った。それを覚えて、今度は生まれたばかりの妹も売った。働かず、地面に頭を擦り付けて子を売って金を貰う。子が産めなくて、金が貰えなくなったら、今度は俺に金品を強請る。
そういう人間になってしまった。
「
…
ダタくんみたいにすればよかった?」
「
…
さあな。お前は影響力がでかいだろ
……
いっそ国を動かすくらいできんじゃねぇか?英雄、なんだしな」
軽い冗談を交え、煙草に火をつけてふかすと、何かを考え込んだ英雄は「そっか
…
国を
…
」と呟く。
「わかった!ナナモ様に聞いてみる!」
「は?」
聞いたことのあるとんでもない名前に、つけたばかりの煙草を落とすと、律儀にそれを拾って笑顔で渡してくる男。
「じゃあね、ダタくん!」
「ぇ、あ?」
善は急げと走り出す背中に何も言えず、見送るしかなかった俺は、落ちて汚れた煙草を踏み消すとそれは大きな大きなため息を吐いてその場にもたれかかった。
「まじで国を動かす気か?
……
いや、まさかな」
その後、難民への支援が強化された事を知った俺は、改めてあの英雄の凄さを思い知ることとなったのであった。
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