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まきわ
2025-12-09 20:36:24
3339文字
Public
クロリン
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"Calling" my name
時期は曖昧ですが創後の先輩旅立ち後、多分付き合ってないです(?
悪夢を見た後輩君の話
夕暮れのオレンジ色の光が差し込むキッチンでリィンが夕食の支度をしていると、玄関の方で扉が開く音がした。
その音にぱっと顔を輝かせて、簡単に手を洗ってから玄関へ駆けて行く。
するとはたしてそこには予想通りの姿があった。
「クロウっ!」
弾む声と共に駆け寄るとクロウも笑ってリィンを見た。
「よぉ」
そう返しながらコートを脱ごうとしている手元にふと目がいった。
何か靄が立って
…
いや、ぼんやりと透けている。
「え
……
クロ
…
ウ
…
?」
不安がじわりと胸を掴む。
透けたクロウの手は半端なところでコートを取り落とし、支えを失ったコートはクロウの肩をずるりと落ちた。
「あー
…
わりぃな、リィン」
申し訳なさそうなクロウの声に、リィンは不安に揺れる瞳で彼を見上げた。
「限界、みてーだわ」
「え
…
」
なんの冗談だ、と引きつる口を動かそうとした瞬間、不吉な赤が視界に入った。
「
……
っ!」
どろりと赤黒い液体がクロウの左胸から溢れ出していた。
リィンはそれが何かをよく知っている。
同じものを見たから、この腕の中で。
「やだっ
…
いやだ
……
!」
リィンは咄嗟に手を伸ばしてクロウの胸に押し当てた。
溢れ出てくる血を押さえてせき止めればなんとかできるとでもいうように。
けれど赤い液体は指の間から、わずかな手のひらの隙間から次々零れ出して止まらない。
「
…
リィン、悪い」
もう一度、言い聞かせるようにクロウが低く言った。
「やだ、いやだ、やだやだやだっ
…
!」
リィンは駄々っ子のように首を振ってぐいぐいと手を胸に押し当てた。
「やっぱり
……
傍にはいられねぇみたいだ」
「いやだっ
…
!!」
叫ぶように言った瞬間どろりと溶けるようにクロウの姿が消え去った。
「うわぁぁっ!」
悲鳴じみた声をあげると同時に意識が覚醒して、リィンの視界は闇に沈んだ天井を捉えた。
その中に布団をはねのけて伸ばした自分の腕がぼんやりと見える。
「
…
はぁっ
…
はっ
…
夢、か
…
」
声に出したのは、そうやって言い聞かせないと絶望に胸を掴まれて叩き落されそうだったからだ。
リィンは無意識に突き出した腕を胸元に引き寄せて、温めるようにもう片方の手で包んで息を整えた。
(夢
…
夢だ
…
本当に?本当にあっちが夢なのか
…
?)
先ほど見た光景をはっきりと覚えている。
あの妙な生々しさは現実のようにも思えて、自分が記憶から消し去っているだけであちらが本当に起こったことなのではという疑念が心をざわめかせる。
クロウがちゃんと存在しているか確かめたい。
リィンは衝動のように枕元に置いていたARCUSを掴んだ。
が、同時に近くに置いてある目覚まし時計が指す時間が目に入って我に返る。
(こんな
…
深夜に俺の夢なんかで迷惑をかけるわけにはいかないよな
…
)
上半身を起こしてヘッドボードに寄り掛かり、連絡先リストにクロウの名前があることだけ確かめる。
けれど不安は去らない。
あの夢の中で消えたクロウは蘇った後の姿をしていた。
蘇ったけれど、結局消えてしまった、それを記憶から消し去っただけだったら?
「違う
…
違う
…
」
リィンはARCUSを抱き締めるようにして膝を抱いた。
あれは夢、ただの夢、落ち着け、と自分に言い聞かせて呼吸を整えようと試みる。
「クロウ
…
クロウ
……
っ」
それがよすがであるかのようにARCUSを握り締めて、迷子のように名前を呼ぶ。
体が小さく震えて落ち着く様子がない。
朝までこうしているしかないのか、と絶望的な想いで考えた時、何かぷつっと通じたような音がした。
『んー
…
リィン
…
?どうした
…
?』
「え、は
…
!?」
閉じたままのARCUSから微かに光が漏れている。
リィンはおそるおそるそれを開いて耳に押し当てた。
「く、クロウ
…
?」
『おー。どうしたー』
半分寝ぼけたような声が優しく耳に届く。
間違いなく通信が繋がっている。
けれど間違いなくARCUSは閉じたままだったから、どうやってもかけたはずはないのだ。
「
…
いや、その。すまない、寝ぼけてかけちゃったみたいだ」
戸惑いはあったがこんな時間に妙な事をいってクロウまで惑わすべきではないだろう。
この場は誤魔化しておくことにした。
『おー、そーか。めずらしーじゃん
…
』
ぼんやりと答えるクロウの声に苦笑して、リィンは座ったまま掛け布団を膝まで引き上げた。
「起こしてすまなかった。こんな時間だし、もう切るよ」
『あー
…
別にいーぜ。明日なんもねーし
…
あ、でもチェックアウト10時までっつってたか
…
。まいっか、過ぎたら起こしにくんだろ』
「いやだめだろそれ。ホテルの人に迷惑をかけるんじゃありません」
クロウらしい、いい加減で調子のいい物言いに思わずツッコミをいれるとくす、と笑う声が聞こえた。
『ならお前が起こしてくれよ。どーせ早起きすんだろ?』
「え」
朝もう一度声が聞ける。
魅力的な提案に心がふわりと浮き上がる。
『
…
怖い夢でも見たのかよ?』
そこに不意打ちのように図星を刺されて今度はリィンの心臓が大きく跳ねた。
「
…
そう、かも。覚えてないけど、夢を見て起きたような気はする」
誤魔化したのは、あんな夢の話をクロウにはしたくなかったからだ。
クロウは特に追及はしてこず、ごろりと寝返りを打った気配と吐息の音だけがした。
『ま、忘れてんならその方がいいんじゃねーのか。知ってるか?夢を記録しようとした奴がいて、起きたら毎回すぐにメモを取ってたらしいんだが、その内気が狂っちまったらしいぜ』
「それは
…
いやだな」
あんな夢を記録していたら、意味は違えどリィンもいずれ気がおかしくなるだろう。
『だから忘れちまった方がいいんだって。ただの夢なんだし』
覚えてない、と言ったのに、怖い夢を見た前提で話してくるからきっと全部見抜かれているのだろうと思った。
リィンはまた膝を掛け布団ごと抱き寄せた。
「
…
うん」
『
…
今の現実に満足してんだろ?だったら夢くらい好きにさせとけよ』
「
…
うん、うん」
泣きそうになるのを堪えて揺れる声で答える。
確かに満足している。大変な事もあるけれど、これ以上ない結果を確かに掴み取ったのだから。
不安で惑わそうとする夢など気にする必要はないのだ。
ず、と鼻をすする音をたててしまって、でもきっと泣きそうになっていることなんか気付かれているだろうなとも思った。
『それでも気になるんだったら、オレ様が添い寝してやるよ』
「え」
それは効果的すぎる悪夢対策だ。
そんな迷惑はかけられない、と普段のリィンであれば言うところだったけれど、そういう言葉はクロウ相手にはなぜか出てこない。
「
…
いいのか?」
『おーよ
…
今なら
…
腕枕つき
…
で
…
』
語尾に穏やかな寝息が続く。
どうやら本当に眠かったようだ。
そんな中起こしてしまったことを申し訳ないと思いつつ、それでもこうして付き合ってくれたことをありがたいと思う。
「ありがとう。おやすみ、クロウ」
『んー
……
』
うわ言のような返事に小さく笑ってリィンは端末を耳から離した。
どうやって繋がった通信かわからないから切り方もよくわからなかったが、幸い通信終了ボタンを押したら切れてくれたようだ。
試しに通信履歴を開いてみると、確かに先ほど繋がっていたはずのクロウとの履歴はそこになかった。
けれどもう夢だったのかと不安にはならない。
(明日、10時チェックアウトって言ってたよな)
半分寝ぼけていたから起こしたらびっくりするかもしれない。
その時の反応を想ってリィンは思わず笑みを零した。
もそりと布団を被って寝転がる。
心はふわりと温かく、何かに包まれて守られているかのように心強かった。
これなら心配なく朝まで眠ることができそうだ。
もし万が一もう一度悪夢を見てしまったら朝起こした時にこう言えばいい。
『約束通り、添い寝しにきてくれ』と。
しばらくのち、クロウがあの不思議な通信について教えてくれた。
夜中枕元のARCUSからリィンの鳴き声が聞こえてきて、何事かと繋いだらしい。
「それはホラーだな
…
」と返しながら、リィンはそれでも不気味に思わず応えてくれたことに改めて感謝を感じたのだった。
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