白殊皎(しらよし こう)
2025-12-09 20:00:00
1635文字
Public FGO【歳勇/土近】
 

刹那の刻に

この作品はぐだ鯖WEBオンリー『ボイラー室横より愛をこめてW 』に連動して、白殊が勝手に考えた【白殊に歳勇小説リクエストを投げつけよう】企画にてリクエストいただいたものになります。

◆リクエスト内容
「戦闘中の黒剣の近藤さんの強さ見惚れて、かっこいいと思う土方さんの土近」

書く時の参考に、黒の剣士の近藤さんの戦闘モーションを観まくりました。
やっぱり格好いいですね……。
好きです……。
あれで土方さんとの連携プレーがあったらいいなと思って書かせていただきました。
リクエストありがとうございます!!

 美しい。
 その剣も、紅を従えた漆黒の衣装がひらめく様子も、あけの波濤を纏い宙を舞うその姿も。

 戦闘中にも関わらず土方歳三はその姿に見惚れた。
 今までの自分はそんなことを考えることはなかった。
 ただひたすらに目の前の敵を屠ることにしか意味を見いだせなかったから。
 それが変わったのは……目の前の男が同じ場所に立つようになったからに他ならない。

──近藤勇。

 己が何よりも求め、死してもなお再び巡り会うために走り続けたしるべの星。
 今の彼は自分が知る姿とは全く違ったものになっている。
 京の特異点でマガツヒノカミの魔力を受けて変容した黒の剣士と呼ばれた姿だ。

 だがそれは土方にとって大した問題ではない。
 どんな姿であれ近藤は近藤なのだから。

 浅葱の羽織の姿も、片袖を脱いだ着流しの姿も美しいことには変わりないが、取り立ててこの姿は美しいと思う。

「──歳。何をしている」
 ぶん、と血糊を払うように虎徹を振り、黒の剣士は土方を振り返る。
 目の前のエネミーは既に息絶えているので、危険はない。
「あぁ。あんたに見惚れてた」
 うっとりとした表情でそれに返す。
「は?」
 あからさまに不審を宿した声で近藤は怪訝な顔をする。
「俺に見蕩みとれるなど、目が頭がおかしいのではないか? 医者に診てもらえ」
「ふ。あんな医者の所に行くくらいなら、死んだ方がマシだな」
──それに、と続ける。
「あんたは美しい。誰でも見惚れるさ」
 ニヤリと笑って前に垂らした緋と浅葱の髪を手に取り、口吸いを落とす。
「──ッ……
 その手を振り払って近藤はほんの少し白磁の肌を赤く染めた。
『いちゃついてるヒマはないよ! 第二波の襲来だ!!』
 カルデアから通信が入る。
 ぐるりと周囲を悪意の塊たちが取り囲む。
「死にたい奴から掛かって来るがいい」

 次は蒼。

 虎徹を地に突き立て、力を凝らした次の瞬間、近藤は目も止まらぬ速さで敵に斬りかかっていく。
 一閃二閃と無人の野を行くように獲物を振るう。
 己が斬られたこともわからぬ異形は戸惑う様子を見せたあと、血飛沫を上げて地に伏せていった。
「歳!」
 短く叫んで、近藤が土方に向かって走る。
「おぅ」
 その声を受けて土方はぐっと足に力を込めた。
 跳躍し、その肩を踏み台に近藤は常になく空高く舞い上がる。
「黒剣よ、誠を貫け!」
 空中で深紅の衝撃波を放ち、エネミーに浴びせると、くるりと空中で身を翻し地に降り立つ。
 その姿はまるで優美な揚羽蝶のようで再び土方を陶酔させた。

──あぁ、本当にあんたは……
 土方にとってはどんな軍神いくさがみより尊い、その姿。

 だが──

「歳、終わりか?」
「そのようだ」
 戦闘の終わりを確認しても、近藤は刃を下ろさなかった。
 彼は、虎徹を収めるべき鞘を持たない。
 常に抜き身のまま携え、常に戦えるようにしている。
 武人としては常の心構えなのかもしれないが、土方にはそうではないような気がしている。
──この姿の近藤は……戦うことでした己を見出せないのだと。
 傷付き、血を流すことが自分の存在意義だと思い込んでいるのかもしれないと。
 言っても『おまえに人のことが言えるのか』と一笑に付されるだけだろうが、土方はそうではないと伝えたかった。
 誰も、彼が傷付くことは望んでいない。
 傷付いていいなどと思ってはいない。
 それは何度も伝えた。
 幾度伝えようと、この姿の近藤は聞く耳を持たない。

──あぁ、出来ることなら……
 叶うのなら今にでも、彼を抱きしめその凍り付いた心を溶かし暖かいもので満たしてやりたい。

「進むぞ、歳」
 ただ今は、信頼を置いた声で自分を呼んでくれることだけ、それをよしとして傍らに立つしかない。
「あぁ」
 短く答えて、そのあとに続く。
 いつか、そのままの姿で微笑んでくれることを望んで──。