77nairo
2025-12-20 23:00:00
1006文字
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どこ行く? なにしてる? なに食べる?


 松本が帰宅して居間の明かりを点けたとき、部屋のど真ん中に鎮座するこたつには、皿に載せたりんごが最後に見たときと同じ姿で残っていた。今朝、松本が家を出る前に切っておいたものだ。塩水に浸けたおかげで茶色くなってはいないけれど、表面はカピカピに乾いている。庭木に刺しておけばヒヨドリかなにかが食べにくるだろうか。
 そんなことを考えながら、りんごの隣にコンビニの袋を置く。それを待っていたかのように、こたつ布団がもぞもぞと動いた。
「こたつで寝てたのか?」
「んん」
 こたつ布団から顔だけ出した一之倉が、ほんの小さく首を振った。まだ頭が痛いのかもしれない。額に触れようと伸ばした松本の手は、一之倉の手に捕らえられた。
……冷たくてきもちいい」
「やっぱりまだ熱いな」
 一之倉が発熱したのは一昨日。インフルエンザと診断されて薬を飲んだのが昨日。そうすぐに症状が治まるわけがないとわかっていても、待つしかないというのはなんとももどかしい。
……こんな時にごめん」
 掠れた一之倉の声は、普段よりいっそう低い。薄くまぶたを開いた一之倉が、松本の手に頬を寄せた。師走の外気で冷やされた手が、熱い頬に触れてじんじんと痛む。
「こんな時って?」
「年末で仕事が忙しくて……ウインターカップも始まるし……」 
「気にするな」
 実際、先週まで松本の仕事は立て込んでいた。けれどそれは、ウインターカップに出場する山王の応援に行くために前倒しで仕事を詰め込んでいたからだ。先週の自分のおかげで一之倉の看病のために使う時間ができたのだから、自分で自分に感謝したくなる。
「初戦は観に行けないけど、二回戦は行けるだろ? 後輩たちには絶対に勝ち残ってもらわないとな」
 松本の言葉に、一之倉がふふっと小さく笑った。松本の手のひらをくすぐる吐息までが熱い。
「二回戦、クリスマスだね」
「ああ」
「東京体育館に行って、全力で応援して、帰り道の居酒屋でガラガラの喉にビールを流し込むわけだ」
「最高のクリスマスだな」
 笑おうとした一之倉の喉から、咳が溢れた。
「ポカリ飲むか?」
 松本が慌ててコンビニの袋に伸ばそうとした手は、一之倉の手にいっそう強く引き寄せられる。
「もうちょっと、このまま……
 そう言うと、一之倉はまぶたを閉じた。そのまま、熱い頬と冷たい手のひらの温度が一緒になるまで、ふたりはじっと黙り込んでいた。