夢を見る。
キリルが微笑んでいる。
『ファルカさん』
手を伸ばしても近づくことはできない。
『貴方はここで死ぬべき人ではありません』
やめてくれ。
『だから、僕がーーー』
やめてくれ!!
叫びながら起き上がる。
呼吸は乱れ、涙が溢れる。
窓の外を見ると、朝日が昇っていた。
深呼吸をして、無理矢理落ち着かせる。
朝がきた。俺は西風騎士の大団長、北風騎士のファルカだ。
そう言い聞かせ、顔を叩いた。
ーーーーーーーー
キリルが死んだのは紛れもなく俺が未熟だったからだ。
ナドクライにアビスの魔物が一斉攻撃を仕掛けられた際に、俺は重傷を負った。
栄誉騎士がアビスの浄化をしてくれたが、間に合わなかった。
アビスの侵食が魂まで及んでしまい、俺は死の縁に立たされた。それを、キリルがーーー
『ファルカさん、貴方はここで死ぬべき人ではありません。
だから僕がーーー貴方の魂を燃やしましょう』
そう言い残してキリルは俺の中に消えたらしい。
キリルの持っていたランプから蒼炎は消え、姿も消した。
俺は回復したが、キリルはどれだけ探しても、何をしたのか方法を探ってもなにも見つからなかった。
そして、モンドに帰還する日が来てしまった。
以来、毎晩夢を見る。キリルが微笑んでいる。だが、何もできない。己の無力を嘲笑うかのようで。
『フェイである僕と、人間である貴方とは寿命の差があります。貴方を失う時が来たら、僕はどうすればいいのでしょう』
『その時は、キリルの蒼炎に俺の魂をくべてくれ。そうすればずっと一緒だ』
恋仲になって間もない頃のやり取りを思い出す。
人間とフェイに寿命の差がある。
置いて逝く覚悟はあった。
ーーーでも、置いて逝かれる覚悟はなかった。
「
………馬鹿だな、俺は」
置いて逝かれるのがこんなに辛いのに、キリルに強要しようとしていた俺が馬鹿だったのだ。
ーーーーーーーー
今、俺が生きているのは西風騎士の大団長という立場と、キリルの意志があるからだ。
表向きには、普段通り振る舞えている。
ジンを始めとする他の西風騎士にも気付かれていないようだ。
栄誉騎士は何度か会いに来てくれた。キリルの探索依頼の進捗と、俺の様子を見に来ているようだ。
平和になったナドクライの様子を報告してくれる。
ライトキーパーでは、キリルは行方不明扱いになっているようだ。
ーーー俺のせい、だ。
内心思った事を隠す。
「ファルカ、大丈夫?」
「なんのことだ?」
そうだ、俺は西風騎士の大団長、ファルカだ。
惚けると、栄誉騎士は疑いながらもナドクライに戻っていった。
大丈夫だ。俺はここで死ぬわけにはいかない。モンドのためにも、キリルのためにも、生きなければならない。そう言い聞かせる。
『ファルカさん』
ふと、夢に出てきた微笑むキリルを思い出した。
目を瞑り、頭を振る。
思い出してはだめだ。
思い出したら、泣き崩れてしまうから。
ーーーーーーーー
今日も西風騎士の大団長として職務をこなす。
気がつけば夜になっていた。
モンド人であれば、仕事終わりは酒に溺れるべきなのだろう。
だが、キリルが死んでからは自宅で飲むようにしていた。
万が一、泣き崩れたら大変なことになる。
そう帰路についていた。
「やぁ、ファルカ。迷える子羊のような顔をしているね」
「バルバトス
…」
風神バルバトスが目の前にいた。
見透かされるような目に、思わずたじろぐ。
「
…俺なら大丈夫だぞ」
「そんな泣きそうな顔で言われても説得力ないよ」
「
………」
「ずいぶん酷い顔をしているね。あの妖精の事かい?」
呼吸が止まる。
バルバトスはライヤーを響かせながら唄う。
「妖精は蒼炎を燃やし、愛しき騎士の生命を救った。だが、騎士は最愛の妖精を失ってしまった。
ーーーでもね、勘違いしているよ」
バルバトスの言葉に顔を上げる。
「少しだけ風を送ってあげよう。炎には風が必要だからね」
ライヤーが響き、風が俺の身体を包み込む。
意識が、遠ざかる。
ーーーーーーーー
白い空間にいた。
目の前には、キリルがいる。
「ファルカさん」
キリルが呼び掛ける。
手を伸ばす。
キリルの肩を掴む。
…触れられる?
「ファルカさん」
キリルの呼び掛けに堪えきれず、抱き締める。
温もりを感じる。
涙がこぼれ落ちる。
「ファルカさん?どうしたんですか?」
キリルが、戸惑いながらも頭を撫でる。撫でてくれている。
俺は声をあげて泣いた。
ーーーーーーーー
「
…落ち着きましたか?」
「
………ああ」
どれくらい泣いただろうか。
ようやく落ち着き、少しだけ腕を緩める。
キリルが、心配そうな顔をしていた。
まるで、生きてるかの如く。
「僕は、生きていますよ」
「
………本当なのか」
「本当ですよ。正確に言うと、貴方の魂と融合しています」
アビスに侵食され、俺の魂が欠けてしまった。
だから、キリルは蒼炎に戻り、俺の魂と融合した、らしい。
「今までは貴方の魂を保つために意識を集中していたので外界がわかりませんでした。
…そこまで泣かせてしまうとは、申し訳ありません」
「
…キリルは悪くない」
「でも貴方を傷つけました」
キリルが俺に抱きつく。
「今はまだ魂を保つ必要がありますが、回復していったらこうやって触れ合えますよ」
「
………本当か?嘘じゃないよな」
「嘘じゃありません。そのうち意識の共有もできるようになります。
…だから、笑顔を見せていただけないでしょうか」
大泣きした後で、顔がぐちゃぐちゃだ。
でも、最愛からの頼みだ。
顔は自然と笑顔になった。
「
…よかった」
キリルが微笑んでいる。ずっと見ていたい。
なのに、視界がぶれる。
「どうやら、お別れの時間のようです。大丈夫です。僕は貴方と共にいますよ。風を送ってくださった優しい神様にお礼を伝えて下さい。また、会いましょう」
意識が、遠ざかる。
ーーーーーーーー
「目が覚めたかい?」
目を開けるとバルバトスがライヤーを響かせていた。
「あぁ。ありがとうな、バルバトス」
「今度こそ本当に大丈夫みたいだね」
キリルは、俺と共にある。
まだやるべきとがある。
明日には栄誉騎士に連絡を取らないと。
各国を旅した栄誉騎士なら、魂に詳しい者に心当たりがあるだろう。
大人しく回復を待つなんて、俺らしくもない。待っていてくれ。
心臓に手を当てる。ほのかに温もりを返してくれた、そんな気がした。
北風騎士が蒼炎のランプを掲げるようになるのは、遠くない未来の話。
あとがき
ファルカは置いて逝く覚悟はあるけど、置いて逝かれる覚悟はないよな
フリンズがファルカの魂と融合しないかなーそしたら永遠に一緒じゃんというフリー素材妄想を組み合わせたお話でした。
最終的にはフリンズ実体化もできるようになるので、フリンズ召還してファルカの命を守るようになるやつ。融合したから分離は難しいけど、このままでいいかとなるやつ。永遠にいちゃついてください。
続きました
蒼炎はあなたと共にある② | Privatter+
https://privatter.me/page/693a8e252b912
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